ダブルソード 第二章 ~アドラ編~

磊蔵(らいぞう)

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第34話 魔獣討伐依頼

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朝からギルド内は相変わらずの賑わいを見せており、依頼書が貼られている掲示板の前も人で溢れかえっていた。
だが、和哉たちが行くとやはり自然と人垣が割れて行く。
おかげで今朝もスムーズに掲示板の前に辿り着く事が出来た。

(おお~!なんかモーゼの海割りみたいだ)

周りの皆は遠巻きにチラチラとこちらを気にしているようだが、その視線が以前のように刺すようなものでは無くなっている事に和哉は気が付いた。
どうやらあの一件以来、少しは認めてもらえたらしいような気がして嬉しくなる。
ギルランスもその様子に気付いたのかどこか満足げな表情を浮かべていた。
そんな中、早速二人は掲示板で今日受ける依頼を探す。

「さてと……今日はどれにしよっか?」

張り出されている依頼書を一枚一枚確認しながらワクワク顔で探す和哉に、ギルランスは呆れたような溜息をついてから口を開いた。

「あのなぁ……A級の俺はいいとして、お前はまだEランクのクエストを一つしかこなしてないって事を忘れるなよ?」

「うっ……そうでした……」

ギルランスに釘をさされ、和哉は少々凹んでしまう。

「俺達が受けられるのはせいぜいDランク、よくてもギリCランクまでだな」

「はい……」

シュンとする和哉の顔を見てギルランスはフッと苦笑いを浮かべると、徐に一枚の依頼書を指差した。

「ってことで、こいつならどうだ?」

ギルランスが指差した先には、Cランクの依頼書が貼られていた。
内容は『魔獣の討伐』と書かれている。

北の森の中に最近になって凶暴化した狼型の魔獣が出現し群れを成し、近隣の村に被害が出ているため、早急に駆除して欲しいというものだった。
いかにも冒険者らしい討伐系の依頼――しかもランクCの難易度という、今の自分にはなかなかハードルが高めではあるものの、ギルランスとのコンビを考えれば達成可能と思われる依頼内容に、和哉は目を輝かせた。

「おお!Cランクの依頼!しかも魔獣退治ってカッコイイ!!これにしようよ!」

「だな……ま、お前の分も俺がキッチリ仕事すりゃいいし、よし、決まりだな」

既にやる気満々な和哉の様子を見て笑いながらギルランスは依頼書を剥がし、受付カウンターに向かった。

「ではこちらの依頼ですね……はい、受領完了しました」

和哉とギルランスは手続きを終えると、「では、お気をつけて」という受付嬢の言葉に見送られながらギルドを後にした。

――*――*――*――*――*――*――
【魔獣の群れの討伐】
【依頼主】北の森『ハーデイ』(代表:クラニード)
【ランク】C
【詳細】北の森に狼型の魔獣が増え、群れを形成しているようで、『ハーデイ』及びその周辺の村々に被害が続出しています。
早急に魔獣の駆除をお願いします。
――*――*――*――*――*――*――

――街を出て馬車で北に向かうこと二時間ほど経った頃、ようやく目的の森に到着した。
なかなかに深い森のようだ。
そのままゆっくりと馬車を進め森の中へ入って行く。
馬車一台がやっと通れるくらいの幅しかない道の両脇には鬱蒼うっそうと茂る暗い森が広がっていた。

ガタゴトという馬車の音と、時折鳥の鳴き声が聞こえるだけの静寂な空間――和哉はその神秘的な雰囲気に少し緊張しながら辺りを見回し、思わずゴクリと喉を鳴らす。
そんな和哉を知ってか知らずか、相変わらずマイペースな様子のギルランスが思い出したように口を開いた。

「そういや、カズヤ、知ってっか?この森、出るらしいぜ……?」

「え……?出るって……何が……?」

ギルランスの言葉に和哉は顔を引きつらせながら聞き返す。

(”出る”ってまさか……オバケとか、言わないよね……?)

嫌な予感を覚えつつ恐る恐る尋ねる和哉に、ギルランスは悪戯っぽくニヤリと笑った。

「幽霊だよ、ゆ・う・れ・い!」

「――っ!」

(やっぱりぃぃぃ!)

途端に和哉の顔から血の気が引いていく。
当たって欲しくない予感の的中に、内心ではパニック状態になっている和哉だったが、必死に平静を保とうとしながら震える声で答えた。

「あ、あはは……冗談だよね……??」

引き攣った笑顔を浮かべる和哉とは裏腹に、ギルランスはどこか楽しそうな表情を浮かべている。

「ああ、俺も聞いただけだから詳しくは知らねぇけどな……なんだ、お前怖ぇのか?」

ニヤニヤと笑いながらわざと挑発してくるギルランスに、和哉はムッとして言い返す。

「べっ、別に怖くなんかないし!」

図星を突かれながらも否定してみせるが、その声は完全に震えていた。
そんな和哉の様子を見て、ギルランスは可笑しそうにククッと笑いを零す。

「ふーん?ま、どっちでもいーけどよ(笑)」

(くぅ~、完全に遊ばれてるし!)

なんだか悔しくて、何か反撃出来ないかと思案を巡らせる和哉だが、何を言ってもからかわれるのが目に見えているので、とりあえず今は諦めておく。
いつかきっと反撃の機会が巡ってくるはずだ!などと思いながら和哉は自分を納得させた。
そんなやり取りをしている時だった。

――ガサガサッ!!

不意に道脇の藪が音を立てたかと思うと、5匹の魔獣が馬車の前に躍り出てゆく手を塞いだ。

(ウッソ……!もう現れたの!?)

想定より早い魔獣の出現に和哉は息をのむ。
おそらく、これが依頼書に載っていた例の魔獣だと思われるが……。

「グルルルルゥ……!」

5匹とも全身が真っ黒で普通の狼よりもはるかに大きく、見るからに獰猛そうな雰囲気を醸し出していた。
赤い目を光らせ、涎を垂らしながら鋭い牙を剥き出して唸るその姿は、和哉の想像の何倍も危険な存在である事を如実に表していた。

(こ、これは……!?)

和哉が一瞬ひるんでしまったその瞬間――不意に隣にいたギルランスが立ち上がったかと思うと、馬車から大きく跳躍し、そのまま魔獣たちの中に跳び込んで行った。
その動きは瞬きよりも早く、和哉が気付いた時には既に攻撃を仕掛けた後だった。

「ギャンッ!!」

いつの間にか抜き放った双剣を手にしたギルランスは、目にも止まらぬ速さで魔獣たちを斬り裂いていた。

(早っ!)

一瞬の出来事だった。
和哉が認識した次の瞬間には、もうすでに二匹目の魔獣が倒れていた。
だが、その時、もう一匹がギルランスに向って飛びかかって行くのが和哉の目に入った。

「ギルっ!!」

咄嗟に声を上げる和哉――しかし、既にギルランスは反応していた。
飛びかかって来た魔獣に向かい体を捻りながら右脚を振り抜くと、その脚は見事に魔獣の側頭部を捉えた。

「ギャンッ!!」

悲鳴のような声を上げて横に薙ぎ倒された魔獣に容赦なくギルランスの剣が振り下ろされた。

「あと2匹!」

魔獣を斬り倒したギルランスの声を聞いてハッと我に返った和哉は、咄嗟に弓を構え矢を番える。
見惚れてばかりでなく自分も仕事しろ!と内心で自分を叱咤しながら集中して狙いを定めた。

「ギル!10時の方向!一匹は僕がやる!」

「了解!」

ギルランスが最後の一匹に迫って行くのを目の端にとらえながら和哉が一匹を仕留め終えたときには、もう全て終わっていた。
あっという間の出来事だった――。

「お疲れさん」

「あ、うん……お疲れさま」

息一つ乱れていない涼しげな顔で剣を鞘に収めながら馬車に戻って来るギルランスに笑みを返しながら、和哉は少し複雑な思いを抱いていた。

(いつ見ても凄いな……)

改めてギルランスの強さを再確認する和哉だったが、同時に今回もほとんど何も出来ていない自分が情けなく感じていたのだ。

「よし、先に進むぞ」

ギルランスの言葉に促され、和哉は慌てて顔を上げ前を向く。

(当然だけど、まだまだギルの足元にも及ばないや……よし!もっとがんばるぞ!)

グッと拳を握りしめて気合いを入れ直す和哉を乗せた馬車は、森の中にあるという『ハーデイ』へと向かって進んで行った。

魔獣を倒した場所から更に少し奥へ進んだところで、森が開けた場所に出た。
その場所には小さな畑と家らしきものも数軒見える事から、ここが今回の目的地である『ハーデイ』のようだ。

開けた場所を中心に左右に細い小道が延びており、その先はまた森の中へ通じていた。
ここで馬車から降りた二人はルカを待たせ、一軒の家のドアをノックする。

「はいはい……どちらさんで?」

中から出てきた初老の男は、二人の姿を見るや目を見開き大袈裟なほど嬉しそうな声を上げた。

「おお!もしかしてギルドから派遣されてきた冒険者さんかい!?」

「ああ、そうだ」

「はい」

頷くギルランスと和哉に男は待ってましたとばかりに畳み掛けるように話し始めた。

「いやぁ、良かった!お前さんたちが来てくれて助かるよ!実は最近この辺りの魔獣が増えてきて困ってたんだよ!しかも妙に凶暴性を増してて……」

話を聞く限り、この男が依頼書にあった代表者のクラニードなのだろうと思われる。

「まぁとにかく、まずは中に入ってくれ!詳しい話はそこでしよう!」

そう言ってクラニードは二人を家の中へ招き入れた。

「改めまして、私はクラニードと申します」

席に着いた和哉とギルランスの机を挟んだ向かいに腰を下ろしたクラニードはそう言って頭を下げた後、「早速ですが――」と今回の依頼について説明し始めた。

――クラニードの話によれば、この森は以前はとても豊で静かな森だったようだ。
だが、ある日を境に魔獣が増え始め今では頻繁に襲ってくるようになったという。

森の中にはここのような開けた土地がいくつかあり、それぞれの場所に同じように数軒からなる集落があって人々が住んでいるとのことだ。
その集落全てを合わせたひとつの町として、『ハーデイ』と呼ばれているらしい。

今までは各集落の男たちが交代で森に入り、魔獣を退治していたが、最近はその数がどんどん増え手に負えなくなり、幾つかの集落は魔獣に襲われ絶えてしまったようだ。
そのため、今回依頼を出したのだという。

「なるほど……」

話を聞いた後、顎に手を当て考え込むように呟くギルランスの横で、和哉も同じように考え込んでいた。
そこでギルランスが顔を上げクラニードに尋ねた。

「魔獣ってのは基本どっかに巣があるもんだ――そこを叩ければ話が早い。何か心当たりはないか?」

その質問にクラニードは難しい顔で答えた。

「はっきりとは分かりませんが……おそらく、森の奥にある洞窟ではないかと思うのです。ただ、あそこは昔から誰も近づかない場所で、しかも最近では魔獣に襲われる危険もあって、実際に調べに行った者はおりません。なので確証はありません……申し訳ありません」

申し訳なさそうに頭を下げるクラニードを見て、ギルランスは軽く手を上げる。

「いや、別に謝る事じゃ……それよりその洞窟ってのはどこにあるんだ?行ってみねぇ事には分からんからな」

その言葉にクラニードは頷き地図を出し説明を始めた。

それによると、今いる場所から林道を東に暫く進むと一つ集落があり、その先で道が二手に分かれているようだ。
右の道は次の集落へ続いているそうだが、左の道はさらに奥へと続いていて、どうやらそこが例の洞窟らしい。
そこまでの説明を聞いてからギルランスは顔を上げ、和哉に向き直る。

「よし、じゃあとりあえず行ってみるか」

「そうだね、向かってみよう」

二人は頷き合うと早速出発した――。
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