ウッドゴーレムに転生しました。世界樹と直結して、荒れ地を緑あふれる大地に変えていきます【再編集版】

椎名 富比路

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第六章 王都のカレーとドワーフ

第62話 カレーライスを食べよう

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「おお。コラシェルの、ティンバー・ネトルシップ伯爵令息か」

 ダリエンツォ国王が、パロンに向けて身を乗り出す。
 
「うん」

 その紳士の名前が出た途端、ボクたちは心底安堵した。

 たしかにボクは、始めて会った貴族はティンバーさんだ。

 彼自身も、アプレンテスを気に入ってくれていたみたいだし。

「ティンバーに対応してもらったら、貴族はヘタに手を出せないからね」

「しかし、ティンバー殿が承諾してくれるかどうか」

「国王が直接選んだって言うなら、誰も文句は言わないんじゃない?」

「左様か。たしかに、あんな土地はティンバー殿でなければ、持て余すからな」

 ティンバーさんに手紙を出して、コラシェルから王都に来てもらうという。

「一旦帰ったのに、またとんぼ返りとか。ティンバーさん、忙しいね」

「貴族なんて、そんなもんだよ。本来だったら、コーキだって爵位くらいもらってもいいくらいの活躍なんだよ?」

 ボクが、貴族様ぁ?

「そうだな。お主に爵位を授けても、王家としては差し支えない。どうだろう?」

「いえ、お気持ちだけで」

 ここで断ったら、無礼なんだろう。とはいえ、もう厄介ごとは引き受けたくないよ。貴族様たちを相手に、上手に振る舞える自信もないし。

「欲のない男だな。では、報酬を上乗せしておこう。存分に使うがよい」

 さっきもらったお金の、倍額をいただいた。おお。こんなたくさんもらっても、使いきれるかなあ?

「……あっ」

 ボクは、一つの考えを思いつく。

 まあそれは、ティンバーさんが来てからでいいかな。

 ティンバーさんがこちらに来るまで、ボクたちもしばらく王都に滞在することとなった。

「他に希望はあるか?」

「カレーが食べたいです。それも、庶民的な」

「そんなものでよいのか?」

「今のボクにとっては、最高のごちそうです」

「では、スプルスについて参れ。スプルスよ。王都の城下町でうまいカレーを出す店を探して参れ」

 国王からの指令を受けて、スプルスさんが、「はっ」とかしずいた。

「じゃあ、コーキ、オレについて来な」
 
 ボクたちは、スプルスさんの後をついていく。
 
「ドワーフとは、協力関係なんですね?」

「そうなんだ」

 王都が食糧や衣料品、どこでも使用可能な通貨を。ドワーフたちは鉱山資源と加工技術を、それぞれ提供しあっている。

「だから、国産品が水不足で減るのは、避けたかったんだ。ドワーフは反乱を起こさないのはわかってらぁ。ビジネス的な関係が崩れっちまう。なにより、申し訳なくてよお」

 威厳を保つためではなく、彼らの生活を第一に考えるとは。すばらしい王様だ。考え方はドライでありつつ、人情が厚い。
 
「ドワーフどもだったら、オレっちに任せな。色々当たってみるさ」

「助かるよスプルス」

「オレっちとアンタの仲ですよ、パロン殿。コーキも、心配しなさんなっての」

「お願いします。それでさあ、どうしてお姫様までついてくるの?」

 ボクたちの後ろに、ヴェリシモさんがずっと歩いてきていた。装備も、戦闘服に戻っている。

「王都は、退屈なのだ。みんなが開拓で忙しいのに、私だけ王都で花嫁修業とか、ありえん」

 ヴェリシモさんが、不満を口にする。

「真の王族は、民のために働いてこそ信頼を得られるのだ。私にできることは少ないが、可能なことは全部したいのだ」

 道楽で冒険しているふうには、思えない。姫様はちゃんと、国のことを考えているんだなぁ。

 スプルスさんが「着いたぜ」と、一件のお店に入っていく。

 こじんまりとした店内に入ると、香辛料の香りがふわっと広がった。

 ここのカレーは、絶対にうまい。

「いらっしゃい。今日は大所帯だね」

 ふくよかなオバちゃんが、厨房から現れる。筋肉質で、ずんぐりむっくりしていた。彼女も、ドワーフのようである。
 
「そうなんだよ。カレーライスを五人前くれ」

「あいよ」

 スプルスさんからオーダーを受けて、オバちゃんが奥へ引っ込んだ。 

 開いているテーブル席に、座る。

「スプルスさんとパロンは、どういう関係なの? 仲間だったんだよね?」
 
「ワタシは大昔、スプルスの父親とパーティを組んでいたんだ」

 道中で王都に立ち寄ったとき、スプルスさんが産まれたという。

「はい、おまちどう」

 五人分のカレーライスが、テーブルに並んだ。

 これだよ、これ。野菜たっぷりの、カレーライス!

「いただきます……うん!」

 野菜がホロホロと、口の中で崩れていく。うまみがジュワッーと、広がっていった。

 これだよ。ボクが追い求めていた、家庭の味だ。

 他所の家のカレーって、案外クセが強い。
 けど、ここのカレーは誰にでも食べやすかった。チェーン店のような繊細さまでは求められないけど、十分に合格点だ。

「辛さもちょうどいいな」

 姫様のお口にも、合ったみたい。

「若干、漢方も入っているね。身体が温まってきた」

 ショウガの効果だろうね。このショウガが、実にいいアクセントになっていた。

「ごちそうさまでした」

 最高の体験だったな。異世界で、こんなおいしいカレーを食べられるなんて。スプルスさんに感謝だ。

「うむ。馳走になった」

 身体の小さいクコも、カレーを全部平らげちゃった。
 
 スプルスさんが、ボクに視線を向ける。

「コーキよぉ。カレーのついでに、最強のドワーフを紹介してやろう」
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