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第21話 王都『アドラ』
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「あれが王都『アドラ』だ」
馬車を走らせているとギルランスが前方を指差した。
そちらを見ると高い城壁に囲まれた大きな街が見えてきていた。
「うわぁ!大きいね!」
和哉は目の前の光景に感動して声を上げた。
徐々に近づいて来る城壁は見上げる程高く、まるで万里の長城のように横にどこまでも続いているようだった。
城門では厳重な警備がされており、出入りする人達も皆身分証のような物を呈示しているのが見える。
多くの人が門の前に並び、検疫を受けているようだ。
「次のかた、どうぞ!」
やがて自分達の順番になり、和哉とギルランスは馬車を降りて三人の門番の前に立った。
「こんにちは、今日はどのようなご用件ですか?」
人の良さそうな笑顔を浮かべる若い門番が質問をするが、すぐにその隣に立つ厳つい顔をした別の門番がギルランスの顔を見た途端ハッと息を呑み、急に態度を急変させた。
「ギ、ギルランス……!?」
目を見開き驚いている様子だ。
その名を聞いた人の良さそうなほうの門番も、「えっ!?」と笑顔のまま顔を引き攣らせていた。
「……ギルランスだって?あの、双剣使いの……?」
そして三人目の門番もまた、信じられないとでもいうような面持ちで食い入るようにギルランスを見つめていた。
当のギルランスはそんな視線など気にする様子もなく平然とした顔で、懐から身分証を出して呈示する。
「ああ、そうだ、ギルランス・レイフォードだ。後ろのコイツはカズヤ、俺の連れだ。コイツの身分証はねぇが、通っていいか?」
その言葉に我に返った様子の門番たちは慌てて身分証の確認をし、書類に印を捺すと顔を上げた。
「失礼しました!どうぞお通り下さい!」
そう言って書類をギルランスに手渡す門番の顔は”尊敬”や”憧れ”といったものより、むしろ”恐れ”に近いもののように和哉には見えた。
そんな門兵たちの様子にギルランスはどこか複雑な苦笑いを見せた後、あっけにとられたまま突っ立っている和哉に向き直る。
「行くぞ」
「あ、うん」
和哉はギルランスに促されるまま、積荷のチェックを終えた馬車に再び乗り込んだ。
そして、緊張した様子で立つ門兵たちの間を通り過ぎ、二人は王都の門をくぐり抜け進んで行った。
ギルランスと門番の一連のやりとりに、和哉としては少々驚くものがあった。
彼らがなぜあんな態度だったのかは分からなかったが、どちらにせよこの街ではギルランスはかなり有名なようである事だけは確かなようだ。
(ギルって、思ってたよりも凄い人なんだ……きっと、実力があるから一目置かれてるのかも……?)
和哉は馬車に揺られながら、隣に座るギルランスに目を向けしみじみ思う。
(この人と一緒に旅をするなんて、今更だけど凄い事だよね)
しかも、そんな彼が自分と組んでくれている事が未だに信じられなくもあった。
(今の僕なんかじゃ釣り合わないだろうけど……でも、いつかは僕も強くなってギルと一緒に肩を並べられるくらいになりたいな)
そう思うと俄然やる気が湧いてくるというものだ。
(よし!!頑張るぞ!!)
和哉がフンッ!と鼻息荒く気合いを入れていると、横からククッと笑いを堪える声が聞こえてきた。
どうやらギルランスに見られていたらしい。
「な、なに?」
気恥ずかしさを誤魔化すように尋ねる和哉の頭をギルランスは目を細めながらポンと軽く叩いた。
「いや、お前見てるとホント飽きねぇなと思ってな」
そう言うとギルランスはクツクツと笑いながら再び前に向き直り手綱を握る。
(うぅ……また笑われた……)
どうにもギルランスには笑われてばかりいるような気がして、少しだけ悔しく感じる和哉だったが、同時に不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ、仏頂面がデフォルトの彼が自分の前で時々見せてくれる笑顔に嬉しさを感じるのだ。
その感情がなんなのか、和哉自身にも分からなかったが……それでも嫌じゃないのは確かだった。
そうこうしているうちに馬車は街中に入り、辺りの様子も活気に溢れたものに変わっていった。
行き交う人々の格好も様々で、武器や防具を身に着けた者や、ローブを纏った魔法使い風の者、中にはエルフ族のような尖った耳を持つ者までいる。
(すごい!ホントに映画かRPGの世界みたいだ!)
「うわぁ~!!」
和哉は思わず声を上げながら、身を乗り出さん勢いでその景色に見入っていた。
遠くの小高い丘の上に見える大きな王宮は太陽の光を浴びて白く輝いており、お伽話に出てくるような幻想的な美しさだ。
石畳の道にレンガや石で作られた建物が立ち並ぶ街並みは、まるで中世のヨーロッパのようで、和哉は感動と興奮を抑えられかった。
「すごい!ここが王都……」
ワクワクした気持ちを抑えられず、キョロキョロと辺りを忙しなく見回している和哉の様子が可笑しかったのか、ギルランスはクツクツと笑いを噛み殺しながら肩を竦める。
「なんだよ、そんなに珍しいか?」
またまた笑われてしまったが、そんな事はもう気にならなかった――和哉は目を見開きコクコクと頷く。
「うん、こんな綺麗な街見た事ないや!夢みたいだよ!」
興奮冷めやらぬ気持ちで素直に答える和哉に、ギルランスは意外そうに目を丸くした後、「フッ」と笑いを零す。
「大げさな奴だな」
呆れたように言いながらもどこか楽しそうなギルランスの表情に、和哉は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
(なんかよく分からないけど、ギルの笑った顔見れるのは嬉しいな……)
そんな事をぼんやりと考えながら、和哉は再び前に視線を移すと、心を躍らせながら流れて行く景色を飽きることなく眺め続けた。
馬車を走らせているとギルランスが前方を指差した。
そちらを見ると高い城壁に囲まれた大きな街が見えてきていた。
「うわぁ!大きいね!」
和哉は目の前の光景に感動して声を上げた。
徐々に近づいて来る城壁は見上げる程高く、まるで万里の長城のように横にどこまでも続いているようだった。
城門では厳重な警備がされており、出入りする人達も皆身分証のような物を呈示しているのが見える。
多くの人が門の前に並び、検疫を受けているようだ。
「次のかた、どうぞ!」
やがて自分達の順番になり、和哉とギルランスは馬車を降りて三人の門番の前に立った。
「こんにちは、今日はどのようなご用件ですか?」
人の良さそうな笑顔を浮かべる若い門番が質問をするが、すぐにその隣に立つ厳つい顔をした別の門番がギルランスの顔を見た途端ハッと息を呑み、急に態度を急変させた。
「ギ、ギルランス……!?」
目を見開き驚いている様子だ。
その名を聞いた人の良さそうなほうの門番も、「えっ!?」と笑顔のまま顔を引き攣らせていた。
「……ギルランスだって?あの、双剣使いの……?」
そして三人目の門番もまた、信じられないとでもいうような面持ちで食い入るようにギルランスを見つめていた。
当のギルランスはそんな視線など気にする様子もなく平然とした顔で、懐から身分証を出して呈示する。
「ああ、そうだ、ギルランス・レイフォードだ。後ろのコイツはカズヤ、俺の連れだ。コイツの身分証はねぇが、通っていいか?」
その言葉に我に返った様子の門番たちは慌てて身分証の確認をし、書類に印を捺すと顔を上げた。
「失礼しました!どうぞお通り下さい!」
そう言って書類をギルランスに手渡す門番の顔は”尊敬”や”憧れ”といったものより、むしろ”恐れ”に近いもののように和哉には見えた。
そんな門兵たちの様子にギルランスはどこか複雑な苦笑いを見せた後、あっけにとられたまま突っ立っている和哉に向き直る。
「行くぞ」
「あ、うん」
和哉はギルランスに促されるまま、積荷のチェックを終えた馬車に再び乗り込んだ。
そして、緊張した様子で立つ門兵たちの間を通り過ぎ、二人は王都の門をくぐり抜け進んで行った。
ギルランスと門番の一連のやりとりに、和哉としては少々驚くものがあった。
彼らがなぜあんな態度だったのかは分からなかったが、どちらにせよこの街ではギルランスはかなり有名なようである事だけは確かなようだ。
(ギルって、思ってたよりも凄い人なんだ……きっと、実力があるから一目置かれてるのかも……?)
和哉は馬車に揺られながら、隣に座るギルランスに目を向けしみじみ思う。
(この人と一緒に旅をするなんて、今更だけど凄い事だよね)
しかも、そんな彼が自分と組んでくれている事が未だに信じられなくもあった。
(今の僕なんかじゃ釣り合わないだろうけど……でも、いつかは僕も強くなってギルと一緒に肩を並べられるくらいになりたいな)
そう思うと俄然やる気が湧いてくるというものだ。
(よし!!頑張るぞ!!)
和哉がフンッ!と鼻息荒く気合いを入れていると、横からククッと笑いを堪える声が聞こえてきた。
どうやらギルランスに見られていたらしい。
「な、なに?」
気恥ずかしさを誤魔化すように尋ねる和哉の頭をギルランスは目を細めながらポンと軽く叩いた。
「いや、お前見てるとホント飽きねぇなと思ってな」
そう言うとギルランスはクツクツと笑いながら再び前に向き直り手綱を握る。
(うぅ……また笑われた……)
どうにもギルランスには笑われてばかりいるような気がして、少しだけ悔しく感じる和哉だったが、同時に不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ、仏頂面がデフォルトの彼が自分の前で時々見せてくれる笑顔に嬉しさを感じるのだ。
その感情がなんなのか、和哉自身にも分からなかったが……それでも嫌じゃないのは確かだった。
そうこうしているうちに馬車は街中に入り、辺りの様子も活気に溢れたものに変わっていった。
行き交う人々の格好も様々で、武器や防具を身に着けた者や、ローブを纏った魔法使い風の者、中にはエルフ族のような尖った耳を持つ者までいる。
(すごい!ホントに映画かRPGの世界みたいだ!)
「うわぁ~!!」
和哉は思わず声を上げながら、身を乗り出さん勢いでその景色に見入っていた。
遠くの小高い丘の上に見える大きな王宮は太陽の光を浴びて白く輝いており、お伽話に出てくるような幻想的な美しさだ。
石畳の道にレンガや石で作られた建物が立ち並ぶ街並みは、まるで中世のヨーロッパのようで、和哉は感動と興奮を抑えられかった。
「すごい!ここが王都……」
ワクワクした気持ちを抑えられず、キョロキョロと辺りを忙しなく見回している和哉の様子が可笑しかったのか、ギルランスはクツクツと笑いを噛み殺しながら肩を竦める。
「なんだよ、そんなに珍しいか?」
またまた笑われてしまったが、そんな事はもう気にならなかった――和哉は目を見開きコクコクと頷く。
「うん、こんな綺麗な街見た事ないや!夢みたいだよ!」
興奮冷めやらぬ気持ちで素直に答える和哉に、ギルランスは意外そうに目を丸くした後、「フッ」と笑いを零す。
「大げさな奴だな」
呆れたように言いながらもどこか楽しそうなギルランスの表情に、和哉は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
(なんかよく分からないけど、ギルの笑った顔見れるのは嬉しいな……)
そんな事をぼんやりと考えながら、和哉は再び前に視線を移すと、心を躍らせながら流れて行く景色を飽きることなく眺め続けた。
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