懐古主義オッサンと中二病JKは、上級職として召喚させられても、無双なんてしない

椎名 富比路

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第三章 崖の下のダンジョン 【クジラの歯】

第19話 システムを活かした捨て身

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 チョコマカと動くコイツに、ランチャーは通用しなさそうである。

「剣で勝負だ」

 オレは、グレートソードに持ち替えた。すばしっこい相手には、動かないで待つのが正解だ。

「クニミツ、いけそう?」

「大丈夫だ! モモコは自分の心配をしていなよ!」

 モモコはスピード勝負をしているが、人には対策の仕方ってのがある。

 どっちが正しいのかは、自分の中にしかない。

 オレは、叩き潰す方を選んだだけ。

「ぬうわ!」

 ヤドカリが、ゼロ距離まで迫ったところで顔を出す。

「ふうん!」

 そこへ、グレートソードを振り下ろした。

 貝殻の回転に合わせて、剣を滑らせる。

 オレの首に、ヤドカリのハサミが到達しそうになった。

 その一瞬を、待っていたぜ!

「せや!」

 ハサミがオレの首を斬るより早く、ヤドカリの首が吹っ飛ぶ。

「よっしゃ! さっすが【キクチヨ】! 映画ばりの大活躍だぜ!」 

 首を引っ込めて、オレはヤドカリのハサミを避けた。髪の毛をわずかに持っていかれたが。

 モモコも、終わるようだ。ヤドカリのコマの体内に、光の剣を突き刺している。逆三角形の体制になったまま、ヤドカリは絶命していた。

「どうやった?」

「相手の回転より早く動いてやった」

 モモコが、靴を鳴らす。あれは、ピエラのために作った靴と同じだ。

 なるほど。錬成品のおかげで、そこまでできたと。

「あはは。ナイス」

 こちらがサムズアップをすると、モモコも応える。

「あとは、がら空きになった背中に剣を突き刺すだけ……なんて、思ってるんじゃないのかい?」

「げええ!?」

 オレが言おうとしたセリフを、スキュラの背中が語りだす。

 スキュラの背面が盛り上がった。

 とっさに後ろへ飛び退いて、オレたちは敵の攻撃に備える。

 真っ黒い皮膚を持った人魚が、姿を見せた。これが、スキュラの真の姿か。
 
「お前たちの考えなど、アタイにはお見通しなんだよ!」

 スキュラの本体である人魚が、手を水平に伸ばす。

 さっき倒した二体のヤドカリが、再回転を始めた。スキュラの元へと飛んでいく。

 エイの背骨辺りを、スキュラは蹴り上げた。

 背骨の一部が外れて、飛び出す。宙に浮いた骨が、棒状の武器へと変わる。

 回転するヤドカリを、棒で突き刺すように受け止めた。貝殻が細長くなり、ヤリの先端となる。

 モモコが二丁のマシンガンで、スキュラを乱れ打ちによって攻撃した。

 回転する貝殻を、スキュラはさらに振り回す。

 銃弾はヤリに阻まれるどころか、貝殻の回転によって跳ね返ってきた。

「これならどうだ!」

 ランチャーを構え、オレは発砲する。砲撃は、跳弾では打ち返せまい。

 ロケットが、スキュラに命中する。大爆発を起こし、逃げ場もなかった。無事では済むまい。

「なに!?」

 だが、スキュラはかすり傷一つなかった。貝殻のヤリで防いだのか。

「インファイトなら、どうだ?」

 オレは盾を構えて、突撃する。
 グレートソードは、コイツ相手には重すぎた。ランチャーどころか、銃弾も当たらないだろう。盾で攻防一体に賭けた。盾による攻撃だって、あるからな。

 モモコは光る剣を、逆手持ちにした。自分を攻撃してきた相手に反撃のカマイタチを放つ魔法で、自身を守る。【サウザンドエッジ】という、魔法バリアだ。

「勝てると思ってんじゃないよ!」
 
 ヤドカリのヤリで、スキュラがオレを突き刺しにかかった。

 盾で攻撃を防ぐも、槍先の回転で盾が持っていかれてしまう。剣で弾き飛ばすしかない。

 モモコは相手の攻撃をかわしつつ、逆手持ちの剣で相手の懐を狙う。

 しかし、相手も氷の障壁をピンポイントで作り出し、モモコの剣を通さない。

 一旦、敵と距離を置く。

「強いな」

「倒す方法は、ある。クニミツ、こっちに」

 モモコは、オレに耳打ちをしてきた。

「確かに、それなら確実だろうな。しかし」

「大丈夫。私に任せて」

 モモコはウニボーに、巨大エイと戦っている二人に作戦を伝えてもらうよう頼む。

「わかったモジャ。行くモジャ!」

 アイテムボックスから、ウニボーが飛び出す。

「逃さないよ!」

 スキュラが反応し、冷気の矢を口から吐き出した。

「アンタの相手は、こっち」

 モモコが、再度インファイトで懐に飛び込む。

「何度やっても同じこ……な!?」

 二連発ランチャーに、スキュラが驚愕する。

 相棒に空きを作ってもらっている間、オレは連続で大型の大砲を二発担いで続けざまに撃ったのだ。

「味方ごと吹っ飛ばす気かい!? 上等だ!」

 ヤドカリのヤリを旋回させ、スキュラは爆発と爆風を自分だけ防ごうとした。

 その腕に、モモコは剣を突き刺す。

「貴様!?」

「チェックメイト」

「くっ!」

 スキュラは、素手でモモコに殴りかかろうとした。

 モモコはスキュラの背後に素早く回り込んで、ロケットの爆発から逃れようとた。しかし、手首をスキュラに掴まれる。

「逃さないよ!」

 スキュラは、剣が突き刺さったままの腕を振り下ろした。ヤリでモモコの腹を刺すつもりだ。

「別に逃げるなんて言ってない」

 モモコは、攻撃を甘んじて受ける。カウンターが発動し、カマイタチがヤリを切り刻む。

 ランチャーを受けて、スキュラは爆発に巻き込まれた。

「やっ……てない!」

「ぐ、貴様ら! この程度の攻撃でアタイが死ぬと思っていたのか?」

「思ってない。だから布石を用意した」

「……な、下から!?」

 エイの背中が、熱を帯びて赤くなっていく。

 モモコは、下で戦っている二人に、特大の火炎放射を頼んだのだ。回転によって攻撃を阻むヤドカリはこちらが引き受けている。その分、胸部分は無防備になっているはずだった。計算はうまくいき、あとはモモコがそこへスキュラを誘導する。

 二人同時に死ぬことになるが、モモコは意に介さない。世界の裏側で死んだ冒険者は、寺院で蘇生してもらえるからだ。

 少なくとも、モモコはそう考えているだろう。

 だが、足りない。

 オレは、スキュラの位置まで突撃した。

「おつかれさん、モモコ。あとはオレの仕事だ」

 モモコに、軽めのショルダータックルを浴びせる。

「クニミツ!?」

 エイから落下しながら、モモコはオレに手を差し伸べた。

 損な役回りは、オッサンに任せりゃいい。

「さて、シャワーの時間だぜ」

 エイの背中を、高温のブレスが突き抜けてきた。

「にぎゃあああああ!」

 オレとスキュラを、交差する熱が包む。

 想像以上に熱い。だが、スキュラを逃さないように押さえておかないと。

 悶絶するスキュラの髪を、掴む。自分ごと、ブレスを浴びる。

「テメエは、絶対に許さねえ!」

 ヒューマニズムなんて、オレは持ち合わせていない。しかし、領地のあんなのどかな雰囲気を見たら、なんとかしてやりたいと思えた。

「闇の世界は、根こそぎ破壊してやる!」

「ああああああああ!」

 スキュラの身体が、溶け落ちる。巨大エイも原型を留められなくなって、ぼろぼろになっていった。

「うお!?」
 
 地面へ転落しそうになったのを、モフモフした感触が包む。ウニボーが巨大化して、クッションになってくれたのだ。
 
 自分を手を握って、生を実感する。生きているのか、オレは。

「クニミツ!」

 モモコが、オレのもとに駆け寄った。

「あんなムチャして! 死んだらどうするつもり!?」

「お前の立てた作戦だろうが! 蘇生してもらおうなんて、一〇年早えんだよ!」

 怒るモモコに、オレは反論する。

「オレが女神に願った体質を忘れたか? 頑丈にしてくれって頼んだんだ」

 だから、多少のダメージは軽減できると思ったのだ。軽減なんて全然してくれなかったが。

「おそらくオレのほうが、蘇生に成功する率も高かった。極めて合理的な作戦だと思うが?」

「それでも、いい気分じゃない」

 まあ、そうだろうな。オレだって同じだし。
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