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第二章 ヘラるスラッシャー対百人の退魔師 ~ピが大事にしていたペットと一つになった。これであたしも、ピの一部ってことだよね~

百人の刺客

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 プールに浸かりながら、天鐘テンショウは浮かれていた。

 天鐘を囲むのは、旨い酒と、極上のいい女たちである。

 狙われて、ヤケになっているのではない。本心から、このパーティを楽しんでいた。

「おい、ビールもってこい!」

 小間使いが、小さなビールを用意する。

「おせえんだよ!」

 天鐘が、プールサイドに置いていた拳銃をぶっ放す。

 音にビビって、小間使いが逃げていく。

 そのさまを、天鐘はゲラゲラ笑いながら見送った。

 周りも笑っているが、心からあざ笑っているのは数名だけとわかる。あとは、天鐘の機嫌に合わせていた。

 気に食わない。誰も自分に心を開かないことが。この世界全てが、天鐘を「無能」と囁いている気がする。

 自分は最強の家柄に生まれた。だが、実態はどうだ? みんな父に怯えているだけ。天鐘を見ている者はいない。いたとしても、自分と同じクズな奴らだけだ。

 警備員たちが、天鐘の元に歩み寄る。

「んだ? おめえらもチーズが欲しいのか?」

 プールサイドにあったチーズの盛り合わせを、天鐘は足で警備員たちの足元に寄せた。

「食えよ、ロバの希少なミルクを使ったドンキーチーズだ。ただし四つん這いでな。ケケケケェ!」
「その辺にしておけよ」

 開脚気味にしゃがみこんで、警備員は天鐘の顔を睨む。

「テメエ。堂本ドウモトの配下だからって、調子に乗るんじゃねえよ! ここでは俺ががボスだ。この斗弥生 天鐘の指示に従えってんだ!」

 天鐘は腕をふるって、プールの水を警備員の顔にぶっかける。せっかくの高いチーズも、台無しになった。

 しかし、警備員は態度を崩さない。

「怖いもの知らずも、ここまで来ると哀れだな。自分がどんなスラッシャーを相手にしているかも知らずに、呑気なもんだ」

 警備兵が鼻を鳴らす。その顔からは、哀れみと呆れ、侮辱が見えた。

「なんだよ、ビビってんのか? ざっけんな! 俺は怖かねえ!」
「お前さんにも、ビビってほしいのさ。おぼっちゃま」

 警告した後、警備員はプールサイドに置いてあった瓶ビールを取り上げて、立ち去る。

「おい、ビールをもう一本もってこい!」

 今度は、誰も来やしない。 


 代わりに、チェーンソーがこちらに飛んでくる。


 黒い粘着質の物体まみれになった電動ノコギリが、天鐘を縦に切り裂こうと迫ってきた。

「やべ!」

 間一髪のところで、天鐘は難を逃れる。

 チェーンソーの一つは、プールサイドに突き刺さって止まった。

 もうひとつは、同僚の肩をえぐっている。


 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~
 

 油断したか。キリちゃすは舌打ちをする。いくらなんでも、相手を舐めすぎた。

『外したぞ』

 粘液状の魔王が、チェーンソーを引き戻す。

「めんど」

 キリちゃすは、スライム状の魔王をチェーンソーにくっつけて飛ばした。確実に首を狙ってたつもりだったのに。

「確実に当ててよね」
『やはり、ブランクがあるようだ』

 何百年も眠っていたから、殺人に空白期間があるという。

「スランプ状態?」
『そうらしい。もう少し殺し足りなかったようだ』
「じゃあ、もっと殺せば戦いやすい?」
『かもしれん』

 再度、キリちゃすはチェーンソーを構えた。

「なんだてめえは?」
「ナイトプール中みたいだったから、いい感じのバスボムを用意してあげた」

 首のない死体から赤黒い血が流れて、青白い光を放つプールを染める。

 プールに入っている奴らを切り刻みながら、チェーンソーは天鐘めがけて迫る。

「ひいいいい!」

 頭を抱えながら、天鐘は跳ぶ。ダッシュしながら、チェーンソーを回避した。二連続の攻撃だったのに。

 運のいいやつだ。あの攻撃を二つとも避けるとは。

 バスタオル一枚のまま、天鐘は逃げ出す。

「逃さない」

 キリちゃすはチェーンソーを投げ飛ばそうとした。

 しかし、両側から弾丸が飛んでくる。

 電動ノコギリの刃で、キリちゃすは弾を受け止めた。

 二人の護衛が、銃を撃ちながらキリちゃすを挟み撃ちにしようとする。

 だが、キリちゃすはチェーンソーを銃撃してくる相手に向かって投げ飛ばした。

 武装している二人は、刃には注意を払っていたらしい。しかし、魔王である粘液に絡め取られる。そのため、チェーンソーを抱きしめる形となった。

 拳銃を持った敵が、電動ノコギリの刃を抱擁しながら絶命する。

「逃げるな」

 またキリちゃすは、天鐘にチェーンソーを投げつけた。次は、絶妙な距離である。今度こそ、確実に仕留められるだろう。

 家の壁に大量に生えていた蔓が、チェーンソーに絡みつく。

 刃の軌道が変わってしまったではないか。

 蔓は切り捨てることができたものの、天鐘の足元に突き刺さった。

 キリちゃすの集中力が切れて、チェーンソーが止まる。

 こちらが攻撃をやめたことで、他の人間たちが退散していく。

 入れ替わりで入ってきたは、東洋の法衣を来たスキンヘッドの男性だ。顔は五〇代のおっさんだが、中二系のマンガで見るようなデカイ数珠を所持している。

「あいつのせい?」
『そうらしいな』
「あれがさっきの警備が言ってた、雇われ退魔師?」 
『たしかに面倒なやつが来た。次の相手は、傭兵と化した退魔師だ』

 魔王の言葉からして、厄介な敵らしい。

「やれ!」と、天鐘が指示を出した。

 粘液を操作して、キリちゃすは天鐘を斬り殺そうとする。

 だが、緑色の障壁に阻まれた。あの坊主が、術で木の蔓を操っているようだ。

「参ります」と一言つぶやき、坊主が拝みだす。僧侶が手に持つ数珠が、ひとりでにフワリと浮き上がる。

 またしても、蔓がひとりでに動き出した。

 両手は蔓を切り刻んだが、足首を取られる。

 キリちゃすは、逆さまの体勢にされた。

「この蔓の警戒をくぐり抜けたことは、褒めましょう。しかし、自分から敵地に単身乗り込んでくるとは、あまり賢い方とは思えませんな」
「昔は勉強できたんだけど、あんま学校にいなかったからね。成績は中学でガタ落ちしたっけ」
「死ねば、いくらでも学習できましょうぞ。我々僧侶はみな、織田信長に恨みを持っております」
「ノブナガ?」

 織田信長と魔王が関係あるのか、魔王に尋ねてみる。

『私の前の飼い主だな』

 当時の情報を、脳内に直接流してもらう。

 比叡山を燃やすなど宗教弾圧が盛んだったと、教科書には記されている。「退魔師狩りだった」とも。

 逆恨みもいいところだ。僧侶狩りは、織田信長が独自にやったことである。魔王は西洋東洋関係なく、宗教など滅ぼすつもりだった。信長の戦略として、見逃してあげていただけで。

「あの世で過去の同胞にお詫びなさい」

 坊主が手を合わせる。

 蔦が、キリちゃすの首に巻き付いた。

「あたしからも、一つ教えてあげる」

 逆さまになりながら、キリちゃすは警告する。

「いいでしょう。なんなりと」

 余裕ぶった様子で、キリちゃすに近づく。

「敵とのんきにしゃべってちゃ、ダメだよ」

 足首に絡みついていた蔦を、キリちゃすは切断した。
 足にチェーンソーをローラーブレードのようにハメて、切り刻んだのである。
 ついでに、僧侶も等しくサイコロステーキに変えた。

 僧侶の肉片が、焚き火台の上でジュワッと音を立てる。

 キリちゃすは、焼けた僧侶の肉を素手でつまんだ。口の中に、ポイと放り込む。

 実に不快な食感だ。いじめっ子に消しゴムを食わされた時のような、拒否感が出る。

「おいしくないね」
『歳を取りすぎておったようだな』

 だが、内臓はまだ食えるか。

「あいつ、逃げちゃうね」
『追うぞ……ぬ』

 十数人の僧侶が、キリちゃすを取り囲んだ。 

『まだ来るぞ』
「みんな、バーベキューにしちゃえばいいじゃん」

 足のチェーンソーを、キリちゃすは起動させた。
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