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第五章 天空露天風呂を目指して 前編 精霊塔の打たせ湯
作戦会議
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「バカねえオルタ。カッコつけて、サイズオーバーのビキニなんかつけてくるからよ」
「スレンダーでもクールビューティなシャンパ姉さんにはわかんねえッス。黙っててほしいッスねっ」
ビキニを直しつつ、オルタはボクを指さした。
「それよりお兄さんッスよ。こんなナイスプロポーションをお持ちのウサギさんと、添い遂げてらっしゃらない?」
アゴを大きく広げて、オルタは首を何度も振った。
「でも、シズクちゃんとはそういう仲じゃないんだけど」
「ある意味で生殺しッスねえ」
「そういうオルタちゃんも、結構魅力的だと思いますよ?」
「全っ然。女として見られてないッス」
シズクちゃんが褒めても、オルタは手をヒラヒラさせる。
ボーイッシュな見た目に反して、出るところは出ていた。
誰も放っておかないとは思うのだだけれど?
入浴交代の時間となった。
「では、そろそろ出ましょ。みんな待ちくたびれているわ」
「健康になったら、お腹すいたッス」
「だったら、コーヒー牛乳をカズユキからもらいなさいな。ハマっちゃうわよ」
風呂から上がり、ボクはオルタにコーヒー牛乳をあげる。
「おお、これぞ文明の利器ッスね! いつもまっずいポーションばっかだから、このチープな味が染み渡るッス! あ、褒め言葉ッスよカズユキ殿!」
オルタも、気に入ってくれて何よりだ。
安全地帯にキャンプを張り、ボクたちも食事にする。
メインディッシュは、シズクちゃんが獲ってきた怪鳥の肉だ。
まだ先は長い。今のうちに英気を養っておく。
「随分と、楽しげな旅ッスねぇ。オケアノスパイセンとは、逆の生き方ッス」
ボクたちの旅行記を聞きながら、オルタがオケアノスさんの方を向く。
「そうなのですか?」
「ええ。騎士に入隊していたのは、まとまった旅費を稼ぐためらしかったッス」
大型魔物の討伐といった、大きな仕事もできることも魅力だったそうな。とはいえ常に大勢のグループで行動しなければならず、不自由も多かった。
「何がイヤかって、俺が苦労して手に入れた金もアイテムも、隊で山分けだとさ。気にくわねえ。俺のモンは俺のもんだろうが!」
会話に入ってきたオケアノスさんが、虚空を掴む。最終的に取り分について騎士団内でもめ事を起こし、隊を辞めたそうだ。
「で、俺は部隊を抜けて、冒険者になった」
「家庭も作らないので? シャンパ先生といい仲では?」
オルタがニヤけると、シャンパさんは左手を見せた。金の指輪をはめている。薬指に。
「シャンパは故郷に夫がいるぜ。学者だとよ」
オケアノスさんが、シャンパさんとダンナさんとの仲を取り持ったとか。
三人は、幼なじみだという。
シャンパさんの夫は魔法学校の講師で、優秀すぎて街を抜けられないらしい。定期的に、シャンパさんの口座へ金を送っているという。
「どうして旅に同行しないので?」
「頭はいいんだけど、性格が戦闘に向いてないからよ。特に虫が嫌いなのよね」
だったら、ダンジョン探索は不可能だ。
このフロアなんて、巨大グモの巣窟だったし。
「寂しくないんスか?」
「会いたくなったら、これがあるわ」
付け根に飾りの付いたワシの羽根を、シャンパさんがアイテムボックスから取り出す。
「ホルスを呼び出す伝説のアイテムじゃないッスか。それで帰ると」
「そういうこと」
いつでも会えるから、シャンパさんは心配がないのだという。
「わたしが調査した資料を魔法学校へ文章で転送して、あの人がまとめるの。温泉資料は、興味深いって言っていたわ」
回復の泉の存在価値は、魔法学校でも見直されているそうだ。
「それはうれしい報告ですね」
続けていた甲斐があった。
「じゃあ、今まで得た温泉の調査報告を、シャンパさんにお渡ししますよ」
ボクはノートPCを、シャンパさんに見せる。
「すごいわね、これ。ドラゴンサウナって、あなたが作ったの?」
「はい。今でもちゃんと稼働しているそうですよ」
現在は力試しの冒険者より、サウナ目的の行商人が後を絶たないそうな。タダで入れてあげる代わりに、リムさんたちはお手製のお土産を街で売ってもらうのだという。
「ありがとう、カズユキ! あの人もきっと喜ぶわっ」
興奮気味に、シャンパさんは資料を転送し続けた。
「しかし、この塔にどうして作物が育っているのか、まったくわからないんですよ」
水は地下水か、雨水だろう。ガラス張りのフロアがあったから、日光だって取り込める。それでも、これだけの生態系を維持するには、循環が必要なはず。それがどういった仕組みなのか不明なのだ。
「ちょっとレベルを上げていきませんか? このまま行っても、犬死にしそうです。少しでも強くなっておいた方が」
キャンプをしながら、気になっていたことを話す。このまま行っても、ダンジョンを突破できる可能性は低い。
「はいはい。私も賛成です!」
ボクの提案に、シズクちゃんも賛同した。
まだ、ここのモンスターは狩りやすい。食料にもなるし。
「故郷のエライ人は、こんな言葉を遺しています。『六時間で木を切れと言われたら、自分は最初の一時間で斧を研ぎます』って」
リンカーンの言葉だ。
「準備を怠るな、って意味ね?」
「そうだな。では、少し時間をくれるか? お前さんたちの業務に支障は?」
「ありません。むしろ、もっと回復の泉を探して認定しておきたい。今後のためにです」
ボクは承諾した。
「スレンダーでもクールビューティなシャンパ姉さんにはわかんねえッス。黙っててほしいッスねっ」
ビキニを直しつつ、オルタはボクを指さした。
「それよりお兄さんッスよ。こんなナイスプロポーションをお持ちのウサギさんと、添い遂げてらっしゃらない?」
アゴを大きく広げて、オルタは首を何度も振った。
「でも、シズクちゃんとはそういう仲じゃないんだけど」
「ある意味で生殺しッスねえ」
「そういうオルタちゃんも、結構魅力的だと思いますよ?」
「全っ然。女として見られてないッス」
シズクちゃんが褒めても、オルタは手をヒラヒラさせる。
ボーイッシュな見た目に反して、出るところは出ていた。
誰も放っておかないとは思うのだだけれど?
入浴交代の時間となった。
「では、そろそろ出ましょ。みんな待ちくたびれているわ」
「健康になったら、お腹すいたッス」
「だったら、コーヒー牛乳をカズユキからもらいなさいな。ハマっちゃうわよ」
風呂から上がり、ボクはオルタにコーヒー牛乳をあげる。
「おお、これぞ文明の利器ッスね! いつもまっずいポーションばっかだから、このチープな味が染み渡るッス! あ、褒め言葉ッスよカズユキ殿!」
オルタも、気に入ってくれて何よりだ。
安全地帯にキャンプを張り、ボクたちも食事にする。
メインディッシュは、シズクちゃんが獲ってきた怪鳥の肉だ。
まだ先は長い。今のうちに英気を養っておく。
「随分と、楽しげな旅ッスねぇ。オケアノスパイセンとは、逆の生き方ッス」
ボクたちの旅行記を聞きながら、オルタがオケアノスさんの方を向く。
「そうなのですか?」
「ええ。騎士に入隊していたのは、まとまった旅費を稼ぐためらしかったッス」
大型魔物の討伐といった、大きな仕事もできることも魅力だったそうな。とはいえ常に大勢のグループで行動しなければならず、不自由も多かった。
「何がイヤかって、俺が苦労して手に入れた金もアイテムも、隊で山分けだとさ。気にくわねえ。俺のモンは俺のもんだろうが!」
会話に入ってきたオケアノスさんが、虚空を掴む。最終的に取り分について騎士団内でもめ事を起こし、隊を辞めたそうだ。
「で、俺は部隊を抜けて、冒険者になった」
「家庭も作らないので? シャンパ先生といい仲では?」
オルタがニヤけると、シャンパさんは左手を見せた。金の指輪をはめている。薬指に。
「シャンパは故郷に夫がいるぜ。学者だとよ」
オケアノスさんが、シャンパさんとダンナさんとの仲を取り持ったとか。
三人は、幼なじみだという。
シャンパさんの夫は魔法学校の講師で、優秀すぎて街を抜けられないらしい。定期的に、シャンパさんの口座へ金を送っているという。
「どうして旅に同行しないので?」
「頭はいいんだけど、性格が戦闘に向いてないからよ。特に虫が嫌いなのよね」
だったら、ダンジョン探索は不可能だ。
このフロアなんて、巨大グモの巣窟だったし。
「寂しくないんスか?」
「会いたくなったら、これがあるわ」
付け根に飾りの付いたワシの羽根を、シャンパさんがアイテムボックスから取り出す。
「ホルスを呼び出す伝説のアイテムじゃないッスか。それで帰ると」
「そういうこと」
いつでも会えるから、シャンパさんは心配がないのだという。
「わたしが調査した資料を魔法学校へ文章で転送して、あの人がまとめるの。温泉資料は、興味深いって言っていたわ」
回復の泉の存在価値は、魔法学校でも見直されているそうだ。
「それはうれしい報告ですね」
続けていた甲斐があった。
「じゃあ、今まで得た温泉の調査報告を、シャンパさんにお渡ししますよ」
ボクはノートPCを、シャンパさんに見せる。
「すごいわね、これ。ドラゴンサウナって、あなたが作ったの?」
「はい。今でもちゃんと稼働しているそうですよ」
現在は力試しの冒険者より、サウナ目的の行商人が後を絶たないそうな。タダで入れてあげる代わりに、リムさんたちはお手製のお土産を街で売ってもらうのだという。
「ありがとう、カズユキ! あの人もきっと喜ぶわっ」
興奮気味に、シャンパさんは資料を転送し続けた。
「しかし、この塔にどうして作物が育っているのか、まったくわからないんですよ」
水は地下水か、雨水だろう。ガラス張りのフロアがあったから、日光だって取り込める。それでも、これだけの生態系を維持するには、循環が必要なはず。それがどういった仕組みなのか不明なのだ。
「ちょっとレベルを上げていきませんか? このまま行っても、犬死にしそうです。少しでも強くなっておいた方が」
キャンプをしながら、気になっていたことを話す。このまま行っても、ダンジョンを突破できる可能性は低い。
「はいはい。私も賛成です!」
ボクの提案に、シズクちゃんも賛同した。
まだ、ここのモンスターは狩りやすい。食料にもなるし。
「故郷のエライ人は、こんな言葉を遺しています。『六時間で木を切れと言われたら、自分は最初の一時間で斧を研ぎます』って」
リンカーンの言葉だ。
「準備を怠るな、って意味ね?」
「そうだな。では、少し時間をくれるか? お前さんたちの業務に支障は?」
「ありません。むしろ、もっと回復の泉を探して認定しておきたい。今後のためにです」
ボクは承諾した。
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