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第三章 退魔師の中でも、ぶっちぎりでやべーやつ ~あいつ、あたしより病んでるじゃん~

最悪の最期

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 オレは車を運転しながら、堂本という『弥生の月』の秘書について、緋奈子ヒナコと意見を交わす。

名塚ナヅカ ヨウは、施設の門前に置かれていたんだよな? いったい誰が、燿を施設の前に?」
「もし、堂本ドウモトが名塚燿と兄弟なら、彼が幼い燿を施設前に放置した可能性は?」

 名塚燿の里親である、名塚氏と連絡が取れた。

 里親は、共に健在である。引き取って数年後に、「弥生の月の施設で預かるから」と、大金を渡されたそうだ。
 受け取ったお金を、彼らは一銭も使っていなかった。

「あの子が生きているなら、全額お渡しして欲しい」とのこと。


「どうも。情報提供に感謝いたします」

 緋奈子は、スマホを切った。

 同時に、オレの胸ポケットが振動する。

「福本からだな。運転変わってくれ」

 コンビニで車を止めて、緋奈子に運転を任せた。オレは、福本からの連絡を聞く。

「堂本について、調べてくれたか?」
『はい。えー、名前は堂本ドウモト 千晴チハル。二九歳』

 父が晴夫ハルオといい、自衛隊員だったという。

「自衛隊ねぇ。つまり」
『弥生の月とのパイプは、ありました。工作員の一人だったそうです』

 母は、さっきも出てきたヒカリで間違いなかった。

『関係者の話によると、チャン・シドンと堂本晴夫はスポーツジムが同じでした。何度か家族とも会っているようです』
「ヒカリとチャン・シドンは、不倫していたのか?」
『みたいっすね』

 どうも、単なるタレントとファンという関係ではない。夫が、友人であるシドンと妻を引き合わせてしまったのだろう。

 それで、ヒカリは燿を妊娠したと。ずっとレスだったのに妊娠したので、夫は怪しんだ。

『で、妊娠を機に別居し、千晴は父親が引き取っています。ですが、父親はチャン・シドンの兵役訓練中に殉職していますね』
「堂本の父親は、死んだってのか?」
『はい。自衛隊の演習中に。それも、韓国軍との合同訓練中のことでした』

 スナイプ用の高台が根本で爆発を起こし、晴夫は二〇m先に転落したという。首の骨が折れて、即死だったそうだ。

「まさか、殺し合った?」
『うええ。それは世知辛いっすねぇ。死んでも死にきれませんよ』
「堂本千晴は、どうなったんだ?」
『弥生の月運営の、施設へ入りました。ソレ以降は、現状のとおりです』
「燿は、いなかったんだな」
『はい。ちなみに燿は、生きていたら当時二歳ですね』

 なんか、ひっかかるんだよなぁ。

「たしか救急隊は、燿を見つけられなかったんだよな?」
『ですね。むしろ、子どもの存在自体を怪しんでいるようでした』

 燿が、生き残ったと仮定する。堂本が燿だけを助け出し、施設に置き去りにしたのかも。

 その後、燿は名塚家に、と?

『いいセン行ってるんじゃないっすか? 青嶋アオシマ先輩!』
「黙ってろ。じゃあ切るぞ」

 オレは、スマホを切る。

「ってことは、堂本は母親の無理心中を知っていたことになるよな?」
「偶然だったのかもしれません。彼はまだ幼かった。母親に会いに行っていても、おかしくありません」

 報道があった直後に、堂本ヒカリは亡くなった。

「そこへ、心中の現場に遭遇してしまった、か? できすぎだが、ありえるな……」

 当時まだ幼かった堂本にとって、複雑な心境だったに違いない。

「育てるにしても、幼い堂本ではどうしようもなかったでしょう」

 彼は後に弥生の月へ引き取られたが、その場合、弟も一緒に暮らさなければならない。

 母親が死んだ原因を、燿は作った。
 かといって、母親にとって燿は忘れ形見だ。
 殺せなかったとなると。

「施設に置くしか、なかったんだな」

 とはいえ彼は、弥生の月を恨む動機はある。
 たった一人の弟を、魔王と融合させられた。
 燿は、家族を破滅に追い込んだ人間の血を引いている。

 堂本にとって、燿は疫病神だ。
 しかし、唯一の肉親に変わりはない。

 そんな弟を、弥生の月は生物兵器に変えた。

「……カオル、あなたは堂本が、全て仕組んだとお考えで?」
「仮説だっての。あくまでも」

 先入観だけで、堂本を犯人と断定はできない。
 条件が揃いすぎているとはいえ、裏付けが必要だ。

 工場の前に近づくと、爆発音が起きた。

「ななな、なんだ!?」

 オレは身をかがめる。

「爆発ですね。車が炎上しています!」
「あそこに、天鐘テンショウがいたらやばい!」

 車を降り、オレは急いで消防と救急を手配した。


~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 


 銃で武装した黒服共が、あおばを取り囲む。

「やっちまいな!」

 斗弥生ケヤキ 聖奈セイナが、配下に指示を下した。

 モーニングスターを振り回し、あおばは銃弾を弾き飛ばす。同時に、黒服たちの頭を吹き飛ばした。

 黒服が鎖をかいくぐり、徒手空拳でかかってくる。

 相手のハイキックを、あおばは鎖で巻く。骨をへし折りつつ、転倒させた。仰向けになった黒服のアゴを、踏み砕く。

 遠くに、スナイパーの影があった。ライフルの銃弾を、鉄球で弾き返す。

 打ち返された弾で、スナイパーの眉間に穴が開く。

 残った三人の黒服が、武器を白鞘の刀へ切り替えた。

 あおばがモーニングスターで、死体から銃を弾き飛ばす。

 黒服は、拳銃を両断した。

 鋼鉄をも切り裂く特殊素材のようだ。

 あおばは、モーニングスターを加速させる。黒服の頭部めがけ、直線に飛ばす。

 勝機と見たのか、黒服は真一文字切りの姿勢になった。

 ピンと張った鎖に、あおばは体当たりする。

 武器の軌道が変わり、背部にいる黒服のこめかみに鉄球がクリーンヒットした。

 さらにあおばは鎖を上へ蹴った。また鎖がピンと張る。

 浮かんだ鉄球を、あおばは蹴り上げた。

 剣で防ごうとした黒服のヒザに、鉄球をぶつける。

 相手がひるんだところで、あおばは鎖を引く。
 鉄球の重みを利用して、ヒザを壊された黒服に急接近、ノドにケリを入れた。

 最後の一人には、ボーリングの要領で鉄球を投げつける。

 敵はガードした。

 しかし、あおばは鉄球の背面をキックする。
 蹴りによってさらに加速した鉄球が、黒服の刀ごと顔面を砕いた。

 あとは聖奈だけ――。

 しかし、聖奈はあおばの腹部を、刀で刺し貫いていた。

 さっきまでの三人はブラフだったのだと、あおばはようやく気づく。
 黒服との戦いに気を取られているスキに、懐へ飛び込まれたのだ。

 蹴り飛ばして、勢いがつきすぎたのだろう。
 鉄球は、鎖とともに天井の梁にぶら下がってしまった。

 頭部に鉄球をぶつけたくても、術で身体が動かない。

「よくできました。でも、もう少しがんばりましょうかね?」

 あおばは、口から血混じりの泡を吹き出す。

 水色の着物に、あおばの血がかかった。

「やだぁ。この着物高かったのよ? JKではとても払えないくらいの金額なのに。この代償は、あなたの命でいただくわね?」

 聖奈が、あおばの腹から刀を抜く。次の狙いは、心臓か。

「死――」

 刀がこちらを向いた、そのときである。

 聖奈の脳天に、鉄球が落ちてきた。聖奈の首が、砕ける音がする。
 壊れた人形のように、聖奈は足元から崩れ落ちた。

 あおばは鉄球を蹴り上げた際、鎖を天井へ引っ掛けておいたのだ。
 あらかじめ、鎖にも手を放しておいて。
 ベストタイミングで、聖奈に落下するように。
 それは、聖奈があおばの動きを止めて、攻撃してきたときである。

 同時に二つ以上の物質を止められないのは、想定済みだった。
 さっき血を吐いたとき、確信する。


 SEINAを、仕留めた。


 自分の人生の師であるキリちゃすを貶めた、クズのような人間を。

 師匠、あなたの仇は取りました。

 もう、思い残すことはない。




 意識を失う前にあおばが見た光景は、数名の警官と、救急車のストレッチャーに乗せられている自分だった。
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