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第48話 お祭りデートだ!♪
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翌朝――和哉とギルランスの二人は、倒した魔物とロインの死体の回収と共にギルドへの報告を済ませ、再び宿へ戻って来たのは昼近くになってからだった。
昨夜は徹夜だった事もあって二人ともかなり疲れていたため、今日はこのまま部屋で休もうと決めていた。
二人が部屋に戻ると、アミリアが待っていた。
丁度帰る支度を済ませたところなのだろう、大きなカバンを足元に置いて立っている。
「お帰り、二人ともお疲れ様!」
「アミリアさん……ただいま」
「……ああ」
あの後しっかりと休息を取り、元気いっぱいの様子のアミリアに対して、眠気と疲労の重なった二人はやや憔悴した顔で挨拶を返すのみだった。
そんな二人の顔を見たアミリアは少し困ったように眉をひそめたが、すぐにいつものような明るい笑顔を見せると声を掛ける。
「あ~、だいぶお疲れみたいねぇ。じゃぁ――」
そう言うと、彼女はゴソゴソとカバンの中を漁り、液体の入った小瓶を二本取り出した。
そしてそれを二人に渡す。
「はいこれ、体力回復用のポーションよ」
「え?いいんですか?」
思わず尋ねる和哉に、アミリアはニッコリと笑いながらうなずく。
「もちろんよ!でもこれは一時的なお薬だから、効力が切れる前にちゃんと休みなさいよ!」
「あ、ありがとうアミリアさん!」
「さんきゅ、助かる」
和哉とギルランスが礼を言いながらそれを受け取ると、アミリアは「いいのよ」と笑いながら足元のカバンを持ち上げる。
「それじゃあ私はこれで帰るわね!今回の依頼、なかなか楽しかったわよ♪」
そう言って笑顔で手を振りながら部屋を出ていくアミリアを、二人は扉が閉まるまで見送った。
アミリアが消えた扉を見つめながら、和哉は小さく溜め息をついた。
「……なんか悪かったな……僕が女装を嫌がったせいでアミリアさんに迷惑かけちゃったみたいで」
遠ざかっていくアミリアの靴音を聞きながら和哉が呟くと、ギルランスは首を横に振った。
「いや、あいつも気にするなって言ってくれたろ?それに俺も悪いんだ、お前の気持ちも考えず――」
そこまで言うと、なにか思い出したように今度はニヤッと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「まぁ、お前の花嫁姿、見られなかったのはちょっと残念だったけどな」
(なっ……!)
からかうような口調で言われ、和哉の顔が一気に赤くなる。
そんな和哉を見てギルランスはククッと笑いを噛み殺すような表情を見せた。
(くそ~、コイツ絶対楽しんでるな!)
悔しくて思わず睨みつける和哉の反応を見てなおさら可笑しそうに肩を震わせるギルランスに腹が立つが、同時にそんな笑顔にも胸がときめく自分がいる事に気付いてしまう。
そんな自分を誤魔化すように和哉は思わず声を上げながら、ギルランスにキッと視線を送った。
「ギル!!」
すると、そんな和哉に流石にバツが悪くなったのか、ギルランスは笑いを噛み殺すような顔で降参といった風に両掌を上げてみせた。
「悪《わり》い悪《わり》い!揶揄《からか》い過ぎた」
「まったく……」
一人、憮然としている和哉に、ギルランスはいまだ少し笑いを含ませた声色のまま話題を逸らすように問いかける。
「ま、冗談はさておき、このポーション飲んでみるか?」
その言葉に和哉も気を取り直して頷いた。
「そうだね。せっかく貰ったんだし」
二人はお互いに顔を見合わせてから蓋を開けると、一気に煽り飲み干した。
苦いのか甘いのかよくわからない味の液体が喉を通り抜け胃の中に落ちていくと同時に、全身が温かくなり、みるみる内に身体の疲れが消えていくのを感じて、和哉は驚きの声を上げた。
「うわぁ……凄い効き目だね、なんだか元気が出てきたよ」
先程までの泥のように重かった身体が嘘のように軽くなり、頭もスッキリしてくる。
「だな……さすがアミリアだ」
ギルランスもまた感心したようにうなずきながら手元の小瓶を眺めていた。
なんだかもう一仕事出来そうな気がしてくる程の効果だったが、やはり今日は休みを取ろうという二人の決定に変更はなかった。
「とりあえず、今日はのんびりしようぜ」
そう言いながらソファーに腰を下ろし寛ぎ始めたギルランスに、和哉は同意しかけるが……ふと思い出しハッとする。
「そうだギル!せっかくだからお祭り行こうよ!」
そう、今日は七日間続いた祭りの最終日なのだ。
部屋から花火を見た以外には祭りらしい体験をしていなかった和哉は、アミリアからもらったポーションで体力を回復したことも相まって、俄然遊びに行きたくなっていた。
和哉もギルランスが”お祭り”というタイプで無い事は承知していた。
だが、それでもこの世界へ来てから初めての祭りというものに興味もあったし、恋人……とまではいかなくても親友として彼と楽しい気分を共有したいという思いもあった。
ウズウズを隠せないまま声をかける和哉の誘いに、案の定ギルランスは渋い顔を浮かべる。
「はぁ?祭りぃ?」
(うっ……やっぱダメか……)
面倒くさそうなギルランスの返事に、和哉が諦めそうになっていたところ……意外にも「ま、せっかくだしな」という返事が返ってきて驚く。
「えっ……!いいの?」
「……しゃーねぇ……付き合ってやるよ」
その言葉に和哉の顔がぱあっと明るくなる。
「やった!じゃあ早く準備しないと!!」
そう言って嬉しそうにパタパタと動き出す和哉に、ギルランスは苦笑しながらもその後に続くように立ち上がった。
****
****
その後、シャワーで軽く汗を流した二人は準備を整え街へ繰り出した。
宿を出てから少し歩くと、すぐに賑やかな音楽が聞こえてきた。
広場の中央に櫓《やぐら》のような舞台が設置されており、その上で楽隊が楽器を奏でているのが見えた。
その周りではたくさんの人が輪になって踊っている様子も見える。
紙吹雪が舞う中、皆楽しそうに笑いながら舞い踊る風景は、まるで夢の中にいるかのような非日常感に溢れていた。
見ているだけで心が浮き立つような気持ちになるし、何よりこの賑やかさが和哉には心地よかった。
(わぁ……凄い……!まさに”お祭り騒ぎ”って感じだ!)
初めて見る異世界の祭りに心を躍らせながら、和哉は思わず足を止めて見入ってしまっていた。
そんな和哉に、先に歩き出していたギルランスが立ち止まり振り返る。
「おい、行くぞ?」
「あ、ごめん、つい見とれちゃってて……」
慌ててギルランスの呼びかけに答えたところで、丁度楽団の演奏が一段落したようだ。
賑やかに響いていた音楽が止むと、踊っていた人々は歓声を上げながらそれぞれ広場からはけて思い思いの方向へ散っていった。
「あ~あ、終わっちゃった……」
もっと見ていたかったのだが仕方ない――和哉は少し残念に感じながらも、来年もまたギルランスとこうして一緒に見られるかもしれないと思うとそれも悪くないと感じていた。
それから二人は歩きながらいろいろな屋台を覗いて回った。
食べ物のほかにもアクセサリーや服などの小物を売る店などもあり、見ていて飽きない。
途中で射的をやってみたのだが、意外にもこれをギルランスが苦手としている事が分かった。
なんでも子供の頃、師匠に連れられて来た時に一度だけ挑戦してみたのだが上手くいかなかったそうだ。
「ギルにも苦手な事ってあるんだな」
「当たり前だろ?俺は万能じゃねぇっての」
意外に思いつつも、クスクスと笑う和哉にギルランスは拗ねたように口を尖らせながら反論する。
そんな姿がまた可愛くてますます笑いが込み上げてくる和哉だったが、ここで余計な事を言って機嫌を損ねるのは得策ではないと思いぐっと堪えた。
その後も二人で楽しく祭りを回っているうちに、いつの間にか夕方になっていた。
空が茜色に染まり始め、昼間とは違う美しさを見せる街並みを眺めながら大通りを歩く二人だったが、そこでふとギルランスが立ち止まった。
(――?)
不思議に思った和哉がギルランスの視線の先を辿ると、そこにはテラス席を設けたオープンカフェスタイルの酒場があった。
入り口には『BAR』と書かれた看板が下がっている。
「あそこでなんか食おうぜ」
そう言いながら、ギルランスは和哉の返事を待たずにさっさと店の方へと歩いて行ってしまう。
「ちょっ――」
突然の誘いに戸惑いながらも和哉はその後を追いかけた。
まだ夕飯には少し早い時間だったが、なかなか混みあっているようだった。
店に入った二人は、丁度ひと席だけ空いていたテラス席に通された。
二人で向かい合って席に着き、暫く酒と食事を楽しんでいると、やがて通りの向こうから楽しげな音楽が聴こえてきた。
次第に大きくなるその音はどんどん近づいてきて――やがて、通りを練り歩くパレードが見えてきた。
色とりどりのオーブや花吹雪が舞い踊り、華やかな衣装に身を包んだ人々が楽しげな音楽と共に踊る様はとても美しく、目が離せなくなるほどだ。
「うわぁ……凄い……」
和哉が思わず感嘆の声を漏らすと、向かいのギルランスも同意するようにうなずく。
「だろ?祭り最終日の名物だ。この酒場の席が特等席だそうだ」
「そうなんだ」
言われて改めて周囲を見渡すと、確かに他のテーブルは全て埋まっており、多くの客達がこのパレードに目を奪われているのが分かる。
そこでふと、和哉はギルランスがわざわざこの店を選んでくれたのだということに気付く。
(……ああ……そっか)
おそらくギルランスは和哉にこのパレードを楽しんで欲しくて店を選んでくれたのだろう。
祭りに興味が無いギルランスなりにでも、自分のために色々と考えてくれていたのだと気づいた和哉の胸は途端に熱くなる。
(ああもう!なんでこんなに優しいんだよ!惚れちゃうだろ!――ってかもう惚れてるけど!)
和哉は内心悶えながらも、特に気にした様子もなくパレードを横目に酒を飲み続けているギルランスを見つめ返しニコリと微笑みかけた。
「……ありがと、ギル。僕、こんな素敵なお店に連れてきてくれたのもそうだけど、こういう楽しいイベントに一緒に行けて凄く嬉しいよ。ギル、今日は苦手なお祭りに付き合ってくれてありがとう」
照れ臭さを誤魔化すように少々早口になる和哉の素直な礼の言葉に、ギルランスは一瞬キョトンとして和哉の顔を見つめ返すが……やがてその口元にニッと笑みを浮かべた。
「……なんだよ急に、気持ち悪いぞ?」
「ひどっ!せっかく素直にお礼を言ったのに!」
ムッとしながら声を上げる和哉にギルランスは「冗談だって」と笑みを深くさせながら酒の入ったグラスを持ち上げてみせる。
「ま、楽しんでくれたならなによりだ」
そう言ってまたひとつ酒を煽るギルランスを見て、和哉はより一層幸せな気分になりながら「うん」と笑みを浮かべた。
二人は互いに笑い合うと、またパレードへと視線を移し、楽しい夜を過ごしていった。
昨夜は徹夜だった事もあって二人ともかなり疲れていたため、今日はこのまま部屋で休もうと決めていた。
二人が部屋に戻ると、アミリアが待っていた。
丁度帰る支度を済ませたところなのだろう、大きなカバンを足元に置いて立っている。
「お帰り、二人ともお疲れ様!」
「アミリアさん……ただいま」
「……ああ」
あの後しっかりと休息を取り、元気いっぱいの様子のアミリアに対して、眠気と疲労の重なった二人はやや憔悴した顔で挨拶を返すのみだった。
そんな二人の顔を見たアミリアは少し困ったように眉をひそめたが、すぐにいつものような明るい笑顔を見せると声を掛ける。
「あ~、だいぶお疲れみたいねぇ。じゃぁ――」
そう言うと、彼女はゴソゴソとカバンの中を漁り、液体の入った小瓶を二本取り出した。
そしてそれを二人に渡す。
「はいこれ、体力回復用のポーションよ」
「え?いいんですか?」
思わず尋ねる和哉に、アミリアはニッコリと笑いながらうなずく。
「もちろんよ!でもこれは一時的なお薬だから、効力が切れる前にちゃんと休みなさいよ!」
「あ、ありがとうアミリアさん!」
「さんきゅ、助かる」
和哉とギルランスが礼を言いながらそれを受け取ると、アミリアは「いいのよ」と笑いながら足元のカバンを持ち上げる。
「それじゃあ私はこれで帰るわね!今回の依頼、なかなか楽しかったわよ♪」
そう言って笑顔で手を振りながら部屋を出ていくアミリアを、二人は扉が閉まるまで見送った。
アミリアが消えた扉を見つめながら、和哉は小さく溜め息をついた。
「……なんか悪かったな……僕が女装を嫌がったせいでアミリアさんに迷惑かけちゃったみたいで」
遠ざかっていくアミリアの靴音を聞きながら和哉が呟くと、ギルランスは首を横に振った。
「いや、あいつも気にするなって言ってくれたろ?それに俺も悪いんだ、お前の気持ちも考えず――」
そこまで言うと、なにか思い出したように今度はニヤッと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「まぁ、お前の花嫁姿、見られなかったのはちょっと残念だったけどな」
(なっ……!)
からかうような口調で言われ、和哉の顔が一気に赤くなる。
そんな和哉を見てギルランスはククッと笑いを噛み殺すような表情を見せた。
(くそ~、コイツ絶対楽しんでるな!)
悔しくて思わず睨みつける和哉の反応を見てなおさら可笑しそうに肩を震わせるギルランスに腹が立つが、同時にそんな笑顔にも胸がときめく自分がいる事に気付いてしまう。
そんな自分を誤魔化すように和哉は思わず声を上げながら、ギルランスにキッと視線を送った。
「ギル!!」
すると、そんな和哉に流石にバツが悪くなったのか、ギルランスは笑いを噛み殺すような顔で降参といった風に両掌を上げてみせた。
「悪《わり》い悪《わり》い!揶揄《からか》い過ぎた」
「まったく……」
一人、憮然としている和哉に、ギルランスはいまだ少し笑いを含ませた声色のまま話題を逸らすように問いかける。
「ま、冗談はさておき、このポーション飲んでみるか?」
その言葉に和哉も気を取り直して頷いた。
「そうだね。せっかく貰ったんだし」
二人はお互いに顔を見合わせてから蓋を開けると、一気に煽り飲み干した。
苦いのか甘いのかよくわからない味の液体が喉を通り抜け胃の中に落ちていくと同時に、全身が温かくなり、みるみる内に身体の疲れが消えていくのを感じて、和哉は驚きの声を上げた。
「うわぁ……凄い効き目だね、なんだか元気が出てきたよ」
先程までの泥のように重かった身体が嘘のように軽くなり、頭もスッキリしてくる。
「だな……さすがアミリアだ」
ギルランスもまた感心したようにうなずきながら手元の小瓶を眺めていた。
なんだかもう一仕事出来そうな気がしてくる程の効果だったが、やはり今日は休みを取ろうという二人の決定に変更はなかった。
「とりあえず、今日はのんびりしようぜ」
そう言いながらソファーに腰を下ろし寛ぎ始めたギルランスに、和哉は同意しかけるが……ふと思い出しハッとする。
「そうだギル!せっかくだからお祭り行こうよ!」
そう、今日は七日間続いた祭りの最終日なのだ。
部屋から花火を見た以外には祭りらしい体験をしていなかった和哉は、アミリアからもらったポーションで体力を回復したことも相まって、俄然遊びに行きたくなっていた。
和哉もギルランスが”お祭り”というタイプで無い事は承知していた。
だが、それでもこの世界へ来てから初めての祭りというものに興味もあったし、恋人……とまではいかなくても親友として彼と楽しい気分を共有したいという思いもあった。
ウズウズを隠せないまま声をかける和哉の誘いに、案の定ギルランスは渋い顔を浮かべる。
「はぁ?祭りぃ?」
(うっ……やっぱダメか……)
面倒くさそうなギルランスの返事に、和哉が諦めそうになっていたところ……意外にも「ま、せっかくだしな」という返事が返ってきて驚く。
「えっ……!いいの?」
「……しゃーねぇ……付き合ってやるよ」
その言葉に和哉の顔がぱあっと明るくなる。
「やった!じゃあ早く準備しないと!!」
そう言って嬉しそうにパタパタと動き出す和哉に、ギルランスは苦笑しながらもその後に続くように立ち上がった。
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その後、シャワーで軽く汗を流した二人は準備を整え街へ繰り出した。
宿を出てから少し歩くと、すぐに賑やかな音楽が聞こえてきた。
広場の中央に櫓《やぐら》のような舞台が設置されており、その上で楽隊が楽器を奏でているのが見えた。
その周りではたくさんの人が輪になって踊っている様子も見える。
紙吹雪が舞う中、皆楽しそうに笑いながら舞い踊る風景は、まるで夢の中にいるかのような非日常感に溢れていた。
見ているだけで心が浮き立つような気持ちになるし、何よりこの賑やかさが和哉には心地よかった。
(わぁ……凄い……!まさに”お祭り騒ぎ”って感じだ!)
初めて見る異世界の祭りに心を躍らせながら、和哉は思わず足を止めて見入ってしまっていた。
そんな和哉に、先に歩き出していたギルランスが立ち止まり振り返る。
「おい、行くぞ?」
「あ、ごめん、つい見とれちゃってて……」
慌ててギルランスの呼びかけに答えたところで、丁度楽団の演奏が一段落したようだ。
賑やかに響いていた音楽が止むと、踊っていた人々は歓声を上げながらそれぞれ広場からはけて思い思いの方向へ散っていった。
「あ~あ、終わっちゃった……」
もっと見ていたかったのだが仕方ない――和哉は少し残念に感じながらも、来年もまたギルランスとこうして一緒に見られるかもしれないと思うとそれも悪くないと感じていた。
それから二人は歩きながらいろいろな屋台を覗いて回った。
食べ物のほかにもアクセサリーや服などの小物を売る店などもあり、見ていて飽きない。
途中で射的をやってみたのだが、意外にもこれをギルランスが苦手としている事が分かった。
なんでも子供の頃、師匠に連れられて来た時に一度だけ挑戦してみたのだが上手くいかなかったそうだ。
「ギルにも苦手な事ってあるんだな」
「当たり前だろ?俺は万能じゃねぇっての」
意外に思いつつも、クスクスと笑う和哉にギルランスは拗ねたように口を尖らせながら反論する。
そんな姿がまた可愛くてますます笑いが込み上げてくる和哉だったが、ここで余計な事を言って機嫌を損ねるのは得策ではないと思いぐっと堪えた。
その後も二人で楽しく祭りを回っているうちに、いつの間にか夕方になっていた。
空が茜色に染まり始め、昼間とは違う美しさを見せる街並みを眺めながら大通りを歩く二人だったが、そこでふとギルランスが立ち止まった。
(――?)
不思議に思った和哉がギルランスの視線の先を辿ると、そこにはテラス席を設けたオープンカフェスタイルの酒場があった。
入り口には『BAR』と書かれた看板が下がっている。
「あそこでなんか食おうぜ」
そう言いながら、ギルランスは和哉の返事を待たずにさっさと店の方へと歩いて行ってしまう。
「ちょっ――」
突然の誘いに戸惑いながらも和哉はその後を追いかけた。
まだ夕飯には少し早い時間だったが、なかなか混みあっているようだった。
店に入った二人は、丁度ひと席だけ空いていたテラス席に通された。
二人で向かい合って席に着き、暫く酒と食事を楽しんでいると、やがて通りの向こうから楽しげな音楽が聴こえてきた。
次第に大きくなるその音はどんどん近づいてきて――やがて、通りを練り歩くパレードが見えてきた。
色とりどりのオーブや花吹雪が舞い踊り、華やかな衣装に身を包んだ人々が楽しげな音楽と共に踊る様はとても美しく、目が離せなくなるほどだ。
「うわぁ……凄い……」
和哉が思わず感嘆の声を漏らすと、向かいのギルランスも同意するようにうなずく。
「だろ?祭り最終日の名物だ。この酒場の席が特等席だそうだ」
「そうなんだ」
言われて改めて周囲を見渡すと、確かに他のテーブルは全て埋まっており、多くの客達がこのパレードに目を奪われているのが分かる。
そこでふと、和哉はギルランスがわざわざこの店を選んでくれたのだということに気付く。
(……ああ……そっか)
おそらくギルランスは和哉にこのパレードを楽しんで欲しくて店を選んでくれたのだろう。
祭りに興味が無いギルランスなりにでも、自分のために色々と考えてくれていたのだと気づいた和哉の胸は途端に熱くなる。
(ああもう!なんでこんなに優しいんだよ!惚れちゃうだろ!――ってかもう惚れてるけど!)
和哉は内心悶えながらも、特に気にした様子もなくパレードを横目に酒を飲み続けているギルランスを見つめ返しニコリと微笑みかけた。
「……ありがと、ギル。僕、こんな素敵なお店に連れてきてくれたのもそうだけど、こういう楽しいイベントに一緒に行けて凄く嬉しいよ。ギル、今日は苦手なお祭りに付き合ってくれてありがとう」
照れ臭さを誤魔化すように少々早口になる和哉の素直な礼の言葉に、ギルランスは一瞬キョトンとして和哉の顔を見つめ返すが……やがてその口元にニッと笑みを浮かべた。
「……なんだよ急に、気持ち悪いぞ?」
「ひどっ!せっかく素直にお礼を言ったのに!」
ムッとしながら声を上げる和哉にギルランスは「冗談だって」と笑みを深くさせながら酒の入ったグラスを持ち上げてみせる。
「ま、楽しんでくれたならなによりだ」
そう言ってまたひとつ酒を煽るギルランスを見て、和哉はより一層幸せな気分になりながら「うん」と笑みを浮かべた。
二人は互いに笑い合うと、またパレードへと視線を移し、楽しい夜を過ごしていった。
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