オカルト刑事《デカ》 ~スラッシャーと化したヘラギャル VS 百人の退魔師~

椎名 富比路

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第二章 ヘラるスラッシャー対百人の退魔師 ~ピが大事にしていたペットと一つになった。これであたしも、ピの一部ってことだよね~

キリちゃすとの対決

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 丸腰のキリちゃすに、オレは拳銃を突きつけている。

 キリちゃすは、戦闘ヘリを撃ち落としたらしい。車で山を登っているとき、爆発が見えた。

 黒煙を上げる残骸には、ツタが絡まっている。植物を操ることができるのか?

 相手を分析しつつ、目をそらさない。

「武器を捨てろ!」

 オレが銃を向けると、キリちゃすは足に装着しているローラーブレードを蹴り捨てた。血や肉片が、表面にへばりついている。しかも、回転式の刃がついているじゃねえか。

「チェーンソーじゃねえか。これを足にはいて、戦っていたのかよ」

 武器を自分の戦闘スタイルに合わせて変形させるタイプは、よく相手にした。が、これほど精巧に仕上げるやつは初めてである。よく刃が傷まなかったものだ。

「両手を頭の上に乗せろ!」

 キリちゃすは、後頭部に手を置く。スラッシャーにも関わらず、キリちゃすはすべての指示に応じた。

「……変だと思わねえか?」

 目線をキリちゃすに向け続け、緋奈子ヒナコに問いかける。

「どうしました、カオル?」

 緋奈子が聞き返してきた。

「あのヤロウ、銃を持ってるオレより、あんたを警戒している」

 キリちゃすの目は、オレではなく緋奈子に照準を合わせている。

『よいのか?』

 男の声がする。

 キリちゃすの唇は、動いていない。

「なにがだよ?」
『早くトドメを刺すべきだった』

 キリちゃすが、背中に腕を回す。

「しまった!」

 オレは引き金を引こうと、銃に指をかける。

「いけない、カオル!」

 突然、緋奈子がオレにタックルした。地面に叩きつけられる。

 オレのいた場所に、煙が上がった。

 緋奈子の髪留めが外れて、銀色の髪が風に流れる。

 キリちゃすの手には、ショットガンが握られていた。

「彼女が背負っているリュックサックが、魔王です!」
「マジかよ」

 あらゆる武器を、リュック型になった魔王に収納しているようだ。

 排莢したあと、キリちゃすが再び発砲する。

 オレたちは、転がって回避した。

 威嚇? 殺す気はない?

「ナメやがって!」

 起き上がり、再びオレはキリちゃすに銃を向ける。

『警察に用はない。邪魔をしないなら、こちらも手を出さないでおいてやる』
「何、命令してんだよ! 権限はこっちにあるんだぜ!」

 膠着状態が続く。

「息が上がってんな? テメエでもこの銃が怖いか?」

 どんなスラッシャーでも一撃で葬り去る、特殊な銀を使った弾丸だ。

『交渉決裂か』

 キリちゃすが、オレにショットガンを向けた。

 こうなったら、刺し違えてでも止めてやる。こんな奴が街に入ったら、どれだけの被害が……。

 緋奈子のケリが、キリちゃすの脇腹に炸裂した。

 キリちゃすが、ショットガンを落とす。

 オレはすかさず、ショットガンを蹴り捨てた。

 緋奈子とキリちゃすが、格闘戦になる。

 入り込めねえ。

 キリちゃすと緋奈子の動きが早すぎて、目が捉えきれない。ビデオの早回しで見ているみたいだ。

 緋奈子のハイキックが入ったと思ったら、キリちゃすは相手にボディを打ち込んでいる。だが、お互いに致命傷が入るのは避けていた。
 どっちもズタボロなのに、計算しながら戦っている。
 どんな思考回路なんだ? 頭に血が上っていると思わせて、冷静な判断力は失っていない。

「離れろ緋奈子! オレがトドメを刺す!」

 オレはどうにかキリちゃすを撃とうとする。だが、下手に撃てば緋奈子に当たってしまう。この弾は威力は高いが、数が少ない。ムダ撃ちはできないのだ。

 スラッシャー相手に肉弾戦なんて、普通は無謀である。相手は痛みも感じず、体力も無尽蔵だ。

 いくらキリちゃすが消耗しているとはいえ、格闘に持ち込むなんて。

「あなたにはムリです! 逃げなさい!」

 手に魔力を込めて、緋奈子はキリちゃすに殴りかかる。

 キリちゃすは緋奈子の拳を、腕を交差させて受け止めた。

 だが、その腕がヤケドを負う。

「なんなん!?」

 痛みで、キリちゃすは顔を歪めた。

 キリちゃすの動きを止めようと緋奈子が後ろに回り込むと、犬型のリュックに突き飛ばされる。

「あれが、魔王ですか!」

 魔王とキリちゃすを引き剥がそうと、緋奈子は低空でタックルを繰り出す。

 例のチェーンソー型ローラーブレードをはき、キリちゃすは緋奈子の首を狙う。

 だが、スライムかと思わせるほどの動きを見せ、緋奈子はチェーンソーを避ける。

「なあ!?」
『さすがだ!』

 キリちゃすは驚き、魔王は称賛した。

『やはり、我が同胞! 道を違えていなければ、共に人類を支配できたはずなのに、残念だ』
「あなたと一緒にしないでいただきたい」

……緋奈子と魔王が、同類だと?

『人など、ただのエサに過ぎぬ。魔王としての力を捨てて人に味方してなんになる?』
「ワタシは、約束したのです。人として生きると!」
『ならば、人として死ぬがよい!』

 キリちゃすが、大木を蹴り上げる。

 ミシミシと音を立てて、木が倒れてきた。

「くっ!」

 緋奈子が飛んで避ける。

 そこを狙われた。キリちゃすが、植物を操って木の葉を回せる。

 視界を遮られた緋奈子を、ツタが縛り上げた。

 緋奈子は力で引きちぎろうとするが、頑丈なツタは切れない。魔王の魔力が乗っているのだろう。 

『トドメだ!』

 キリちゃすが、かかと落としで緋奈子を切り裂こうとする。

 オレは、そばにあったショットガンを、キリちゃすの腹に向けて放った。

 ドンという音と共に、キリちゃすの身体がくの字になって吹っ飛ぶ。

 今のうちに、緋奈子を縛るツタをナイフで切っていった。

「ありがとうございます」
「いいって。それより、あんたと魔王が同類ってのは?」
「それは……っ!」

 オレと緋奈子の目線には、起き上がってくるキリちゃすが見えていた。

 スラッシャーなら、あんな攻撃では死なない。とはいえ、ダメージは入っているようだ。息が、さらに荒れている。

『ダメージを受けすぎたか。一発もらったのが、災いした』
「あいつ、強いね」
『唯一我を追い詰めた、最強の魔物だからな』

 話しぶりからすると、緋奈子と魔王は一度拳を交えたことがあるようだ。

 どういう経緯かは、知らないが。

 スマホが鳴った。福本からだ。

青嶋アオシマ先輩ですか? 今、お取り込み中ですか?』
「ああ。どうした?」

 かなりお取り込み中だが、応対する。
 福本の様子からして、緊急事態らしい。

『現在、後藤ゴトウ 元樹モトキの事故現場を検証中です! ところが、車両に後藤の姿が見当たらないんです! 死体がパッと消えちゃったんですよぉ!』
「なんだと……ん?」

 草がこすれる音がする。
 小動物か? こんな真夜中に活動するなら、タヌキかなにかだろう。

 しかし、現れたのはもっと大きな生き物だった。 

 壊れた眼鏡をかけた男性が、こちらに足を引きずりながら歩いてくる。
 ヤケドがひどく、もう虫の息だとわかった。
 ほうっておいても死ぬだろう。

『もしもし先輩? 後藤ですけど』
「後藤なら、目の前に現れたよ」
『はぁ!? どういうことですか? もしもし、もしも――』 

 オレは、スマホを切る。

 あれは、後藤だ。あれだけの事故を起こして、まだ生きていたのか。 

『ちょうどいい。兵隊にして逃げる』
「あんたも、人間を操れるんだ」
『その気になれば。あれに我を食わせよ』
「いいの? 体の一部じゃん。弱体化しない?」
天鐘てんしょうを見失うリスクに比べれば、安い。やるがよい』 

 キリちゃすは、ぬいぐるみの腕を引きちぎって、後藤に食わせた。

「ふごごおおおおおおお!」

 とても人間では出せない声を発し、後藤がうめく。

『弥生の月の人間よ、我のために働け』

 怪物の後ろに隠れ、キリちゃすが消えていった。

「待ちやがれ!」

 オレは、またショットガンを撃つ。

 しかし、木よりもでかくなった後藤の手によって阻まれる。

 キリちゃすは、夜の闇へと消えていった。
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