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最終章 怨念 VS 筋肉
第62話 最終話 筋肉は、すべてを解決する
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フェターレは、弟であるトンマーゾ第二王子の結婚を見届けた後、旅支度を始める。
「兄上、また旅に行くのですね?」
「ああ。魔王の伝承を、よきものとして語り継ぐ」
王都ダメリーニでさえ、まだ魔王に対する偏見が強い。トンマーゾが正式に王位を継いだとはいえ、世界はまだ魔王を恐れている。
ダメリーニを中心に、魔王が世界を救うこともあるのだと後世に伝えよう。
それが自分の使命だと、フェターレは考えていた。
でなければ、フォルテ嬢を迎えることなんてできない。
「大将、行くか」
すでに、アブラーモとササミは準備していた。
「目的地は、把握しているでござるか?」
「ああ。北だ」
ネロックのさらなる向こう側の国は、魔導書が眠っているという。
「勇ましいな。採用試験のときのヘタレっぷりはどこへやら」
修理の済んだ大筒を抱えながら、アブラーモは馬に乗った。
「まったくでござる。王子にかわいげがなくなったでござる」
「かわいい王子って! どうリアクションしていいのか、わからないよっ」
とにかく、フォルテ嬢を追いつつ、魔王のよき伝説を伝える。
フォルテ嬢は、自分を愛していないかもしれない。
だからこの行為は、単なる自分のエゴだ。
王位さえ捨てて、女の尻を追いかけるなんて、どうかしている。
それでも。
「ミニミ、道案内を頼む。よろしく」
「おーっ。お嬢の追跡なら、任せろー」
フェターレだって、こういう生き方しかできなかった。
「見ていてください! フォルテ・マッスリアーニ殿。あなたがどんな姿になっても、あなたはボクのフォルテ嬢です! 必ずや、あなたとレメゲトン殿が安心して暮らせる世界を作ります! そのときは、ボクの気持ちを受け取ってください!」
*
「ひっ!」
怖気が走って、わたしは起き上がった。
満腹になったわたしは、酒場でイスにもたれているところだったのだが。
「はしたないぜ、フォルテ嬢、いやフォトン」
「んあ。寝てしまっていましたか」
わたしは、テーブルから足をどけた。口のヨダレを拭く。
魔導書を二体も破壊した疲れが、まだ残っていたらしい。ゼム将軍や娘のアドリアナといった仇を倒して、やはりモチベーションは落ちている。
あとは、世界に仇をなす怪物どものみ。
「体内に魔王を取り込んで、昼夜まで逆転してしまったか? 目に見えて、昼間はパワーが落ちているぞ」
カチュアからも、心配されてしまった。
「そうですね。ある程度対策はしていたはずなんですが、まだ課題は山積みですね」
わたしは、あくびを噛み殺す。
『すまぬフォルテよ』
「自分でやったことです。あなたが気にすることはありません。あと何度もいいますが、レメゲトン。わたしはフォトンです」
わたしは、フォルテ・マッスリアーニであり、レメゲトンなのだ。もう名実ともに、フォトンと名乗ってもおかしくはない。
「それに、わたしは、結構この生活を気に入っています。自由ですからね」
魔王と同化したと報告したとき、両親に泣かれた。しかし、魔王も自分の一部なのだと説得して、どうにか冒険を許可してもらっている。
両親のことはは、ベレッタに任せておけばいいだろう。
父ができなくなった探検を、今度はわたしがするのだ。父に代わって、世界を見て回る。
「聞けば、フェターレ王子がレメゲトンの潔白を証明する旅に出たらしいよ」
「あの方らしいですね」
「あんたのこと、あきらめていないらしい」
「魔王と結婚するつもりなのですか? わたしのことなど忘れて、もっと王子を大事に思ってくれる方と結ばれればいいのに」
わたしの発言に、仲間二人がため息をつく。わたしが安定より自由を求めていると気づいたからだ。
魔王を取り込んだ理由は本心からだと考えている。
が、本当は王子を拒絶したかっただけだったのかも。王宮暮らしで自由を失うくらいならと、魔王と同化という不自由を手に入れたのか。
今となっては、わたしにもわからない。
そんな人間を慕ってしまうなんてと、王子を気の毒に思った。
「レメゲトン、あなたの居場所はわたしが作ります。それまで、力を貸してください」
身の潔白くらい、自分でやる。
王子は、王子なりの自由を見つけてほしかった。
『期待しておるぞ。魔王の栄光は、お主にかかっておる』
「はい。いただいた筋肉にかけて」
(完)
「兄上、また旅に行くのですね?」
「ああ。魔王の伝承を、よきものとして語り継ぐ」
王都ダメリーニでさえ、まだ魔王に対する偏見が強い。トンマーゾが正式に王位を継いだとはいえ、世界はまだ魔王を恐れている。
ダメリーニを中心に、魔王が世界を救うこともあるのだと後世に伝えよう。
それが自分の使命だと、フェターレは考えていた。
でなければ、フォルテ嬢を迎えることなんてできない。
「大将、行くか」
すでに、アブラーモとササミは準備していた。
「目的地は、把握しているでござるか?」
「ああ。北だ」
ネロックのさらなる向こう側の国は、魔導書が眠っているという。
「勇ましいな。採用試験のときのヘタレっぷりはどこへやら」
修理の済んだ大筒を抱えながら、アブラーモは馬に乗った。
「まったくでござる。王子にかわいげがなくなったでござる」
「かわいい王子って! どうリアクションしていいのか、わからないよっ」
とにかく、フォルテ嬢を追いつつ、魔王のよき伝説を伝える。
フォルテ嬢は、自分を愛していないかもしれない。
だからこの行為は、単なる自分のエゴだ。
王位さえ捨てて、女の尻を追いかけるなんて、どうかしている。
それでも。
「ミニミ、道案内を頼む。よろしく」
「おーっ。お嬢の追跡なら、任せろー」
フェターレだって、こういう生き方しかできなかった。
「見ていてください! フォルテ・マッスリアーニ殿。あなたがどんな姿になっても、あなたはボクのフォルテ嬢です! 必ずや、あなたとレメゲトン殿が安心して暮らせる世界を作ります! そのときは、ボクの気持ちを受け取ってください!」
*
「ひっ!」
怖気が走って、わたしは起き上がった。
満腹になったわたしは、酒場でイスにもたれているところだったのだが。
「はしたないぜ、フォルテ嬢、いやフォトン」
「んあ。寝てしまっていましたか」
わたしは、テーブルから足をどけた。口のヨダレを拭く。
魔導書を二体も破壊した疲れが、まだ残っていたらしい。ゼム将軍や娘のアドリアナといった仇を倒して、やはりモチベーションは落ちている。
あとは、世界に仇をなす怪物どものみ。
「体内に魔王を取り込んで、昼夜まで逆転してしまったか? 目に見えて、昼間はパワーが落ちているぞ」
カチュアからも、心配されてしまった。
「そうですね。ある程度対策はしていたはずなんですが、まだ課題は山積みですね」
わたしは、あくびを噛み殺す。
『すまぬフォルテよ』
「自分でやったことです。あなたが気にすることはありません。あと何度もいいますが、レメゲトン。わたしはフォトンです」
わたしは、フォルテ・マッスリアーニであり、レメゲトンなのだ。もう名実ともに、フォトンと名乗ってもおかしくはない。
「それに、わたしは、結構この生活を気に入っています。自由ですからね」
魔王と同化したと報告したとき、両親に泣かれた。しかし、魔王も自分の一部なのだと説得して、どうにか冒険を許可してもらっている。
両親のことはは、ベレッタに任せておけばいいだろう。
父ができなくなった探検を、今度はわたしがするのだ。父に代わって、世界を見て回る。
「聞けば、フェターレ王子がレメゲトンの潔白を証明する旅に出たらしいよ」
「あの方らしいですね」
「あんたのこと、あきらめていないらしい」
「魔王と結婚するつもりなのですか? わたしのことなど忘れて、もっと王子を大事に思ってくれる方と結ばれればいいのに」
わたしの発言に、仲間二人がため息をつく。わたしが安定より自由を求めていると気づいたからだ。
魔王を取り込んだ理由は本心からだと考えている。
が、本当は王子を拒絶したかっただけだったのかも。王宮暮らしで自由を失うくらいならと、魔王と同化という不自由を手に入れたのか。
今となっては、わたしにもわからない。
そんな人間を慕ってしまうなんてと、王子を気の毒に思った。
「レメゲトン、あなたの居場所はわたしが作ります。それまで、力を貸してください」
身の潔白くらい、自分でやる。
王子は、王子なりの自由を見つけてほしかった。
『期待しておるぞ。魔王の栄光は、お主にかかっておる』
「はい。いただいた筋肉にかけて」
(完)
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