懐古主義オッサンと中二病JKは、上級職として召喚させられても、無双なんてしない

椎名 富比路

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第三章 崖の下のダンジョン 【クジラの歯】

第20話 王都からの通達

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「とにかく、素材を集めよう。かなりのモノが取れるだろう」

 実際、強い武器や防具になりそうなアイテムが拾えた。

 世界の裏側が、消えていく。

「精霊が、浄化しているモジャ」

 このエリアと世界の裏側は繋がりが消えて、普通のダンジョンに戻るという。 

「ここにいる魔物たちの目的は、やっぱり魔王の復活なんだよな?」

「そうモジャ。ヤツラは、こんな平和すぎる世界を嫌っているモジャ。混沌が支配する世界を好むモジャ」

「まるでいじめっ子の発想だな」

「だいたい合っているモジャ。魔王なんて存在は、魔界からも爪弾きにされている厄介なヤツラだモジャ。故郷に居場所がないから、別の世界に攻め込んで支配したいと考えてるモジャ」

 世界に暴力を振るい、自分の家のように征服したいと。まさに暴君だな。

「どうする?」

「もちろんぶっ飛ばす。性格がネジ曲がってるだけなら無視でいい。けど、迷惑をかけてくるやつなら倒さないと」

 モモコなら、そういうだろうと思った。

「とりあえず、【世界の裏側】を閉じ続けていけば、魔王の封印が強まって出られないモジャ」

 オレたちは領土を拡大して、精霊の居場所を作ってやればいいらしい。魔王は、相反する力を持つ精霊には手が出せないから。

 領地を大きくしつつ、裏側を閉じていけばいいと。

 供物を与えていたのは、ムダじゃなかったんだな。



 領地に帰ってきた。さっそくオレは、できた作物を神棚に納める。装備品がどうのより、大事なことだ。

「ありがとうモジャ。みんな元気になるモジャ」
 
「だとうれしいな。今日はカレーにしよう」

 全員でカレーを作り、夕飯となった。

「よくあんなブレスの猛攻に耐えられたな?」

 三杯目のカレーを食いながら、ルイーゼがオレの筋肉を揉む。

「そういう体質に、してもらったからだろう。人より丈夫なんだ」

「丈夫なんて次元を超えているぞ」

 自分でも、そう思うよ。

「でも、ムチャは禁物よ。モモコも言っていたけど、ボクだって心配したんだからね」

「わかったよ。悪かった」

 自由奔放なピエラにまで、たしなめられるとは。よっぽどムチャな作戦だったんだな。モモコにやらせなくてよかった。

「さて、スキル振りといこう」

 このところ領地拡大やワントープのダンジョンで手こずり、バタバタしていた。おかげで、スキル振りをサボっていたのである。

 冒険者用の端末を出して、スキルの項目へ移動した。

「スキュラを倒したことで、色々アンロックされてるな。あとはポイントを振るだけか」

 レベルアップの際に手に入れたポイントを振ると、スキルが使えるようになる。原理はわからないが、「自分の経験値をスキルに注ぐ」と思うことにした。

 高いレベルに位置するスキルに、一つだけポイントを振るだけでもいい。低レベルでアンロックされているスキルも、ポイントを大量に振ると化けたりする。

「盾を構えた状態で、攻撃手段がほしい」

「じゃあ、【オーラ・スタンド】に振っていくのが、ベストかも」

 盾にオーラを与えて、構えながら武器を携行できるスキルだ。ほとんどの近接系冒険者が、ビルドしているそうである。
 オーラはずっとチャージし続けられるため、銃を構えながら盾で殴るタイミングも狙えるってわけだ。

 近接ではグレートソードで雷撃、中・遠距離では盾をオーラで構えてランチャーをブッパって寸法でいく。
 
「その後は、どうするか」

 固くするか、攻撃力を上げていく方向性へ向かうか。

 スキルの振り直しは、いつでもできる。

 エンジョイ勢としては、いろいろ試しながら、どうやって構築していくか考えてもいい。

 とはいえ、ガチ攻略用のビルドも視野に入れないと。こちらが足を引っ張っては、仲間のためにならない。

「盾役はルイーゼがいるから、そこまで気にしなくてもいいかな」

「リジェネ系のスキルが常設されているから、自分自身の守りはそこまできにしなくても」 

「よし。【カバー】だけは取る。仲間が増えたからな。カバー役がルイーゼだけでは、負担がかかりすぎる」

 カバーに、スキルポイントを振った。

 モモコは攻撃とカウンター系スキル、あとはスピード系に振る。

「やられる前にやる」「仲間に被害が及ぶ前に敵を倒す」スタイルを確立していく。

「続いて、銃スキルだが」

 オレは武器を、徐々にキャノン系へと移行しつつあった。オレが鈍足な分、範囲攻撃を持ちたい。

「だったら私は、レーザー系を取ろうかな」

「ピエラのスキルを見て、欲しくなったろ?」

「うん。実は」

 包み隠さずに、モモコは言う。

 二丁拳銃にして、片方はレーザー系の装備にする。もう片方はマシンガンで固定だ。

「指マシンガンなんてどうだ?」

「肉体を武器に改造すると、取り回しが大変」

「ロマン武器だけどな」

「私にはちょっと。ロマンを重視して、死にたくない」
 
 ちげえねえ。


 朝食は、簡単なものだ。港町だからか、海の家に焼きそばがあったので、材料をあらかじめ買って作ってみた。これを、パンに挟む。
 凝った料理は、ポテサラくらいか。マヨネーズの酸味がバランスよくて、パンに合う。ボリュームも、腹にちょうどいい。

 どうして、メシを簡単にしたかと言うと……。

「おいっ、それは俺んだ」

「硬いことを言うな、若造よ。謙虚な大人になれんぞ」

 ドワーフのジジイが、五〇の初老をたしなめている。

「はーっ。さっぱりした」
 
 一糸まとわぬエルフが、朝風呂から出てきた。

「おい、メシの前に服を着ろよ!」

 そうなのだ。この村はすっかり、大所帯になっている。全員分の食事を出すのが、大変なのだ。
 冒険者や行商人などで、村は賑わっている。


 
「みんな、聞いてくれ。ワタシは今日から、王都へ向かう」

 ルイーゼが立ち上がって、全員に報告をした。
 手には、封筒を持っている。

 食事を終えて、ちょっとした話し合いに。

「しかし、王都とはね。何があった?」

「ドリス様から、連絡があってな。今は王都にいらっしゃるのだが」

 ルイーゼは、エルフの貴族であるドリスさんに、従っている。

「王都は現在、隣国と少し揉めていてな。先日も小耳に挟んだんだが、王子が隣国の姫との結婚を渋っているらしい」

「そんなに王都は、めんどくさいことになっているのか」

「姫の何が問題なのか、わからんのだがな」

 聞くと、そのお姫様は美人で、性格もいいらしい。聖女と民衆から慕われているそうな。

「ところが、旅先で出会った東洋の少女に一目惚れしてしまったらしい」

 うわー。嫌な予感しかしねー。

「どうしたのクニミツ?」

 我関せずとばかりに、モモコは焼きそばパンをモソモソと食らう。

「お前、なんかフラグ立てたか?」

 知らないところで、お尋ね者になってたりなんかしてねえよな?

「何も。単独行動なんて、やったことないし」

 だよな。オレも、まるで身に覚えがない。
 
「でもね。二人のウワサは国中に広まっている。世界を救っている英雄だ、と」

 そんなこと、初耳だ。ルイーゼの言葉を、信じられない。

「オレたち、そんな偉業を成していたのか?」

「まあ、そうなるわね。誰もできなかったことを、やってきたんだし」

 周りを見ると、妙にザワついていた。「自覚なかったのかよ?」とか、ひそひそ話が聞こえてくる。

「実物を見たことがないから、ウワサに尾ひれがついてしまっているのよね。内容も東洋人の女、ってだけなのよ」

 すると、誰かがモモコになりすまして、何かをしている可能性もあるわけか。

「モモコとは、別人であってほしいよ」

「私もそう思う。なんか、気持ち悪い」

 モモコが身震いする。

「それを確認するためにも、行ったほうがいいと思うんだ。クニミツ、モモコ。ついてきてくれないか?」

「もちろんだ、ルイーゼ。なあモモコ?」

 オレが尋ねると、モモコも首を縦に振った。

「あと、これがもっとも大事なことだ。魔王の復活が、近いらしい」

 しかも、王都の近くで。

「いいじゃないの、魔王。ボクの作った錬成道具がどこまで通じるか、楽しみね」

 ピエラも、反対しない。


 次の目的地は、王都に決定した。

  
(第三章 完)
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