懐古主義オッサンと中二病JKは、上級職として召喚させられても、無双なんてしない

椎名 富比路

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第一章 無双しないとダメ?

第7話 夢の世界に居続ける

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「勉強から逃げて、学校から逃げて、実家にも追われていたの」

 パスタの中に隠れたミートボールを、モモコはフォークで追いかける。クルクルと回して、口へ放り込む。

「それで、逃げていたんだな?」

「もう、親のいいなりになるのはウンザリだった。だからお金を盗んで、逃げた」

 誰にも頼られたくないモモコの意思は、そこから来ているのか。

「あいつらから盗んだお金は、とある組織との取引するための資金だった。黒服を騙して、それをかっさらったの」

 一世一代の、賭けだったのだろう。もしかすると、最初からモモコは死ぬ気だったのかもしれない。

 いや、考えるのはよそう。今は、前だけを見ていたい。

「でもさ、クニミツといると楽しい」

「そうか?」

 オレみたいなおっさんといるのが、JKにとっちゃ一番退屈だろうと思っていたが。

「ただのオッサン相手だったら、そうかもしれないけど。クニミツは、ちゃんと話を聞いてくれる」

 そういってもらえると、うれしい。

「工作なんて初めてやった。あんたさ、ラーメンとか自分で作る余地があると考えてるんでしょ?」

「かもな」

 オレは、宿の食堂で頼んだラーメンを箸ですすった。コメ粉を使っているのか、フォーみたいな食感だ。味も薄めである。付け合せの調味料も、バリエーションが辛いか酸っぱいかしかない。

「文化祭とか、やらなかったのか?」

「ずっと迷子センターの管理をやらされていたから」

 頼りになるからと、押し付けられて。

「うわ。灰色の青春だな」
 
 考えたくはないが、厄介払いだったのだろう。本人は何も悪くないのに、家のせいにされて。
 
「だから、誰かと一緒に何かをするのには憧れてた。今は楽しい」

「そうか。じゃあ、満喫しような」

 コイツが帰りたくないと言っていた理由が、わかる気がする。
 

 宿で一泊した後、オレも敷地内に精霊を呼ぶことにした。畑の管理をしてもらうためだ。

「頼むぜ、クレイゴーレム」

 泥で作ったゴーレムに、農具を渡す。

 結界のお陰で、領域内に魔物が入り込めないのはありがたい。
 
 オレたちは、家の家具になりそうな素材を探しに向かった。
 
 ベッドの毛布になるクモの糸を手に入れ、ダンジョンでは鉄などを集める。

 近場に、ダンジョン付きの森があるのがいい。

 ダンジョンはボスモンスターなどはおらず、多少のモンスターが出る程度である。

 天井から落ちてくるクモを、剣でなぎ倒していく。

「ていっ、ていっ」

 モモコも、炎を使ってクモの数を減らす。

 クモを殴って、必要な分の糸を集めた。

 こうして、念願のふかふかベッドができあがる。できあがりの後は、ハイタッチだ。

 装備も、最適化していった。

 オレもよりサイバーパンクなプロテクターへと変わっていき、モモコも中二病じみたゴテゴテファッションへと変わる。

 また、武器の収納も変えた。オレはエレキギターに、モモコはマイクスタンドだ。

 この世界は、戦闘系ジョブの他に、非戦闘サブクラスを選べる。
 大量にスキルポイントがもらえる分、サブクラスにポイントを振る余裕もあった。

 モモコが【踊り子】、オレが【吟遊詩人】を手に入れる。

「【錬金術師】とか、手に入れると思ったんだが?」

「その職業は、【ナイト】職とスキルがだいぶかぶる」

 まったく噛み合わない職業を選び、できることの幅を広げようとしたのだ。

「あと、ほしい装備が踊り子にばかり偏っている。【仕込み杖】とか」

 中二心をくすぐる装備品に、惹かれたようだ。

「クニミツはどうして、吟遊に?」

「楽器ができるようになりたかっただけだ。完全にガキの夢だな」

「夢を追うことは、大事」

 どちらも、生産性や効率などは考えない。夢の中で生きているオレたちに、うってつけだ。

 しかし、この段階でもまだレベルは四だった。銃の開発までは、もう少し難しいクラフトをせねば到達しない。

「なあモモコ、作りたい物がある」

「そろそろ、銃?」

「違う。風呂だ」
 
 旅へ出るたびに、いちいち風呂を浴びに宿をとるのが面倒なのである。

「気持ちはわかるけど、装備品の売買があるから別にいいじゃん」

「でもなあモモコよ。こういった細かい出費が後々に響くんだよ」

 今はたいてい大浴場か、個室のシャワーを使う。

「クニミツ、庶民派すぎん?」

「オレはもともと庶民派なのっ」

 また、他の冒険者と一緒に入るのがしんどい。
 
「たしかに、お風呂があるのはいいかも。ジロジロ見られるのは、たしかにヤだ」

 モモコは一般的なボディを、遥かに超えているからな。

 さっそく、風呂づくりを始めることにした。

 自宅からダンジョンまでの道を開拓しつつ、木材や石材を集めていく。

「湯は井戸から溜めて、足が伸ばせる程度の浴槽があるといい」

「うんうん」

 井戸は汲み上げ式から、水道にまで発展していた。

 これをさらに、風呂釜へと繋げていく。

 クラフトレベルががったので、【かまど】を作る。これで火を炊くのだ。ただし、料理や錬成とも併用できるため、どれか一つを行っていると使えなくなる。

「三つ作れるようにしたいね」

「うむ」

 とにかく今は、風呂の温めだ。

 ようやく、風呂が沸く。

 オレたちはハイタッチをした。

「では、お先にどうぞ」

「えっ。先に入りなよ」
 
 たしかに、オレの方が汚れている気がする。

「入りたいって言ったのは、クニミツのほうじゃん」

「わあーったよ。では、遠慮なく」

 オレは湯に浸からせてもらう。

「ふう」

 これはいいものだ。なんといっても、湯船を独り占めできるってのがいい。

「湯加減はどう?」

 「ああ。とっても快適だぁ!?」

 声がした方向へ振り返ると、ビキニ姿のモモコがいた。

 オレは慌てて湯船に首までつける。

「お前、何考えてんだ!?」

「水着もクラフトできるから。作ろうと思って」

 精霊の力を借りているのか、モモコの格好は花柄のビキニである。イメージカラーの青をベースにしていて、大胆でありつつおとなしい。

 着ているモモコが恥ずかしがっているので、余計にこちらの背徳感をあおってくる。

「背中流してやろうかなって」

「いいよ。そんな気を使わなくても」

「でもさ、こういうイベントってお約束じゃん?」

「オレらはカップルじゃねえんだ。間に合ってますっ」

 まさかコイツ、楽しんでるのか?

「とにかく、背中を向けなよ」
 
「お、おう」

 モモコがぎこちなく、オレの背中を流す。

「石けんとかクラフトするの忘れてた」

「なんだかんだ、作るのが多いな」

「もっと錬成レベルを上げないとね」

「それがわかっただけでも、今日は大収穫だな」
  
 
 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~


 で、今に至る。
 
 当時のいじらしさも、数週間も経てば失われていったわけだが。
 

「いただきまーっす。あー、おいし。やっぱゴハンはクニミツに任せて正解だね」

 あれだけ野菜嫌いだったモモコも、ナスやニンジンをガツガツ食っている。歳を取れば、味覚も変わるものだ。

 オレたちは夏野菜カレーを食いながら、当時を振り返る。

「あのときは全部手探りで、大変だったよね」

「レベル一の段階でサービスしてもらっていたから、かなり楽だったんだがな」

 案外、敵が強いのだ。歯ごたえのある冒険を求めていると、思われたのか?

 ともあれ、オレたちは生産のレベルが五までアップした。オレたちのクラフト生活も、ムダではなかったわけである。

「ごちそうさまでしたーっ……ん?」

 手を合わせたモモコが、物音に耳を澄ませた。

 かまどが「チーン」と音を鳴らす。

「クニミツ、かまどの火が止まった! 完成したよ!」

 風呂さえ後回しにするほど優先していた【かまど】の火が、ようやく止まった。

「おっ」

 オレたち二人は、立ち上がる。

 これで念願の銃作りに、一歩近づいた!

 かまどから、銃身になる鉄を取り出す。

「やったぞ。これで、銃が作れる……」

 的にしようと作った丸太人形に、何者かが乗っていた。モンスターか? 魔除けの魔法は、街じゅうに張り巡らせているのに。

「誰だ!」

 オレは、丸太人形に狙いを定めた。

「待ってモジャ! 攻撃しないでモジャーッ!」

 耳の長い猫のような謎の小動物が、丸太人形に隠れていたではないか。


(第一章 完)
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