ダブルソード 第二章 ~アドラ編~

磊蔵(らいぞう)

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第44話 衝撃の事実

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教会を出た和哉とギルランスとアミリアの三人は、そのまま一緒に宿へ戻ってきた。
とりあえず、今夜の作戦を練るために三人で話し合う事にしたのだ。

部屋に入るなり、ギルランスはソファにドカリと座り込み不機嫌そうな態度を隠しもせずにアミリアに厳しい視線を向けた。

「おい、アミリア!テメェさっきのアレは何なんだよ!?」

どうやらギルランスは、先程のキスが相当腹に据えかねているようだ。
だが、そんなギルランスの剣幕にもアミリアは全く動じる様子はなかった。

「何って、仕方ないじゃない!本当の事明かすわけにもいかないしね……あのままじゃ神父さんに怪しまれちゃうし、ギルはテンパってしゃべっちゃおうとするしでこっちも慌てちゃって、つい、ね……」

言いながらアミリアも向かいのソファに座ると、ペロッと舌を出しながら両手を合わせてゴメンと拝むポーズをした。
そんな二人のやり取りを、和哉は複雑な気持ちで苦笑いをしながらギルランスの横に座り、静観していた。

「つい、じゃねぇ!!なにもホントにする事ねぇだろ!フリでいいだろうが!フリで!!ちったぁ考えろや!!」

ギルランスの怒りは収まる様子もなく、アミリアに向かって更に声を荒げた――だが、これがカチンときたのか、彼女も負けじと食ってかかる。

「なによ!!そんなに私とのキスが嫌だったの!?失礼しちゃうわね!なにもそんなにムキになることないじゃない――それとも何?あれがファーストキスだとでも言うの!?」

売られたケンカを煽るようなアミリアの言葉だが、それに対してギルランスから返された返事はまさかのものだった。

「うるせぇ!!悪ぃかよ!!」

((――!!))

((は?))

予想外のギルランスの言葉に、和哉とアミリアは同時にギョッと目を剥き固まってしまった。
二人で信じられないものを見るような眼差しで呆然としたまま、プンスカと怒っているギルランスを凝視していたが……。
束の間の沈黙のあと、静寂を破ったのはアミリアだった。

「えぇぇぇぇぇ!!!?ギル、初めてだったのぉ!?やだ、ごめん!!」

大声で叫びながら大袈裟に驚いてみせるアミリアに対し、ギルランスは苦虫を噛み潰したような顔で耳塞いだ。

「うるせぇな!!声がでけぇんだよっ!!」

「だってしょうがないじゃない!びっくりしたんだから!」

「俺はしたくもなかったわ!」

そんな口論をする二人の声など半分も和哉の耳には入っていなかった。

(え……えっ……う、嘘だろ……嘘だよね!?あれがギルのファーストキスだなんて絶対嘘だっ!!!)

あまりの衝撃的な事実に思考が停止しそうになる。
自分と同い年とは思えないほど大人っぽく見える(しかも超絶イケメンの)彼がまさかまだ誰とも付き合った事がないなんて――さらにはキスもまだだったなどと誰が想像できただろうか……。

(マジかよ……って事は……ギルはこの見た目でまだ童t……)

それは、和哉の中のギルランス像が二度目の崩壊を迎えた瞬間であった――。

(こういうのを”寝耳に水”っていうんだったか?……それとも”青天の霹靂”だったっけ?……)

などど、和哉の思考は驚きのあまりにどうでもいい事を考えてしまう。
その間も二人は言い合いを続けていた――が、ふとアミリアが考え込んだように黙り込んだ後、納得したように頷いた。

「――まあ、よく考えればそうよね?……ギルがお師匠さんに引き取られてからはずっと修行と戦闘の毎日だったし……それに、お師匠さんが殺されてラグロスが行方不明になってからは、あんた誰とも関わろうとしなかったものね……」

アミリアはしんみりとした口調でそう言って、少し悲し気に目を伏せた。
そんなアミリアを見ながらギルランスは小さく舌打ちすると、頭をガシガシと掻く。

「……まぁな……それに、正直今まで俺は誰にも興味を持った事がなかったからな……他人なんてその辺の石ころと同じだったしよ」

このギルランスの発言に、和哉は(――ん?)と反応する。

(『今までは』?という事は……今は違うって事……?)

ギルランスの口ぶりからして、どうやら最近何かしらの変化があったという事は想像できるものの詳しいことは分からない。
だが少なくとも今のギルランスは昔とは違っていて、彼の中で何かが変わり始めているのは確かだと思われる。
それが何なのか気になったが、和哉にはそれを聞く勇気はなかった――。

****
****

暫くしてようやく落ち着きを取り戻した頃、三人は改めて話し合いを始めた。

「――とにかく、今までの犯行通りなら犯人は今夜俺たちを襲ってくるはずだ」

ギルランスの見解にアミリアも頷く。

「そうね、問題はどうやって捕らえるかだけど……まぁ、セオリー通りにいくなら待ち伏せか囮を使って捕まえるのが妥当かしらね?」

「……だな」

ギルランスとアミリアが真剣に話している中、和哉は少し距離を置いて話を聞いていた。
というのも、ずっと胸の辺りがモヤモヤと嫌な感じがしているからだ。

ギルランスがまさかの童貞だったという驚きの事実はさて置き、和哉はまるで喉に何か詰まったような不快感を感じており気分が悪かった。
やはり、和哉の中には先程の二人のキスシーンの衝撃が残っているのだ。

それでも、それを悟られないようになるべく平静を装う努力をしていたが、そんな時、不意にアミリアと目が合った。
どうやらアミリアには和哉の様子がおかしいことがバレていたようだった――彼女は眉尻を下げながら、優しくも少し困ったような微笑みを見せた。

(もしかして顔に出てたかな……?)

和哉は慌てて表情を取り繕うと、気持ちを切り替えて話し合いに加わることにした。

****
****

少々気まずい雰囲気の中でいろいろありつつも、結局話し合いは『今夜待ち伏せして犯人を捕らえる』という事で決まった。
その後、「じゃ、まずはメシでも食いに行くか?」と言ったギルランスの提案で三人は一旦部屋を後にした。

三人で一階の酒場へと向かう途中、アミリアはギルランスの目を盗むように和哉にすり寄ると、声を潜めながらこっそり耳打ちをする。

「(ねぇ、ちょっといい……?)」

小声で話しかけるアミリアに和哉が「ん?」と彼女の方へ顔を向けると、彼女は申し訳なさそうな顔をしながら続けた。

「(なんか、こんなことになっちゃって……ごめんね)」

このアミリアの言葉に和哉はハタと動きを止めた。
彼女が何に対して謝罪しているのか見当がついたからだ。
おそらく、ギルランスとのキスの事を言っているのだろうが……。

(も、もしかして、僕のギルへの気持ち、アミリアさんにはバレてるとか!?)

一瞬ヒヤリとし焦る和哉だが、そこは必死にポーカーフェイスを保ちつつ出来るだけ平然と返す。

「あ、いや……別に大丈夫ですよ?あれは事故みたいなものですし……」

若干しどろもどろながらも、何とか誤魔化す言葉を紡ぎ出す和哉に、アミリアはホッと安堵したような表情を見せた。

「そっか……でも、ごめん……」

彼女はもう一度謝罪の言葉を告げると、今度は少し明るい口調で思いがけない言葉を続けた。

「今回私がこの仕事を引き受けた理由はね、ちゃんとカズヤに自分の気持ちに気付いて欲しかったっていうのもあるのよ?」

「え……?」

思わず問い返す和哉にアミリアは眉尻を下げながら優しく微笑む。

「つまり、私とギルが結婚式の真似事なんてしたら、さすがのカズヤも自分の気持ちに気付くんじゃないかなって思ったのよね」

(――って、うわぁあぁ!やっぱ、バレてんじゃん!!)

アミリアの言葉に和哉は思わず内心で絶叫しながら、顔を真っ赤にしたまま固まってしまった。
どうやらアミリアには和哉の気持ちなど最初から完全に見抜かれていたようだ。
しかもそれだけでなく、今回の件についても全て承知の上で動いてくれていたのだという――要するにアミリアは和哉にわざと嫉妬させて恋心を自覚させようと画策していたというわけだ。

そんな事を暴露された上に自分の気持ちが筒抜けだった羞恥心で、和哉は全身から火が出そうなくらいに体を熱くさせながらも、あの時の『ちょっとした荒療治よ』と言ったアミリアの言葉の意味をようやく理解することができた。

(そ、そうだったんだ……ってか、荒療治が過ぎない!?!?そりゃ、あのキスは咄嗟のことだったかもだけど……僕のダメージが半端なかったんだけど!?)

などと心の中で盛大なツッコミを入れていた和哉は、そこでハッと気づく。

(そうか……僕がずっと自分の気持ちを誤魔化し続けて気付こうとしなかったから……)

アミリアはそんな和哉のために一肌脱いで、この危険は依頼をタダで引き受けてくれたのだ。

「そ、そうだったんですね……なんか、ごめんなさい、変な気使わせちゃって……でも、ありがとう」

和哉の言葉にアミリアはニッコリと微笑んだ後、その笑顔に少し寂しそうな色をのせて目を逸らすと、今度は誰に言うでもないようにポソリと呟く。

「……それに、私自身の事もそろそろどうにかしなきゃ、って思ってたしね……」

その笑顔を見た和哉は、やはりアミリアはギルランスの事が好きなのだと確信した。
その上で彼女は和哉の事を想って今回の計画を実行したのだ。

(アミリアさんだってギルへの片思いで苦しいはずなのに……)

そんな葛藤を抱えながらも、自分の為にここまでしてくれるアミリアの気持ちを考えると和哉の胸は切なさでいっぱいになるが、それと同時に、アミリアに対する感謝の想いが溢れてくる。
和哉は顔を上げ、真っ直ぐにアミリアを見つめ返すと、正直な気持ちを伝えた。

「アミリアさん、ありがとうございました。おかげで自分に正直に生きていく勇気が出ました」

その言葉を聞いたアミリアは目を丸くして驚いたような表情を見せたが、やがて嬉しそうに微笑んだ。

「……良かった……」

その瞬間、今まで緊張しっぱなしだった和哉の心はようやく解放されたような気がした。
そんな和哉にアミリアは少ししんみりとしてしまった空気を変えるかのように、茶目っ気たっぷりなウインクをしてみせながら、冗談交じりに声をかける。

「じゃあ、後はカズヤの頑張り次第ね。同性同士だから難しいかもしれないけど、そこは根性よ。早くしないと他の人に取られちゃうかもよ?ギルって意外とモテるんだから!」

「……うん……そうですよね。でも多分、一番ライバルになるのはアミリアさんですよね?」

和哉が苦笑いしながら彼女を見ると、アミリアは一瞬キョトンとした顔をした後、突然クスクスと笑い出した。

「アハハ!そんなわけないじゃない!さっきのギルの態度、見たでしょ?あれじゃあもう私は諦めるしかないじゃない!?」

そう言って自身の辛さを誤魔化すように笑い飛ばすと、また少し声を落として和哉へ助言をした。

「ギルってさ、今まで人付き合いなんて皆無みたいだったし、ホントに超鈍感で超無自覚だから大変だと思うけど頑張ってね!」

(……うん……そうだろうね)

アミリアの言葉に同意しながら和哉は心の中で深く頷いた。
これまでのギルランスの言動を考えれば、アミリアの言う通りかなり難易度が高いことは容易に想像できるからだ。

それに、何と言っても”お互い男同士”なのだ――和哉としても、ギルランスと良い関係を築きたいとは思っているものの現状では前途多難ではあるのは間違いない……。
ならば――。

(……だったら、まずは好きになってもらわないと始まらないよね……)

そう思いながら、和哉が今後、自身のスキルアップに加え自分磨きにも精を出すことを密かに誓っていると、前方から「おい!!」と呼ばれた。

「お前ら何やってんだよ!?早く行くぞ!」

少しイラついた声色のギルランスの言葉で和哉はハッとして顔を上げると、既に階段を降りて酒場の入り口近くまで移動していた彼と目が合った。
どうやら二人で立ち話をしていた間に、ギルランスは先に行ってしまったようだ。

「あ、ごめん、ごめん」

「はーい!今行くー!!」

和哉とアミリアは明るい声で返事を返すと、急ぎ足でギルランスの元へと向かった。
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