異世界ダンジョン秘湯巡り。バニーガールと共に ~宝箱には目もくれず、回復の泉だけ求める男(ヘンタイ)~

椎名 富比路

文字の大きさ
23 / 49
第五章 天空露天風呂を目指して 前編 精霊塔の打たせ湯

作戦会議

しおりを挟む
「バカねえオルタ。カッコつけて、サイズオーバーのビキニなんかつけてくるからよ」

「スレンダーでもクールビューティなシャンパ姉さんにはわかんねえッス。黙っててほしいッスねっ」
 ビキニを直しつつ、オルタはボクを指さした。

「それよりお兄さんッスよ。こんなナイスプロポーションをお持ちのウサギさんと、添い遂げてらっしゃらない?」
 アゴを大きく広げて、オルタは首を何度も振った。

「でも、シズクちゃんとはそういう仲じゃないんだけど」
「ある意味で生殺しッスねえ」
「そういうオルタちゃんも、結構魅力的だと思いますよ?」

「全っ然。女として見られてないッス」
 シズクちゃんが褒めても、オルタは手をヒラヒラさせる。
 ボーイッシュな見た目に反して、出るところは出ていた。
 誰も放っておかないとは思うのだだけれど?

 入浴交代の時間となった。

「では、そろそろ出ましょ。みんな待ちくたびれているわ」
「健康になったら、お腹すいたッス」
「だったら、コーヒー牛乳をカズユキからもらいなさいな。ハマっちゃうわよ」

 風呂から上がり、ボクはオルタにコーヒー牛乳をあげる。

「おお、これぞ文明の利器ッスね! いつもまっずいポーションばっかだから、このチープな味が染み渡るッス! あ、褒め言葉ッスよカズユキ殿!」

 オルタも、気に入ってくれて何よりだ。

 安全地帯にキャンプを張り、ボクたちも食事にする。
 メインディッシュは、シズクちゃんが獲ってきた怪鳥の肉だ。

 まだ先は長い。今のうちに英気を養っておく。

「随分と、楽しげな旅ッスねぇ。オケアノスパイセンとは、逆の生き方ッス」

 ボクたちの旅行記を聞きながら、オルタがオケアノスさんの方を向く。

「そうなのですか?」
「ええ。騎士に入隊していたのは、まとまった旅費を稼ぐためらしかったッス」

 大型魔物の討伐といった、大きな仕事もできることも魅力だったそうな。とはいえ常に大勢のグループで行動しなければならず、不自由も多かった。

「何がイヤかって、俺が苦労して手に入れた金もアイテムも、隊で山分けだとさ。気にくわねえ。俺のモンは俺のもんだろうが!」

 会話に入ってきたオケアノスさんが、虚空を掴む。最終的に取り分について騎士団内でもめ事を起こし、隊を辞めたそうだ。

「で、俺は部隊を抜けて、冒険者になった」
「家庭も作らないので? シャンパ先生といい仲では?」

 オルタがニヤけると、シャンパさんは左手を見せた。金の指輪をはめている。薬指に。

「シャンパは故郷に夫がいるぜ。学者だとよ」

 オケアノスさんが、シャンパさんとダンナさんとの仲を取り持ったとか。
 三人は、幼なじみだという。
 シャンパさんの夫は魔法学校の講師で、優秀すぎて街を抜けられないらしい。定期的に、シャンパさんの口座へ金を送っているという。

「どうして旅に同行しないので?」
「頭はいいんだけど、性格が戦闘に向いてないからよ。特に虫が嫌いなのよね」

 だったら、ダンジョン探索は不可能だ。
 このフロアなんて、巨大グモの巣窟だったし。

「寂しくないんスか?」
「会いたくなったら、これがあるわ」

 付け根に飾りの付いたワシの羽根を、シャンパさんがアイテムボックスから取り出す。

「ホルスを呼び出す伝説のアイテムじゃないッスか。それで帰ると」
「そういうこと」

 いつでも会えるから、シャンパさんは心配がないのだという。

「わたしが調査した資料を魔法学校へ文章で転送して、あの人がまとめるの。温泉資料は、興味深いって言っていたわ」

 回復の泉の存在価値は、魔法学校でも見直されているそうだ。

「それはうれしい報告ですね」

 続けていた甲斐があった。

「じゃあ、今まで得た温泉の調査報告を、シャンパさんにお渡ししますよ」

 ボクはノートPCを、シャンパさんに見せる。

「すごいわね、これ。ドラゴンサウナって、あなたが作ったの?」
「はい。今でもちゃんと稼働しているそうですよ」

 現在は力試しの冒険者より、サウナ目的の行商人が後を絶たないそうな。タダで入れてあげる代わりに、リムさんたちはお手製のお土産を街で売ってもらうのだという。

「ありがとう、カズユキ! あの人もきっと喜ぶわっ」
 興奮気味に、シャンパさんは資料を転送し続けた。
「しかし、この塔にどうして作物が育っているのか、まったくわからないんですよ」

 水は地下水か、雨水だろう。ガラス張りのフロアがあったから、日光だって取り込める。それでも、これだけの生態系を維持するには、循環が必要なはず。それがどういった仕組みなのか不明なのだ。

「ちょっとレベルを上げていきませんか? このまま行っても、犬死にしそうです。少しでも強くなっておいた方が」

 キャンプをしながら、気になっていたことを話す。このまま行っても、ダンジョンを突破できる可能性は低い。

「はいはい。私も賛成です!」

 ボクの提案に、シズクちゃんも賛同した。

 まだ、ここのモンスターは狩りやすい。食料にもなるし。

「故郷のエライ人は、こんな言葉を遺しています。『六時間で木を切れと言われたら、自分は最初の一時間で斧を研ぎます』って」

 リンカーンの言葉だ。

「準備を怠るな、って意味ね?」 
「そうだな。では、少し時間をくれるか? お前さんたちの業務に支障は?」

「ありません。むしろ、もっと回復の泉を探して認定しておきたい。今後のためにです」
 ボクは承諾した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...