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第37話 『青龍』
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(なんだか可哀想だけど、怖い話だな……)
読み終えた和哉はそっと本を閉じると、元の場所にそれを戻す。
隣のギルランスは何も言わずじっと本を眺めていたが、やがてフッと息を吐き何か言おうと口を開きかけた――その時だった。
ふいに書斎のドアがガチャリと音を立て開いた。
慌てて振り返った二人の目に飛び込んできたのは、驚いた様子で立ち竦んでいる一人の女性の姿だった。
「ど、どなたですか……?」
どうやら、この家の住人のようだ。
震える声でそう尋ねる女性に対し、ギルランスは落ち着いた口調でゆっくりと答える。
「俺たちは冒険者だ。クラニードさんに依頼を受けてこの森の魔獣討伐に来た。あんたは……?」
怯えた様子の女性を落ち着かせるかのように、いつもよりも穏やかな口調でゆっくりと語りかけているギルランスに、和哉はまた少し彼の優しさに触れたような気持ちになった。
(やっぱ、なんだかんだ言ってもギルって根は優しいんだよな)
「勝手に入ってしまってすみませんでした。驚かせてしまいましたね……」
和哉もまた同じように彼女を安心させるように話し掛け、頭を下げた。
二人の言葉に女性は少し落ち着いたのか、驚きと緊張に強張っていた顔を少し緩めた。
「ああ、そうなんですね……よかった……最近この辺りは魔獣が多くなってきていて怖かったので……これで安心ですね」
そう言うと胸に手を当てホッと息をついた。
「申し遅れました、私はリリスと申します」
(――!)
その名前を聞き、二人は彼女がこの日記を残したジュールの妻である事を確信し、お互い顔を見合わせると頷き合った。
その様子を見て不思議そうな顔をした彼女に、和哉が尋ねた。
「失礼ですが、グレイスという名前の女性をご存知ですか?」
それを聞いた彼女は一瞬驚いたような表情を見せた後、すぐに目を伏せた。
「……はい……知っています……」
その反応を見た和哉は自分の考えが正しかったかもしれない、という手応えを感じつつすかさず次の質問を投げかける。
「そのグレイスさんについて何か知っている事があれば教えて下さいませんか?」
和哉の問いかけに、リリスは少し間を置いてから静かに話し始めた。
「はい……三か月ほど前に私の夫が亡くなってしまったのですが……その夫が病床についた際に言っていたのです――」
そこまで言うと、リリスは亡くなってしまった伴侶を思い出したのか、涙ぐみ声を詰まらせた。
だが、それでもなんとか気を取り直し彼女は話を続ける。
「……夫は亡くなる直前にこう言ったんです。『グレイス』という名の女性を知っているかと……その時は何の事か分からなかったんですが、しばらくして夫の遺品を整理していると日記と古い本が出てきたんです……そこに書かれていた内容を読んでようやく彼女の事が分かリました……」
そこでギルランスがテーブルの上の本を手に取り、リリスに見せた。
「この日記と本だな?」
それを目にした途端、彼女の顔色がさっと変わった。
「そうです!どうしてそれを!?……夫の……夫の日記です!夫と一緒に棺に納めたはずなのに……!?」
リリスが興奮気味に叫んだ次の瞬間だった――突然フッと燭台の灯りが消え、また薄暗い室内に逆戻りする。
((――!))
和哉とギルランスが驚くなか、灯りが消えた薄闇でリリスは大きく目を瞠り、何かを凝視するように一点を見つめていたかと思うと、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めたのだ。
彼女のその視線は和哉たちのその後ろを見ているようだった。
「……あ、あなたなの……?ジュール……私の愛しい人……」
その言葉にハッと振り返ると、先程まで誰もいなかったはずの部屋の隅に一人の男が立っていた。
それは和哉たちをこの家に招き入れたあの不気味な男だった――この男こそが”ジュール”なのだろう。
ジュールはリリスに頷くと静かに口を開いた。
「……リリス……愛してる……君を、助けたい……」
それだけ言うとまたジュールの姿はフッと消えてしまった。
「待って!ジュール……!」
リリスは消えてしまった夫を呼び止めるように手を伸ばしながら泣き崩れてしまった。
「ジュール……私も愛してる……」
夫への愛の言葉と共に嗚咽を漏らしてうずくまるリリスの姿に、和哉とギルランスは何も言えずただ黙って見つめるしかなかった。
「リリスさん……」
涙にくれるリリスになんと言ってあげればいいのか迷いつつも、和哉が彼女の肩に手を置いたその時、突然視界がグニャリと歪む感覚に襲われた。
(え……?何……?)
周囲の景色が水面の波紋のように揺れたかと思うと、勢いよく渦を巻くように回り出し、そしてそのまま何も見えなくなっていく。
「うわっ!?」
「なんだっ!!」
思わず声を上げてしまうほどの激しい回転だったが、それも束の間のことで次第にその勢いは弱まっていくが……。
気が付けば和哉とギルランスの前には、今までとは全く違った景色が広がっていた。
そこは先ほどまでいた薄暗い部屋の中ではなく、どこかの森の外れのような場所だった。
「……あれ?ここは……?」
困惑しながらキョロキョロと周囲を眺める和哉にギルランスが冷静な声で告げた。
「どうやら違う場所に飛ばされたみてーだな……」
「えっ!飛ばされたって……ここ、どこ??」
突然のことに戸惑いつつも、とりあえず現状を把握しようと辺りを見回す二人の目に、少し離れたところの山肌に空いた洞窟らしき穴に駆け込んでいくリリスの姿が映った。
「あっ!リリスさんだ!」
慌てて追いかけようとする和哉をギルランスがすかさず制止した。
「待て!カズヤ!」
(――え!?)
その声で立ち止まった和哉もそこでハッと気が付いた。
自分たちが立っている場所を中心とした地面に大きな魔法陣の紋様が浮かび上がっていたのだ。
それは赤い光を放ち、どんどん輝きを増していき……。
そして、そこから何匹もの例の狼型魔獣が現れた――いや、現れたというより地面から湧き出てきたという方が正しいだろう。
どうやら奴らに完全に包囲されてしまったようだ。
「チッ、召喚術の一種か……厄介な相手だぜ……」
そう言って舌打ちをするギルランスの隣で、周囲を警戒しながら和哉は急いで背中の弓を手に取る。
「ギ、ギル、これって……?」
「ああ、この魔法陣で召喚されたんだ……まぁ、この感じだと……相手はあの魔女だろうな……」
ギルランスの言葉に和哉はゴクリと唾を飲んだ。
あの本にあった魔女が復活したという事なのか……? だとするならば、これはまずい状況であるのは間違いなかった。
「来るぞ!」
ギルランスの言葉と同時に召喚された多数の魔獣たちが一斉に二人に向けて飛びかかって来た。
迎え撃つギルランス同様、和哉もまた魔獣の攻撃を躱しつつ、自身の弓で反撃をする。
放たれた矢が次々と敵を射抜いていくかたわらで、相変わらず見事な動きを見せるギルランスの剣捌きで倒れていく魔獣たち――だが、そんな二人の奮闘も虚しく、どれだけ倒しても魔法陣からは次々と新たな敵が沸き出てくるのだ。
「くそ!鬱陶しい!!」
「ギル!この魔法陣、なんとかならないの?」
うんざりしたように吐き捨てるギルランスに、和哉が矢を放ちつつ叫ぶように問いかけた。
「無理だ!見た感じ相当複雑な術式だ。俺の魔法じゃ壊せねぇ……!」
剣を振るいながら苦々し気に答えるギルランスの横で、和哉は必死に弓を射ち続けた。
二人は次々襲い掛かって来る魔獣たちを倒していくが、倒した先から魔法陣の中に魔獣たちが湧いて出て来る。
(これじゃキリがない!どうすれば……?)
戦いながら和哉が思案していると、ふとギルランスが何か思いついたようだった。
「おい、カズヤ!こっち来い!」
「何?」
「いいから早くしろ!」
よく分からなかった和哉だが、急いでギルランスに駆け寄る――と、いきなり腕を引っ張られ、そしてそのまま抱き寄せられた。
「――!?」
「いいか、このままじっとしてろよ?」
突然の事にギョッとする和哉に構うことなく、ギルランスは片手で和哉の肩を抱きつつ、もう片方の手で双剣の一つ『青龍』を掲げ何やら詠唱を始めた。
するとパキキ――という音と共に『青龍』の刀身に冷気のようなものが纏わりつき始めた。
それは次第に大きくなっていきやがて凍り付いたように白く染まった。
一閃――!ギルランスはその剣を横薙ぎに振るう――すると氷の刃のような斬撃が勢いよく飛び出し、魔獣たちを次々と切り裂いて行った。
魔獣たちは断末魔の叫びを上げ次々に倒れていき、一瞬にして、今地上に現れている奴らは一層された。
だが、魔法陣からは更なる新手が湧いて来ようとしている。
ギルランスはさらに続けて詠唱を唱えると、今度はガッと『青龍』を地面に突き立てた。
次の瞬間、その剣を中心に放射状に床が氷結し始め、あっという間に魔法陣全体を覆うように地面が凍り付いた。
魔法陣から出て来ようとしている魔獣たちも途中で凍り付いてしまい、まるで氷のオブジェのように身動きが取れなくなっている。
(うわ、まるでスケートリンクみたいになってるよ)
和哉がその見事なまでの凍結具合に感心していると、すぐ後ろから声がした。
「よし、これで大丈夫だろ」
その言葉に振り返った和哉は、そこで初めて自分の置かれている状況に気が付いた。
今、和哉はギルランスに後ろから肩に手を回され抱き締められているような恰好なのだ。
途端に和哉の心臓が跳ねる。
(わわっ!)
慌てて離れようとしたその時だった。
「――うわ!!」
和哉は氷でツルツルになっている床で足を滑らせてしまった。
「おっと!」
思わず転びそうになったところを、後ろから伸びて来たギルランスの腕が腰に回され引き寄せられる。
「あ、ありが――」
礼を言いながら顔を上げた和哉だが、その言葉の途中で息を呑み、全てを言う事はできなかった。
なぜならすぐ目の前にギルランスの顔があったからだ。
それはお互いの吐息を感じられるほどの近い距離だった。
ギルランスのほうも驚いたように目を見開いている。
瞬間、時が止まったような錯覚を和哉は覚えた。
ギルランスの琥珀の瞳に吸い込まれそうになる。
二人とも互いの目が離せない……。
と、その時だった、唐突にバサバサッと鳴り響く羽音に二人はハッと我に返った。
見ると近くの木の枝に一羽の大きな鳥が止まっていた。
どうやらさっきの音はこの鳥の飛び立つ時のものだったらしい。
ギルランスは気まずそうにフイッ顔を逸らすと、すぐに和哉からパッと手を離し一歩後ろに下がった。
(あ……)
その瞬間、和哉は離れて行く温もりを残念に思う自分に気付き慌てて頭を振った。
(な、何考えてんだ僕!こんなの……こんなの友達同士だってあることだ!)
そんな和哉に顔を背けたまま、ギルランスは剣を振り上げると、氷でおおわれた地面をゴッと突く。
すると大きな音を立て凍結していた魔獣もろ共魔法陣が一気に粉砕した。
粉々になった氷の欠片たちがキラキラと舞い散り幻想的な光景を作り出していた。
その中心にいるギルランス――その姿は美しくもあり、どこか儚げでもあった――。
そんな光景に目を奪われている和哉に振り返ることなく、ギルランスは「リリスを追うぞ」とだけ言うと、そのまま走り出した。
「あ、うん……」
和哉は慌てて頷くとギルランスの後を追った――。
読み終えた和哉はそっと本を閉じると、元の場所にそれを戻す。
隣のギルランスは何も言わずじっと本を眺めていたが、やがてフッと息を吐き何か言おうと口を開きかけた――その時だった。
ふいに書斎のドアがガチャリと音を立て開いた。
慌てて振り返った二人の目に飛び込んできたのは、驚いた様子で立ち竦んでいる一人の女性の姿だった。
「ど、どなたですか……?」
どうやら、この家の住人のようだ。
震える声でそう尋ねる女性に対し、ギルランスは落ち着いた口調でゆっくりと答える。
「俺たちは冒険者だ。クラニードさんに依頼を受けてこの森の魔獣討伐に来た。あんたは……?」
怯えた様子の女性を落ち着かせるかのように、いつもよりも穏やかな口調でゆっくりと語りかけているギルランスに、和哉はまた少し彼の優しさに触れたような気持ちになった。
(やっぱ、なんだかんだ言ってもギルって根は優しいんだよな)
「勝手に入ってしまってすみませんでした。驚かせてしまいましたね……」
和哉もまた同じように彼女を安心させるように話し掛け、頭を下げた。
二人の言葉に女性は少し落ち着いたのか、驚きと緊張に強張っていた顔を少し緩めた。
「ああ、そうなんですね……よかった……最近この辺りは魔獣が多くなってきていて怖かったので……これで安心ですね」
そう言うと胸に手を当てホッと息をついた。
「申し遅れました、私はリリスと申します」
(――!)
その名前を聞き、二人は彼女がこの日記を残したジュールの妻である事を確信し、お互い顔を見合わせると頷き合った。
その様子を見て不思議そうな顔をした彼女に、和哉が尋ねた。
「失礼ですが、グレイスという名前の女性をご存知ですか?」
それを聞いた彼女は一瞬驚いたような表情を見せた後、すぐに目を伏せた。
「……はい……知っています……」
その反応を見た和哉は自分の考えが正しかったかもしれない、という手応えを感じつつすかさず次の質問を投げかける。
「そのグレイスさんについて何か知っている事があれば教えて下さいませんか?」
和哉の問いかけに、リリスは少し間を置いてから静かに話し始めた。
「はい……三か月ほど前に私の夫が亡くなってしまったのですが……その夫が病床についた際に言っていたのです――」
そこまで言うと、リリスは亡くなってしまった伴侶を思い出したのか、涙ぐみ声を詰まらせた。
だが、それでもなんとか気を取り直し彼女は話を続ける。
「……夫は亡くなる直前にこう言ったんです。『グレイス』という名の女性を知っているかと……その時は何の事か分からなかったんですが、しばらくして夫の遺品を整理していると日記と古い本が出てきたんです……そこに書かれていた内容を読んでようやく彼女の事が分かリました……」
そこでギルランスがテーブルの上の本を手に取り、リリスに見せた。
「この日記と本だな?」
それを目にした途端、彼女の顔色がさっと変わった。
「そうです!どうしてそれを!?……夫の……夫の日記です!夫と一緒に棺に納めたはずなのに……!?」
リリスが興奮気味に叫んだ次の瞬間だった――突然フッと燭台の灯りが消え、また薄暗い室内に逆戻りする。
((――!))
和哉とギルランスが驚くなか、灯りが消えた薄闇でリリスは大きく目を瞠り、何かを凝視するように一点を見つめていたかと思うと、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めたのだ。
彼女のその視線は和哉たちのその後ろを見ているようだった。
「……あ、あなたなの……?ジュール……私の愛しい人……」
その言葉にハッと振り返ると、先程まで誰もいなかったはずの部屋の隅に一人の男が立っていた。
それは和哉たちをこの家に招き入れたあの不気味な男だった――この男こそが”ジュール”なのだろう。
ジュールはリリスに頷くと静かに口を開いた。
「……リリス……愛してる……君を、助けたい……」
それだけ言うとまたジュールの姿はフッと消えてしまった。
「待って!ジュール……!」
リリスは消えてしまった夫を呼び止めるように手を伸ばしながら泣き崩れてしまった。
「ジュール……私も愛してる……」
夫への愛の言葉と共に嗚咽を漏らしてうずくまるリリスの姿に、和哉とギルランスは何も言えずただ黙って見つめるしかなかった。
「リリスさん……」
涙にくれるリリスになんと言ってあげればいいのか迷いつつも、和哉が彼女の肩に手を置いたその時、突然視界がグニャリと歪む感覚に襲われた。
(え……?何……?)
周囲の景色が水面の波紋のように揺れたかと思うと、勢いよく渦を巻くように回り出し、そしてそのまま何も見えなくなっていく。
「うわっ!?」
「なんだっ!!」
思わず声を上げてしまうほどの激しい回転だったが、それも束の間のことで次第にその勢いは弱まっていくが……。
気が付けば和哉とギルランスの前には、今までとは全く違った景色が広がっていた。
そこは先ほどまでいた薄暗い部屋の中ではなく、どこかの森の外れのような場所だった。
「……あれ?ここは……?」
困惑しながらキョロキョロと周囲を眺める和哉にギルランスが冷静な声で告げた。
「どうやら違う場所に飛ばされたみてーだな……」
「えっ!飛ばされたって……ここ、どこ??」
突然のことに戸惑いつつも、とりあえず現状を把握しようと辺りを見回す二人の目に、少し離れたところの山肌に空いた洞窟らしき穴に駆け込んでいくリリスの姿が映った。
「あっ!リリスさんだ!」
慌てて追いかけようとする和哉をギルランスがすかさず制止した。
「待て!カズヤ!」
(――え!?)
その声で立ち止まった和哉もそこでハッと気が付いた。
自分たちが立っている場所を中心とした地面に大きな魔法陣の紋様が浮かび上がっていたのだ。
それは赤い光を放ち、どんどん輝きを増していき……。
そして、そこから何匹もの例の狼型魔獣が現れた――いや、現れたというより地面から湧き出てきたという方が正しいだろう。
どうやら奴らに完全に包囲されてしまったようだ。
「チッ、召喚術の一種か……厄介な相手だぜ……」
そう言って舌打ちをするギルランスの隣で、周囲を警戒しながら和哉は急いで背中の弓を手に取る。
「ギ、ギル、これって……?」
「ああ、この魔法陣で召喚されたんだ……まぁ、この感じだと……相手はあの魔女だろうな……」
ギルランスの言葉に和哉はゴクリと唾を飲んだ。
あの本にあった魔女が復活したという事なのか……? だとするならば、これはまずい状況であるのは間違いなかった。
「来るぞ!」
ギルランスの言葉と同時に召喚された多数の魔獣たちが一斉に二人に向けて飛びかかって来た。
迎え撃つギルランス同様、和哉もまた魔獣の攻撃を躱しつつ、自身の弓で反撃をする。
放たれた矢が次々と敵を射抜いていくかたわらで、相変わらず見事な動きを見せるギルランスの剣捌きで倒れていく魔獣たち――だが、そんな二人の奮闘も虚しく、どれだけ倒しても魔法陣からは次々と新たな敵が沸き出てくるのだ。
「くそ!鬱陶しい!!」
「ギル!この魔法陣、なんとかならないの?」
うんざりしたように吐き捨てるギルランスに、和哉が矢を放ちつつ叫ぶように問いかけた。
「無理だ!見た感じ相当複雑な術式だ。俺の魔法じゃ壊せねぇ……!」
剣を振るいながら苦々し気に答えるギルランスの横で、和哉は必死に弓を射ち続けた。
二人は次々襲い掛かって来る魔獣たちを倒していくが、倒した先から魔法陣の中に魔獣たちが湧いて出て来る。
(これじゃキリがない!どうすれば……?)
戦いながら和哉が思案していると、ふとギルランスが何か思いついたようだった。
「おい、カズヤ!こっち来い!」
「何?」
「いいから早くしろ!」
よく分からなかった和哉だが、急いでギルランスに駆け寄る――と、いきなり腕を引っ張られ、そしてそのまま抱き寄せられた。
「――!?」
「いいか、このままじっとしてろよ?」
突然の事にギョッとする和哉に構うことなく、ギルランスは片手で和哉の肩を抱きつつ、もう片方の手で双剣の一つ『青龍』を掲げ何やら詠唱を始めた。
するとパキキ――という音と共に『青龍』の刀身に冷気のようなものが纏わりつき始めた。
それは次第に大きくなっていきやがて凍り付いたように白く染まった。
一閃――!ギルランスはその剣を横薙ぎに振るう――すると氷の刃のような斬撃が勢いよく飛び出し、魔獣たちを次々と切り裂いて行った。
魔獣たちは断末魔の叫びを上げ次々に倒れていき、一瞬にして、今地上に現れている奴らは一層された。
だが、魔法陣からは更なる新手が湧いて来ようとしている。
ギルランスはさらに続けて詠唱を唱えると、今度はガッと『青龍』を地面に突き立てた。
次の瞬間、その剣を中心に放射状に床が氷結し始め、あっという間に魔法陣全体を覆うように地面が凍り付いた。
魔法陣から出て来ようとしている魔獣たちも途中で凍り付いてしまい、まるで氷のオブジェのように身動きが取れなくなっている。
(うわ、まるでスケートリンクみたいになってるよ)
和哉がその見事なまでの凍結具合に感心していると、すぐ後ろから声がした。
「よし、これで大丈夫だろ」
その言葉に振り返った和哉は、そこで初めて自分の置かれている状況に気が付いた。
今、和哉はギルランスに後ろから肩に手を回され抱き締められているような恰好なのだ。
途端に和哉の心臓が跳ねる。
(わわっ!)
慌てて離れようとしたその時だった。
「――うわ!!」
和哉は氷でツルツルになっている床で足を滑らせてしまった。
「おっと!」
思わず転びそうになったところを、後ろから伸びて来たギルランスの腕が腰に回され引き寄せられる。
「あ、ありが――」
礼を言いながら顔を上げた和哉だが、その言葉の途中で息を呑み、全てを言う事はできなかった。
なぜならすぐ目の前にギルランスの顔があったからだ。
それはお互いの吐息を感じられるほどの近い距離だった。
ギルランスのほうも驚いたように目を見開いている。
瞬間、時が止まったような錯覚を和哉は覚えた。
ギルランスの琥珀の瞳に吸い込まれそうになる。
二人とも互いの目が離せない……。
と、その時だった、唐突にバサバサッと鳴り響く羽音に二人はハッと我に返った。
見ると近くの木の枝に一羽の大きな鳥が止まっていた。
どうやらさっきの音はこの鳥の飛び立つ時のものだったらしい。
ギルランスは気まずそうにフイッ顔を逸らすと、すぐに和哉からパッと手を離し一歩後ろに下がった。
(あ……)
その瞬間、和哉は離れて行く温もりを残念に思う自分に気付き慌てて頭を振った。
(な、何考えてんだ僕!こんなの……こんなの友達同士だってあることだ!)
そんな和哉に顔を背けたまま、ギルランスは剣を振り上げると、氷でおおわれた地面をゴッと突く。
すると大きな音を立て凍結していた魔獣もろ共魔法陣が一気に粉砕した。
粉々になった氷の欠片たちがキラキラと舞い散り幻想的な光景を作り出していた。
その中心にいるギルランス――その姿は美しくもあり、どこか儚げでもあった――。
そんな光景に目を奪われている和哉に振り返ることなく、ギルランスは「リリスを追うぞ」とだけ言うと、そのまま走り出した。
「あ、うん……」
和哉は慌てて頷くとギルランスの後を追った――。
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