オカルト刑事《デカ》 ~スラッシャーと化したヘラギャル VS 百人の退魔師~

椎名 富比路

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第二章 ヘラるスラッシャー対百人の退魔師 ~ピが大事にしていたペットと一つになった。これであたしも、ピの一部ってことだよね~

思い出

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「フー、フーッ!」

 息を荒くしながら、緋奈子ヒナコが、オレの鎖骨あたりに牙を突き立てた。完全に、理性を失っている。

「落ち着けって!」

 どうにか引き剥がそうとするが、オレの腕はあっさりと解かれる。

 緋奈子の鋭い牙が、オレの胸に突き刺さる。

「痛ってぇ!」

 オレの首から肩にかけて傷が付き、血が流れた。

 うまそうに、緋奈子がオレの血を舐め回す。まるで、発情期を迎えた動物のようだ。

 傷口が熱い。強く噛みやがって。肉まで食らいそうだ。

 魔力が削がれていくのがわかる。傷を介して、緋奈子がオレの魔力を吸っているんだ。力がゴソッと抜けていく。

 それでも、オレは緋奈子を責めなかった。

 オレは、彼女の正体を知ってしまったから。


~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 
  

 ガキの頃から、オレは怪異に好かれる体質である。

 小学校の頃はトイレの花子さんに口説かれ、口裂け女に追いかけ回され、八尺様に誘拐されそうになった。
 中学の頃は、女型の人体模型に貞操を奪われかけた記憶がある。
 高校では、女子高生の地縛霊がオレと出会って自殺を後悔するほどだった。

 特異体質の反動か、逆に生身には相手にされない。
 オレがよく行く食堂で働く弓月ユズキちゃんだって、「頼れる兄」と見ている。異性としては、意識していないだろう。

 二次元を好きになったのも、こういう経緯からである。
 画面から出てこないなら、こちらが一方的に愛せるし、危害も加えられない。

 極めつけは、狐の妖怪になつかれた時だ。
 たしか、小学校に上がる前だったか。

 神社で遊んでいたら、ハダカの幼い少女に連れられて、川で水遊びをしたっけ。
 二人ともハダカで。そのコには、狐の耳とシッポが生えていた。
 狐の化身らしい。
 そんなことが気にならないくらい、彼女は魅力的だった。
 お嫁さんにしたいと、子どもながらに思うくらいには。

 だが、川にスラッシャーが現れる。オレか狐っ娘の魔力を食おうとしたのだ。狐っ娘はオレをかばって、背中をバッサリと斬られてしまう。

 とはいえ狐のほうが強く、スラッシャーは倒せた。しかし、狐っ娘のダメージは深い。姿も人間ではなく、本来の狐に戻ってしまった。

 元の世界で治療するので、もう会えないと狐はいう。

「もっと強くなって、スラッシャーを一人で倒せる力を手に入れる。そのときに、迎えに行くから」

 オレは、狐にそう約束した。

 花子さんも人体模型も地縛霊も袖にしたのは、彼女との約束があったから。

 ガキみたいな約束だが、大切だったんだ。


~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~


 その時の狐っ娘が、緋奈子だ。
 背中の傷でわかった。
 どうして、思い出せなかったのか。

 魔力を吸われすぎて、視界がぼやけてきた。

「緋奈子、アンタだったんだな」

 有名な児童文学のようなセリフだなと、オレは自分で言って吹き出す。

 彼女は、やたらとオレにハダカを見せつけてきた。オレの方が恥じらってしまうほどに。

 とはいえ、オレは緋奈子に欲情しない。

 オレが緋奈子の全裸を見ても興奮しなかったのも、その思い出があったからだろう。

 肉欲より、愛情のほうが勝ったのだ。

「緋奈子。心配させて済まねえ。オレもまだまだだな」

 オレの腕の中で、緋奈子はまだ吠えている。

 噛みつきがだんだんと、甘噛みへ変わっていく。手の爪なども引いていった。頭の耳も、徐々に縮んでいく。

「カ、オル?」

 やがて、緋奈子が落ち着きを取り戻す。

「おう、意識が戻ったか?」

 緋奈子とオレと目が合う。

 オレに馬乗りになったまま、緋奈子は呆然としていた。
 しばらくして、自分が丸裸だと気づく。
 オレから身体をどかし、身体を腕で隠す。

「血が!? ワタシはあなたに、なにかひどいことをしましたね?」

 ようやく、緋奈子は自分の手や顔が血まみれだと気づく。
 自分のしたことに驚き、愕然としていた。

「いいって。ほら」

 ハンカチを緋奈子に渡し、オレは半身を起こす。

 オレの顔と傷口を見て、緋奈子はオレに手をかざした。治癒魔法を施す。

「ワタシたちのような人外の存在は、戦闘を行うと魔力を著しく消耗します。きっと、補給行為だったのでしょう。とはいえ、あなたをエサにしてしまうとは」

 傷口が塞がっていった。傷跡は残って元通りとはいかなかったが、血は止まっている。緋奈子につけられた傷なら、問題ない。

 その後、緋奈子は自分の口を拭う。

「ご、ごめんなさい。ワタシはなんてことを」

 緋奈子が自分を責める。口だけでなく、目元まで拭って。

「あなたの体力まで奪ってしまったみたいですね。あと数分噛み続けていたら、ワタシはあなたを殺していたかもしれない!」

 顔を手で覆いながら、緋奈子は呼吸を荒くした。時々、嗚咽を漏らす。

「落ち着けって。気にするな」

 オレは、緋奈子の肩にジャケットを着せる。

「立てるか?」
「はい。でも、あなたこそ」

 たしかに、オレの方がよろけているな。だが、病院の厄介になるくらいじゃない。

「それより、もうすぐ警察が来る」

 サイレンが、遠くで聞こえてきた。

「報告しないと。一旦、戻ろうぜ」


 別荘に戻ると、大勢の警察が集まっている。

 当然、戦闘ヘリや後藤ゴトウの死骸も調べていた。

 オレは現場検証だ。

 空が青くなってきた。夜明けも近い。

「妖怪大戦争じゃないんですから、青嶋アオシマ先輩。オカルト課って大変なんですねぇ」

 トレントの残骸を見ながら、福本フクモトがため息をつく。

「オレだって、こんなのはレア中のレアな体験だ。毎回こんなんじゃないさ」

 いつもこんな調子だったら、それこそオレは『七和ナナワ署のゴーストバスターズ』呼ばわりである。

 ちなみに緋奈子がつけたオレのケガは、「トレントに化けた後藤につけられたもの」として処理した。
 その方が、誰も傷つかない。

 緋奈子は、ワゴンのトランクに座っている。ワゴンの中で着替えを済ませ、今はスウェット姿だ。

 女性警官が、紙コップを緋奈子に渡す。

「ミルクとお砂糖をご用意しましょうか?」

 お店で見るような魔法瓶型のケトルを持ちながら、女性警官が緋奈子に問いかけた。

「では、ミルクだけください。甘いものは具合が悪くなってしまうので」
「承知しました。どうぞ」

 笑顔を見せながら、女性警官は紙コップにブラックコーヒーを注ぐ。

「いただきます」

 ミルクを入れてから、緋奈子は紙コップのコーヒーをすする。

「緋奈子、大丈夫か?」

 オレは、緋奈子の隣に座った。

「平気です」
「また、消耗したりは」
「普段は手袋や髪留めで、魔力を抑えています。問題はありません。人間になるのだって、パワーセーブのためですから」

 昔は人の型を取るほうが大変だったが、慣れたらしい。

 か細い声で、緋奈子は「ごめんなさい」とつぶやく。

「跡が残ってしまいました」
「いいんだよ。こんな傷、どうってことない」
「ありがとう、カオル」

 緋奈子は、オレによりかかる。

 オレは、緋奈子の肩を抱いた。

「あーそのーコホン。若いお二人さん?」

 わざとらしい咳をしながら、こちらへ向かってくる足音が。
 千石センゴク署長だ。
 杖を突きながら、署長が足を引きずってオレたちの元へ。
 千石さんは、左足が義足だ。足が悪いのに、こんなところまでわざわざ来るなんて。


「どうしたんです、千石署長……?」
「そういうのはさ、ボクたちに見えないところでやってもらえないかな?」
「何を言って……!?」

 不思議に思って、オレは正面を向いた。

 いつの間にか、オレは大勢の警官の視線に囲まれている。盛り上がりすぎて、オレたちは二人だけの世界に入ってイチャついていたのだった。

 オレは、緋奈子と距離を取る。
 いつの間にか、カップルのガチ恋な距離感になってしまっていたとは。

「せっかくさぁ、とっておきの情報が手に入ったのに」
「なんです?」

 署長は、一呼吸置いて告げる。
 

「キリちゃすの『彼氏《ピ》』の正体がわかったよ」
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