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第一章 ファーストキスはケチャップ味
キス変
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一瞬、大きなビンタ音と共に、僕の意識が飛んだ。
僕は、いつの間にかテーブルの向こう側に吹っ飛んでいた。頬にジンジンと痛みが走る。
「もう! サイッテーッ!!」
由佳里が顔を紅潮させて、肩を震わせる。瞳には涙を浮かべている。
「ゴメン。でも効いたろ? 僕が考えた究極の味変。そして、僕の思いも……」
腫れ上がった頬をなでながら、僕は起き上がった。
「う、うん。わかるよ。すごくわかる……」
頬を染めながら、由佳里は唇に人差し指を当てた。
「ファーストキスをこんな形で奪われるとは、思わなかったけど……」
余裕が生まれたのか、由佳里に笑顔が戻った。
「さあ、早く食べて帰ろう。デザートが待ってる」
僕は、由佳里に替えのスプーンを渡した。
「うん。じゃあ、いただきます!」
由佳里は、元気な声で返事をした。
憑き物が取れたように、由佳里の右腕が、再び動き出す。
そう。これはデートだ。たかがオムライスと戦いに来たんじゃない。
まだまだ楽しい事がいっぱいある。映画にも行っていない。洋服の買い物にも。
デザートだって、まだ食べていないじゃないか。
こんな奴、君の力で軽くねじ伏せてやれ……。
残り三十秒。
大きな皿を、由佳里は細腕で持ち上げた。ラストスパート。
オムライスが戦艦大和のように、由佳里の口へ沈んでいく……。
「ごちそうさまでした!」
由佳里はスプーンを置き手を合わせ、ストップウォッチを止めた。
「十分ジャスト。やった! 由佳里ちゃんが勝ったんだ!」
観客は、拍手喝さい。
「いやあ、『キス変』とは恐れ入った! 初めて見たよ」
小春オバちゃんがニヤついた。
「キス変って?」
「キスで味変、略してキス変」
再度、歓声が上がった。
「ハハ、キス変だってさ」
戦い、もとい、食事を終えた由佳里は何事も無かったように、ハンカチで口を拭き、笑った。
「さっきは、ゴメンね」と僕が言うと、由佳里はニコッと笑った。
「さあ、デザート食べに行こ。おいしいんだよ。あそこの三メートルのパフェ」
「……。そうだね。行こうか」
僕は、由佳里の手を引き、店を出た。
僕達は、恋人同士になった。
由佳里は普通の女の子だ。ただ、人より食いしん坊なだけ。
たとえ由佳里が怪獣でも、僕は彼女が大好きだ。
「ねえ、もう口にケチャップついてない?」
由佳里が、瞳を閉じて顔を近づける。
僕は、無理やりキスした事が今頃になって恥ずかしくなり、ケチャップのように顔を紅くした。
「ねえ、デザート」
由佳里が僕の手を引き、いたずらっ子の様にささやく。
「あ、ああ。急ごうか」
僕は、腕時計に目を移す。
「違うよ」と、由佳里が、さらに手を引っ張る。
二人の顔が、さらに近づく。
「いただきます」
由佳里が小さく呟いた。
その瞬間、僕の口の中に、二人を結びつけたケチャップの味が広がった。
僕は、いつの間にかテーブルの向こう側に吹っ飛んでいた。頬にジンジンと痛みが走る。
「もう! サイッテーッ!!」
由佳里が顔を紅潮させて、肩を震わせる。瞳には涙を浮かべている。
「ゴメン。でも効いたろ? 僕が考えた究極の味変。そして、僕の思いも……」
腫れ上がった頬をなでながら、僕は起き上がった。
「う、うん。わかるよ。すごくわかる……」
頬を染めながら、由佳里は唇に人差し指を当てた。
「ファーストキスをこんな形で奪われるとは、思わなかったけど……」
余裕が生まれたのか、由佳里に笑顔が戻った。
「さあ、早く食べて帰ろう。デザートが待ってる」
僕は、由佳里に替えのスプーンを渡した。
「うん。じゃあ、いただきます!」
由佳里は、元気な声で返事をした。
憑き物が取れたように、由佳里の右腕が、再び動き出す。
そう。これはデートだ。たかがオムライスと戦いに来たんじゃない。
まだまだ楽しい事がいっぱいある。映画にも行っていない。洋服の買い物にも。
デザートだって、まだ食べていないじゃないか。
こんな奴、君の力で軽くねじ伏せてやれ……。
残り三十秒。
大きな皿を、由佳里は細腕で持ち上げた。ラストスパート。
オムライスが戦艦大和のように、由佳里の口へ沈んでいく……。
「ごちそうさまでした!」
由佳里はスプーンを置き手を合わせ、ストップウォッチを止めた。
「十分ジャスト。やった! 由佳里ちゃんが勝ったんだ!」
観客は、拍手喝さい。
「いやあ、『キス変』とは恐れ入った! 初めて見たよ」
小春オバちゃんがニヤついた。
「キス変って?」
「キスで味変、略してキス変」
再度、歓声が上がった。
「ハハ、キス変だってさ」
戦い、もとい、食事を終えた由佳里は何事も無かったように、ハンカチで口を拭き、笑った。
「さっきは、ゴメンね」と僕が言うと、由佳里はニコッと笑った。
「さあ、デザート食べに行こ。おいしいんだよ。あそこの三メートルのパフェ」
「……。そうだね。行こうか」
僕は、由佳里の手を引き、店を出た。
僕達は、恋人同士になった。
由佳里は普通の女の子だ。ただ、人より食いしん坊なだけ。
たとえ由佳里が怪獣でも、僕は彼女が大好きだ。
「ねえ、もう口にケチャップついてない?」
由佳里が、瞳を閉じて顔を近づける。
僕は、無理やりキスした事が今頃になって恥ずかしくなり、ケチャップのように顔を紅くした。
「ねえ、デザート」
由佳里が僕の手を引き、いたずらっ子の様にささやく。
「あ、ああ。急ごうか」
僕は、腕時計に目を移す。
「違うよ」と、由佳里が、さらに手を引っ張る。
二人の顔が、さらに近づく。
「いただきます」
由佳里が小さく呟いた。
その瞬間、僕の口の中に、二人を結びつけたケチャップの味が広がった。
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