オカルト刑事《デカ》 ~スラッシャーと化したヘラギャル VS 百人の退魔師~

椎名 富比路

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第二章 ヘラるスラッシャー対百人の退魔師 ~ピが大事にしていたペットと一つになった。これであたしも、ピの一部ってことだよね~

「ピ」の正体は?

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 せっかく中華街の後に温泉でのんびり過ごそうと思ったのだが、ウチのお姫様はまだ捜査がしたりないとのことである。

「すいません、カオル。灯芯トウシン キリカの異性関連で、どうしてもひっかかってしまっていまして」
「あーもう、好きにしろ。どうせ温泉っつっても、オレらの予算ではスーパー銭湯くらいしか入れねえから」
「今度は、ちゃんと観光しましょう」
「約束だぜ。よし、着いた」 

 夜も遅いと言うのに、H県警のオカルト課は快く捜査に応じてくれた。

「すいません」
「いいんですよ、青嶋アオシマ警部。こちとら、一人で寂しくってさぁ」

 涙で鼻をすすりながら、オカルト課の捜査官はカツ丼を貪る。
 三〇代後半の男性だ。
 蛍光灯の光が、彼の左手薬指に収まっているリングに反射した。

「あ、どうぞ食べてくださいね」

 捜査官は、オレたちの分の出前まで取ってくれた。カツ丼と味噌汁である。

「ごめんなさいね。好みも聞かずに頼んじゃって。まあ、あの店はこれしか出ないんだけどね。あはは!」

 楽しそうに話す人だ。よほど、一人は堪えるらしい。話し相手が欲しいそうな。

「ではいただきます」

 店屋物でも、ありがたい。腹が減っていたので、オレはガツガツと食う。

 緋奈子ヒナコも、うまそうにカツ丼を食っていた。

「おかわりはありませんが、デザートにまんじゅうがありますよ。県の名物なんです」
「ありがとうございます」

 お礼として、捜査資料を交換する。

「いいんですか? よそのナワバリを荒らしてしまうようで」
「ああ、構いません。バンバンやってください。ボクの方から言っておきますよ」

 他部署の捜査官なんて来たら、普通は嫌な顔をされる。だが、彼は違うようだ。

「一応、他の市にも部署はあるはあるんですよ。でもねぇ。駆り出されるのはいつもボクでして」
「わかりますよ。大変ですよねぇ」

 たいてい、スラッシャー刈りには強いやつが選ばれるものだ。彼も、腕を見込まれて課に入れられたクチだろう。

「つい最近、結婚したばかりなんです。が、書類整理が終わるまで帰れないんですよぉ。それに灯芯キリカの案件でしょ? 早く帰って、手料理が食いたいですなぁ」
「いやはや、なんとも」

 まずいときにきてしまったか? グチ大会になりそうだ。

「すいませんが」
「そうそう、灯芯 キリカの男性関係でしたな」

 こういうとき、緋奈子のKYぷりは役に立つ。話をバッサリと切って、話題を切り替えた。

「小中高と、おとなしいものでした。キリカを狙っている男子はいたようですが、どれも空振りだったようですな」

 しかし、どうも実の父に性的虐待されていたのは事実だったようだ。
 児相も動いていたという。
 中学の頃に父が失踪したことで、結局うやむやになった。

「行方はわからずじまいで?」
「それが、その父親のものらしい血痕が道路上で見つかった以外、手がかりがないんですわ。不可解な事件でした」

 今も尚、迷宮入りしているとか。

「で、犯行現場は」

 緋奈子が催促すると、捜査官は地図を広げた。写真も数点用意する。

「ここが、被害のあった森です。ここの掘っ立て小屋に、異性と住んでいた形跡が」

 焼け跡から、カップなどの食器類が二人分、出てきたたらしい。

「それと、こんなものが引き出しの中から出てきました」

 捜査官がオレたちに見せたのは、ウェブ日記である。
 誰にも見せないクローズドの日記を、スマホのメモ帳に書いていたらしい。
 それを印刷したものである。

「クラウドに残っていたメモ帳を、復元したものです。この裏付けのために、ボクは毎夜毎夜泊まり込みなんですよぉ」

 また、捜査官はハンカチで目頭を押さえた。

「拝見いたします」

 緋奈子が、コピー用紙を目で追う。


『ピは、いつもあたしにやさしくしてくれる。だいすき』


「……ピ?」

 意味不明な単語に、緋奈子が首をかしげた。

「カオル、ピってなんですか?」
「彼氏をカレピとか、好きピ呼ぶらしいぜ」

 耳心地をよくするための、呼び方だろうとは思う。詳しくはわからない。

 緋奈子は、理解できないとばかりに首を振った。

 さすがにオレも意味がわからないので、日記をさかのぼってみる。

 ウェブ上の日記はほとんど潰れていて、読めなかった。

「そこのクラウド、負債を抱えて閉鎖されちゃってるんですよ」
「誤字も多いですね」

 赤丸で誤字を指摘し、赤字で予想できる文章に書き直している。

 断片的に残っていたものを、とにかく読み漁るしかない。
 
『バイト先で、好きピができた。聞いたら同級生だった。この間助けてくれたのも、彼だった。運命じゃん!』


「ここまででは、交際相手と魔王との関与は感じられませんね」
「それなんですが、これを御覧ください」

 捜査官が、箸を舐めて丼に置いた。指で、メールの文面をパシパシ叩く。

『ヤバイ男たちに追いかけ回されていたら、とある男性が助けてくれた。名前はわからない。声をかけようとしたら、一人で男たちに立ち向かっていった。あたし逃げちゃったけど、一人で大丈夫なの?』
 
 これは、高校卒業時のことだろう。

「こんなときから、魔王は暗躍していたことになるな」
「おそらく、認識されていなかった可能性があります」
「たとえば」
「復活したばかりだったなどの理由が、考えられますね。力が弱かったからなのでは?」

 となると、魔王が蘇ったのは高校卒業した辺りか、もっと前か。
 
『パパは、ピが食べてくれたらしい。その後、ママもいなくなっちゃった。ピがやったんだって』

「食べてくれた」という響きが、引っかかる。

「親と不仲だったのでしょうね」
「性格が歪んだのも、両親が原因だろう」

 
『これまであたしを苦しめていたヤツラは、みんなピが食べてくれた。うれしい』
 
 つまり、そのピなる人物は、キリカがガキの頃からずっとつきまとっていたと。
 陰ながら、キリカの障害を排除していたってわけか。

「ピが魔王と関係しているのかも、しれませんね」
「うん。なんか怪しいな、コイツ」

 ピという人物は、魔王を利用してキリカに接触を試みたのかもしれない。
 好意を持った相手に振り向いてほしくて、手を尽くしていたのだろう。

「それにしても、魔王を蘇らせるなんて、相当の魔力がなければいけません。ピとは何者で、魔王復活の材料をどこで調達したのでしょう?」

 H県警の捜査官に話を振ってみたが、首をかしげている。

「この交際相手に関してですが、犯歴にも載っていないどころか、存在自体しているのかわからんのです。学校に尋ねても、知らぬ存ぜぬでして」

 どうやら、この「ピ」探しが、この事件のカギを握っているかもしれない。

「ありがとうございました」
「いやいや、大したおもてなしもできず」

 H県警を後にし、今度こそ休むことにした。

「犯行の映像に、ピなる男性はいませんでしたね?」
「だな。でも別れたって感じじゃない」
「ということは、殺害されたのでしょうか?」
「誰に?」
「弥生の月」

 ピは、退魔組織『弥生の月』に殺されたのではと、緋奈子は推理する。

「じゃあ、キリちゃすの動機は怨恨ってことになるよな? 恋人を殺されたんだもんな」

 だとすると、関係者が命を狙われていることは辻褄が合う。

「でもよ、弥生の月はヤーさん絡みではあっても、殺人集団じゃねえよ」

 退魔師であることはたしかだが、暗殺までするとは。

「第一、ピはなんで弥生の月に狙われたんだよ?」
「魔王を復活させたから、と考えられないでしょうか?」 
「焼け跡から、死体は上がっていない」

 バラして処分する必要性も時間も、あったとは考えられなかった。

「調べ直す必要がありそうですね」
「ああ。だが……」

 オレは、緋奈子の肩を組んだ。

 背後にまとわりつく気配にさとられないように。

「なんです?」
「つけられている」

 先にやるべきことができそうだ。
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