病弱令嬢、魔王に憑依されてムキムキになる ~思いの分だけ、筋肉が膨れ上がる~

椎名 富比路

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第四章 肩に小さいドラゴンを乗せる

第38話 閑話 ササミとアブラーモ

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 フェターレは、自身を襲った連中に見覚えがあった。

「彼らは『白金の盾』の一団か」

 手練と思っていた冒険者一行が、こうもあっさりと。

「なー。ササミとアブラーモって、どうやって王子さまの部下になったんだ?」

「一応、ボク主催で選抜試験を行ったんだ」

 旅をする際に、誰を連れて行くのか、フェターレはテストしたのだ。

「まったく。とんでもない結果になったがよ」

 銃を担ぎながら、アブラーモが愚痴をこぼす。
 
 
                                        *


 配下の若き紳士ジノとともに、フェターレは選抜試験の準備をしていた。

 街の片隅にボロボロの小屋を借り、冒険者を面接するのである。

 旅をしつつ、ゼム将軍の動向も探らなければならない。手練の者が数名必要だ。実践だけではなく、周辺の危機管理もできるような。また、愛するフォルテ嬢が姿を消したのも、気になった。

「兄上、お呼びでしょうか?」

 弟のトンマーゾが入室し、背筋をシャンと伸ばす。ヘタレな自分より、線が細い。しかし、彼だって騎士である。

「ワタシは兄上の留守を預かる身だと、聞いたのですが?」

「お前にしか頼めないんだ、トンマーゾ。この杖を持って、立っていてくれるか?」

 木製の席に座ったまま、フェターレは弟のトンマーゾに杖を渡す。訓練用の、いわゆる「ひのきの棒」というやつだ。

「これで面接相手の顔が見えたら、思い切って振り下ろすんだ」

「は、はいっ。兄上っ」

 トンマーゾには、面接室のドア横に隠れてもらう。面接相手に、不意打ちをしてもらうためだ。

 おどおどしながら、トンマーゾは面接相手を待っている。

「怯えなくても大丈夫です。あなたは兄上に鍛えられていらっしゃる」

 秘書のジノが、微笑んだ。

「はいっ。ジノさん」

 ひのきの棒を抱きしめながら、トンマーゾは『認識阻害』の魔法を自身にかける。

 二メートルを超える騎士が、甲冑をガションガションと言わせて入室してきた。

 フェターレは、隠れているトンマーゾに合図をする。

 トンマーゾが、ひのきの棒を振った。

 しかし、寸前で止められる。

「これは、なんのマネだ?」

 白金の騎士が、トンマーゾを投げ飛ばした。フェターレの机の上まで、吹っ飛ぶ。

「実は、こういうことなのだ」

 フェターレはトンマーゾを脇へ立たせて、事情を説明する。ゼム将軍の話題は伏せて。関係者かもしれないからだ。

「フン! 人探しとは! それがプラチナ級ギルド、『白金の盾』のすべき仕事とは思えんな! フェターレ王子殿の頼みと聞き及んで参上したら、とんだ茶番につきあわされた! 失礼する!」

 また甲冑を鳴らしながら、男は去っていく。

 単なる人探しでは、引き受けてはくれないか。

 その後も、強い戦士は現れるのだが、不採用が続く。

「まあ、そんなものですよ」

 ジノが、お茶の用意をしている。

「失礼するでござる」

 サムライの女性は、入り口を開けた途端に立ち止まった。「フッ」と笑って、引っ込む。

「ご冗談を」

 女性は、壁をノックする。トンマーゾのいる方の壁を。

「いいぞトンマーゾ、出てこい」

 フェターレは指示を出し、サムライの前にトンマーゾを立たせた。

「失礼します」と、トンマーゾはサムライを通して、部屋の脇へ引っ込む。

「我が名はササミ、東洋の出身でござる」

 サムライが、名乗った。

「どうして、人がいるとわかった?」

「気配でわかるでござる。それと王子の目線で」

 これは、当たりかもしれない。

「王子、一息入れましょう。お茶をお持ちしました」

 ジノが、紅茶を用意してくれた。

「ありがとう。いただくよ」

 お茶に、フェターレが手をかけたときである。

「して王子、ひとつお願いが」

「なにか?」

「伏せろ!」

 フェターレは、ササミに覆いかぶさられた。

 同時に、爆発音が。

 ジノの上半身が、爆撃で壁に吹っ飛ぶ。

 大砲を撃ってきたのは、ヒゲの大男である。ハーフドワーフのようで、横に大きい巨体を揺らす。彼はのっしのっしと、フェターレに近づいてきた。

 ジノは、壁と一体になっている。ずっと従っていた親友が、壁のシミに変わり果てた。

「貴様……」

「待て! 床を見て」

 ササミに言われて、床を見る。

 水槽が割れて、金魚が飛び出ていた。紅茶を浴びた金魚が、骨になっている。

「紅茶に毒が」

「おそらく銃撃してきた男は、あなたを助けた。同時に、あなたを殺そうとした執事を仕留めたのだ」

 ササミが、執事の手を広げた。執事ジノの手には、暗器が。 

「あっちで震えてる坊やを、その千枚通しで殺すつもりだったようだぜ」

 大砲を担ぎながら、男が指を指す。

 指の方角では、トンマーゾが縮こまっていた。

「なあ王子、オレは不採用かい?」

 ヒゲの男が、トンマーゾを立たせて服の泥を払ってやる。

「ササミは採用する。だがキミは、不採用だ。今のままでは」

「どうすれば?」

「ヒゲを整えてくるんだ。貴族や王族は、身だしなみにうるさいからな」

「へっ。しゃあねえな。オレはアブラーモだ。よろしくな」
 
 こうして、フェターレは二人の部下とともに、ゼム将軍の不正を暴く旅へ。


                                        *


「お城はどうするんだ?」

「第二王子のトンマーゾに、全部任せているよ」

 剣術においては微妙だが、政治力は弟のほうが上だ。ゼム将軍の出す要望も、のらりくらりとかわすだろう。

 こちらも安心して、フォルテ嬢の行方を追うことができる。


 しかし、今度の相手はドラゴンか。
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