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第三章 フリーター、美少女魔王たちと寮の候補地を視察をする

第18話 フリーター、「ランチェスター戦略」で美少女魔王を救う

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 翌日、オレはアンをもう一度、シノブとフィーラの二人を相手にしてもらった。

「わたくしでは、二人に勝てませんわ。カズヤさん?」

 昨日と同じブルマー姿で、アンは自信なさげに答える。

「いや。オレの言う通りにしてもらったら、いける!」

 サムズアップで、オレはアンを励ました。 

 戦闘が始まる。

 アンは相手に魔法で攻撃しようとしても、肉弾戦に持ち込まれて倒されてしまう。
 オレとドロリィスは、遠くから戦局を見守っている。

「戦力を分散しているから、勝てないんだよな?」

「何が言いたい?」

 ドロリィスが、首を傾げた。

「たしか、昔の軍隊の戦略も、学んでいるんだよな?」

「そうだが?」

 オレは立ち上がって、アンに呼びかける。

「アン! 戦法を変えろっ! 召喚獣に乗れ!」

「……はい!」

 息切れをしているアンが、召喚獣のオオカミを呼び戻す。オオカミにまたがって、指示を待った。

「そうだ! 一旦逃げて!」

「え!?」

 一瞬驚いたが、アンは愚直に逃走する。オレを信じてくれたのだろう。
 大丈夫だ。勝たせてやるからな。
 シノブが、ロボの手にフィーラを乗せた。何をする気だ?

「おわ!?」

 なんと、シノブはロボで、フィーラを投げ飛ばした。
 フィーラが、アンのいる地点まで飛んでくる。
 あんな戦法があったとは。

 だが、好都合だ。

「アン、直進! フィーラとすれちがえ!」

「え……わかりました!」

 頭を振って、アンがオレの指示に従う。
 フィーラはすれ違いざまに攻撃を繰り出したが、大回りでアンは避ける。
 遠くに飛ばされたフィーラは、着地と同時に方向を転換した。それでも、シノブとアンの直接対決には間に合わない。

「いい感じだ! フィーラとシノブを、そのまま分散させるんだ!」

「それでは、二対二で戦った方が……」

「いや。フィーラは強すぎる。後回しだ!」

 アンは、シノブのロボに直進していく。

「ロボの機能を、停止させろ!」

「はい!」

 なにも疑問に感じず、アンはシノブのロボに正面から突撃していった。
 シノブのロボが、ふくらはぎに取り付けたポッドから、ミサイルを放つ。オオカミを撃ち落とそうと、シノブは応戦してくる。
 だが、アンには一発も当たらない。
 着弾地点を予測しているかのように、アンはミサイルをすり抜けていった。突進の足を止めない。ミサイルなど、まるで相手にしてはいなかった。
 フィーラは、そうはいかない。ミサイルの爆撃に行く手を阻まれ、前に進めないでいた。

「うわ! ちょっとシノブちゃん危ない!」

「アンネローゼ先輩に当たらない!?」

 無敵と思われた、フィーラとシノブのコンビネーションが乱れる。
 アンが座学を得意としているというのは、間違いじゃないようだ。
 だが、あろうことかアンは、シノブの射線に入った。何をする気なんだ、アンは?
 ロボのミサイルが、アンのいる位置に向けられる。

「あなたの弱点は、これですわ!」

 シノブの眼前に、アンは分厚い資料を見せた。いつの間に忍ばせておいたんだ?

「それは!?」

「図書館から拝借いたしました。いざというときに、役立つと思いまして」

 ミサイルが、降ってこない。

「今ですわ、胸のコードを噛みちぎってくださいまし!」

 アンが、オオカミに指示を送る。
 ロボの胸部にある緑色に光っている球の周りを、オオカミが食いちぎる。
 シノブロボの目から、光が消えていく。エネルギーの供給を絶たれて、シノブのロボが機能を停止したのだ。

「カズヤ、どうやったんだ?」

「分散している部隊を一対一に持ち込んで、こちらは全力で戦うって戦法があったよな?」

「ああ。ランチェスター戦略か!」

 向こうの数が二に対して、こちらはどうしても一となる。召喚獣で数を増やしても、一のまま戦っていては不利だ。だったら、相手の数を分散して、こちらの数を集中させればいい。

 それが、ランチェスター戦略というものだ。

「残りはフィーラさんですが、こちらの戦力が二つでも倒すのは難しいでしょう」

 なにを考えているのか、アンはオオカミから降りた。丸腰なのだから、こちらが騎馬状態のほうが有利のはずなのに。

「融合!」

 なんとアンは、オオカミと一体化した。

「わたくしにだって、プライドと意地があるのですわ! がおーですわーっ!」

 今のアンは、ファンシーなキグルミを着ている。デフォルメされたオオカミの口から、アンは顔を出していた。

 こんな奥の手を、用意していたとは。

「かわいくなっても、手加減はしませんから!」

「それで、構いませんわー!」

 また、アンが魔法を繰り出そうとする。
 いつものように、フィーラが魔法を打つ手首を掴んで、ひねった。

「がおーですわー!」

「えっ!?」

 受け流したのは、アンの方だ。アンは自分からバク転をして、フィーラに投げ飛ばされる前に体勢を整えたのである。逆に、フィーラを横倒しにした。

「チェックメイトですわーっ!」

 フィーラのノドに、アンが爪を突きつける。といってもキグルミの爪なので、ダメージは与えられないのだが。

「参りました」

 キグルミの手をタップして、フィーラは負けを認めた。キグルミの爪とはいえ、これが実戦の魔物の爪なら死んでいただろう。

「やったな、アン!」

「カズヤさんの指導のおかげですわ」

 いや、それは違う。

「オレは、アドバイスしただけだ。後は、アンが自力で戦った結果なんだ」

 やはりアンは、強い。自信がなかっただけだ。相手を傷つけたくないから、手加減していたのだろう。
 しかし、相手に危害を加えることなく負けを認めさせた。キグルミになることで。
 そんな発想を思いつく時点で、アンは二人よりも強いと証明している。

「いいえ。この発想にたどり着いたのは、カズヤさんのアドバイスがあってこそですわ。ありがとうございます。カズヤさん」

「そうか。どういたしまして」

 昼飯ができたとシルヴィアが呼んでいるので、今日の訓練はお開きとなった。

「よし、アンネローゼ! 次はワタシと勝負しろ! いい戦いになりそうだ!」

「もう勘弁してくださいましぃ……」

 力こぶを見せるドロリィスに対し、アンネローゼは肩を落とす。




 数日後、オレは例の召喚士の元を尋ねる。ダンジョンポイントの回収に向かうのだ。

 一週間が早い。

 だが、召喚士の様子はいつもと違う。なんか、自信がついたような。

「ここで待っていてくれ」

 なんと、召喚士がマジックミラーの向こう側へ進んでいった。
 召喚士自らが、リューイチさんとアヤナさんの前に立つ。アンデッドゴーレムを従えて。
 ゴーレムの手の上に、召喚士は乗っかった。
 その状態で、ゴーレムは召喚士を投げ飛ばす。


 この戦法は、この間の。


 後方にいるアヤナさんのところまで、召喚士は吹っ飛んでいった。

「まさか!?」

 アヤナさんが、銃を構えた。
 だが召喚士は、慣れた手付きで相手の銃を持つ方の手首を返し、アヤナさんをなぎ倒す。
 応戦しようとしたリューイチさんを、ゴーレムが棍棒の鍔迫り合いで抑え込む。

「そこまで」

 リューイチさんの後ろから、召喚士が銃口を突きつけた。

「負けたよ」

 剣を捨て、リューイチさんが手を挙げる。

「この短期間で、やたら強くなってるな。あんた」

「気休めの世辞はいい」

「わかったよ。いやあ、まいったね。今週は赤字とは」

 わずかな金と少量のアイテムを置いて、冒険者夫婦は立ち去った。

「ハア、ハア! 初めて、初めて勝った。冒険者に」

 召喚士が、息を乱れさせながら腰を抜かす。銃を取り落とし、呼吸を整えた。

「よくやったじゃねえか、アン」

 オレが後ろから声をかけると、召喚士がフードを取る。顔を覆っていた包帯も、ほどいた。

「よく、お気づきになられましたね?」
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