異世界ダンジョン秘湯巡り。バニーガールと共に ~宝箱には目もくれず、回復の泉だけ求める男(ヘンタイ)~

椎名 富比路

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第五章 天空露天風呂を目指して 前編 精霊塔の打たせ湯

タワー内部の大草原

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「オケアノスのパイセンも日和ったスねー。温泉マニアなんて連れて行くなんて」

 パイセン? 二人は知り合いみたいだな。

「よる年並みに勝てなくなったんスか? しかも、一人は戦闘職じゃない素人じゃないッスかー。大丈夫なんスか?」

 ゲラゲラ笑いながら、オルタはオケアノスさんに噛み付く。

「うるせえ、ミーティングするぞ。集まれ」

 オケアノスさん先導で、ミーティングは始まった。

「今回俺たちが乗り込むダンジョンは、天空に浮かぶ城【雪の城塞】だ」

 騎士隊は騎士隊どうしで、話し合いをしている。
 代表者による打ち合わせは、済ませているらしい。

 依頼主は、セントレア王家である。
 騎士隊を率いているのも、同様の王家だとか。

 探索隊として今回、二〇にも及ぶ大隊が組まれた。
 王家の本気度が窺える。

 オケアノスさんは、グループリーダーの一人に選ばれた。
 オルタの父親たっての希望だそうで。
 オケアノスさんはよほど、王家から信頼されているらしい。

 ボクたちもオケアノスさんのグループとして、ダンジョン攻略に参加するのだ。


「だが、油断はするな。たしかに、オレらの任務は負傷班の回収だ。と言っても、肝心のヒールスポットが見つからなければ全滅してしまう。特に天空城は、まだ人類未踏の地と聞く。気を抜くな」

 まあ、ボクたちは温泉を探すだけなんだけれど。

「そうと決まれば行こう。ではお二方、再度よろしくお願いします」

 ボクたちは、オケアノスさんとシャンパさんの二人とまた組んだ。

「じゃあ、コーヒー牛乳を出してくれ。向こうで味わえないかもしれない。今のうちに乾杯しておこうぜ」
「はい。じゃあ、武運を祈って」

 ボクたちは、コーヒー牛乳をあおった。

 塔周辺の市場で、最後の買い物をする。

「お前さんたちと、こうしてまた旅ができるとはな」

 荷物を確認しながら、オケアノスさんは笑顔を見せた。
 特に、食料面を大量に買い込んでいる。

 シャンパさんは、シズクちゃんと青空薬局へ。
「またいいお湯が見つかったら、教えてよ」

 こちらは回復剤をチェックしていた。
 シャンパさんに美容液なんて必要ないと思うけれど。

「その小瓶は?」
「日焼け止め」

 小瓶に入った乳液を、シャンパさんは顔に塗りたくっていた。

「ダンジョンに入るのに日焼止め? 太陽の光は入らないのでは?」

 外壁は白い土壁に覆い尽くされていて、日の光どころか空気さえ流れるのかどうか。

「タワーに入ったら、わかるわよ」と、シャンパさんは言う。

 ああ、空に近いからか。そりゃあ必要かも。

「あんたも持っておきなさい、シズク」
「わあ、ありがとうございます! では、私からはこれを」

 シズクちゃんが、干物にしたモンスターの肉を二人に提供する。

「まあ、おいしそう。さすがシズクね」

 いよいよ、塔の内部へと入った。

「え、草の感触?」

 草原と土の匂いが、まず鼻に入ってくる。
 今踏みしめているのも、雑草だ。

「なんスか、ここ」

 塔に足を踏み入れて、オルタが目を丸くした。

 無理もない。広い草原の向こうに森まで見えるのだから。

 この塔は、外見こそ普通のタワーを連想させる作りだ。
 しかし、実は内部に森や山がある。
 この世界に近い環境が、この塔には広がっているのだ。

「空間の感覚が狂いそうです」
「そうだろう? ここは魔法使いの実験場だったらしい」

 全部で五つの階層があり、人類が踏破できたのは四階層の奥までだそうだ。

「ちなみに、街で売っている作物や動物も、ここから採取している」
「食べても大丈夫なんですか?」
「なんともないなら平気だろ」

 害はなかったし、問題はないと思うけれど。

「まあ、アタシがいるからには、どんな敵もシバいてあげるッスよ。大船に乗ったつもりで構えといてほしいッス!」
 無謀にも、オルタが先陣切ってズンズン進む。

「大丈夫かなぁ?」
「ほうっておきましょう」

 ボクは心配だけど、シズクちゃんは無関心である。

「さっそくお出ましだぜ」
 敵の気配を察知し、オケアノスさんが剣を抜く。

「ものすごい数のモンスターが、押し寄せてきます」
 シズクちゃんが、長い耳をそばだてている。

 刹那、標準より大きいサイズの牛や鹿が群れを成す。

「なんなのコイツら! 前に見たときは、こんなに大群じゃなかったのに!」

 ぼやきながら、シャンパさんが火球でハチを撃ち落としていく。
 そのハチまでもが、人間の背丈ほどあった。

「くそ、奥のレッサーデーモン共が大群をけしかけてやがる!」
 鹿を投げ飛ばし、オケアノスさんは牛の首をへし折る。

 騎士たちは正攻法でモンスターに攻撃を加えていた。

 数は、一向に減る気配がない。

「こうなったら、あたしの実力を見せる時ッスね!」

 オルタが、剣を真横に構える。自分の周辺に、銀色の剣を形作った。オルタ自身をなぞるように。
 剣は一二枚の細長い翼を携えて、羽ばたいた。

「バカよせ、消耗しすぎるなっ!」
「必殺、ミスリルの翼ぁ! うおおおおおお!」

 オケアノスさんの注意も、オルタは聞かない。
 ミスリルの剣へと変形したオルタが、敵陣に突っ込んでいく。

 レッサーデーモン族が、破裂音と共に黒い灰と化す。

「ホラホラ、ぼやぼやしてたら後ろからバッサリッスよーっ!」
 ニタニタしながら、オルタは先へ進んでいった。

 頼もしいのやら、無謀なのやら。
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