ダブルソード 第二章 ~アドラ編~

磊蔵(らいぞう)

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第34話 女将再び

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――翌朝、和哉は不機嫌なまま目覚めた。

理由は昨夜もギルランスがソファで寝たからだ。
押し問答の末、結局諦めて和哉がベッドで眠ったのだが、朝起きたら案の定ギルランスは体のあちこちを痛そうにしていた。

(全くもう……ホント意地っ張りなんだから……)

そんな事を思いながらベッドから下りた和哉は、体の節々をさすりながら身支度を整えているギルランスに声を掛ける。

「おはよー、ギル、やっぱりソファなんかで寝るから体痛いんだろー?」

その言葉にギクリとしバツの悪い顔をするギルランスだが、やはりそこは男としてのプライドがあるらしく、何でもないような素振りで答える。

「い、いや、別に平気だ」

(いやいや、明らかに強がってるでしょ!?)

そう思いつつも口には出さず、代わりに提案する。

「そっか、それならいいけど……でも、今夜こそギルがベッド使ってよ!僕がソファで寝るからね!!」

和哉がそう言うとギルランスは慌てた様子で口を開いた。

「何言って――」

「ギル?」

反論しようとするギルランスの言葉を遮るように和哉が名を呼ぶと、ギルランスはグッと押し黙る。
暫しの睨み合いの末、やがてギルランスは諦めたように溜息をついた。

「……わ―ったよ!今回はお前の勝ちだな」

そう言って降参とばかりに両手を上げる仕草をした。
そんなギルランスに和哉はニッコリと笑ってみせる。

「分かってくれればいいんだよ♪」

「ったく、お前ってやつは……じゃあ今晩はありがたく使わせてもらうとするか……」

渋々といった風だったが、了承してくれた事に満足しながら和哉は頷いた。

そんなやり取りの後、二人は軽く朝食を摂るため酒場へと降りて行き、今日の予定などを話しながら食事をしていると突然声を掛けられた。

「あら!あんたたちも祭りに来たのかいっ!?」

声のする方に目をやると、見知った顔の恰幅の良い中年女性が立っていた。
なんと、ガラク村の宿の女将だった。

「あ!ガラクの女将さんじゃないですか!?なんでここに!?」

まさかの人物に驚きを隠せない和哉は目を丸くしながら女将を見上げる。
二人のテーブルの脇に立ち女将は例の豪快な笑みを浮かべていた。

「なんでって、祭りを見に来たに決まってるじゃないか!あんた達も同じだろ?」

「え?いや、まぁ……」

和哉はなんと説明したらいいのか分からず、曖昧に答えながらチラリと前の席にいるギルランスを見る。
ギルランスも驚いた顔をみせていたが、取り敢えず無視を決め込んだらしく黙々と食事の続きを口に運んでいた。
だが、そんな二人の様子などお構いなしで女将の話は続く。

「どうだい?相変わらず仲良くやってんのかい?」

嬉しそうに笑いながら女将は和哉とギルランスを交互に覗き込んだかと思うと、無視を決め込んでいるギルランスの肩をツンツンと突っつき「ん?」と返事を促す。

(あちゃ~……女将さん……ギルってこういうの苦手だと思うんだけど……)

和哉がヒヤヒヤしながら見守るなか、さすがのギルランスもいきなりキレるような事はなかったが、代わりに不機嫌顔を隠す事無く鬱陶しそうに女将を睨み付けた。

「うっせえな……見ての通りだ」

ぶっきらぼうに答えるギルランスにもひるむことなく、女将はカラカラと笑い声をあげる。

「なんだい、愛想のない男だねぇ!もっと他に言い方ってもんがあるだろうに!でもうまくいってるようで、良かったよ!!」

嬉しそうにそう言って、和哉の背中をバンバン叩きながらまた「アッハハ」と豪快に笑った。

(ぐはっ!!痛い……)

あまりの勢いに咳き込んでいる和哉に、今度は声のトーンを落とした女将がそっと耳打ちをする。

「ところで坊や、もうあの瓶は使ったかい?」

「……え??……あっ!!」

そう聞かれた和哉はハッと思い出した。
以前、ガラク村を出るときに女将から『潤滑油』なるものを貰ったのだが、いったい何のために使う物なのかさっぱり分からずずっとそのままになっていたのだ。
すっかり忘れていた和哉が思わず声を上げると、女将はまたまた豪快に笑った。

「ハッハッハ!その様子じゃ忘れてたみたいだね」

図星を突かれた和哉は「ハハ……すみません」と苦笑いするしかなかった。
そんな和哉の様子を見て、女将はなにか悟ったようだ。

「……と言うことは……あんた達はまだなのかい?」

意外そうに驚く女将の言っている事が理解できずに和哉とギルランスが顔を見合せ首を傾げていると、女将は呆れたよう溜め息をつく。

「まったく、しょうがないねぇ……あんたら、そうなんだろ?」

(は?)

「え、えっと……??」

毎度の事ながら意味不明な女将の言葉に和哉は困惑するばかりだった。
と、その時また別のほうから声を掛けられた。

「あら、これは珍しいお顔触れですね?」

見るとそこにいたのはルーラだった。

「あらあら、ルーラさん、久しぶりだね!」

「はい、お久しぶりでございます、アマンダ様」

どうやらガラクの女将とルーラは顔見知りらしく、名前を呼び合うくらい親しい間柄のようだ。

「アマンダ様はお祭りに来られたのですか?」

「ああ、そうだよ!久しぶりに祭りを堪能しようと思ってね!」

穏やかな笑みを浮かべながら問い掛けるルーラに、女将は笑顔で答えた後に声を潜めて耳打ちをする。

「それはそうと、ルーラさん……この二人って……まだ……」

(ん?)

何を話しているのか気になった和哉は耳を傾けるが、よく聞こえない。
アマンダの問いにルーラもまた眉尻を下げながらヒソヒソと答えていた。

「ええ……のようです……まだ……ご自覚……いないよう……」

(んんん??)

二人が何を話しているのかよく分からなかったが、どうやら自分が関係しているらしい事だけは察した和哉は、戸惑いながらも口を挟んでみる。

「えっと?なんの話……ですか?」

すると女将とルーラは同時にハッとし和哉を見てから、再び顔を見合せて溜め息交じりの苦笑いを浮かべた。

「まぁ、こればっかりは他人が口出しする事じゃないからねぇ……」

「ええ……そうですね」

うんうんと頷き合う二人の様子にますます訳がわからなくなった和哉は「あの~」と声を上げるが、それを遮るように後ろから声が掛かった。

「おい、カズヤっ!」

振り返ると、いつの間にか食事を終えたギルランスが不機嫌そうな顔をして食堂の入り口に立っていた。
その姿に女将は思い出したように慌てて手を打つ。

「おっと、私もそろそろ行かなきゃ!じゃあ二人とも楽しんでおいで!」

「私も用事がございますので、失礼いたします」

ルーラもまたそう言うと、二人はそそくさとその場を去って行ってしまった。
結局また訳の分からないまま取り残されてしまった和哉は呆然と立ち尽くしていたが、ギルランスの苛立った声に我に返る。

「おい、何ぼさっとしてんだ!?さっさと行くぞ!」

「あ、うん!」

慌てて席を立つとギルランスの後を追うようにして和哉も酒場を後にし、そのままギルドへと向かった。
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