オカルト刑事《デカ》 ~スラッシャーと化したヘラギャル VS 百人の退魔師~

椎名 富比路

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第三章 退魔師の中でも、ぶっちぎりでやべーやつ ~あいつ、あたしより病んでるじゃん~

仇討ち、完了……?

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 キリちゃすは、標的に照準を合わせる。

 ようやく、天鐘テンショウを追い詰めた。

 天鐘は足がすくみ、物陰に隠れたまま動けない。後は、どうとでもなるだろう。

 だが、まずは目の前の刺客を倒さなければならない。

 片腕の老婆、『元老院』とかいう相手だ。

『おそらく、奴が最強の刺客だ。奴一人だけでも、日本全てのスラッシャーを撃退できるほどの強さだろう』
「うん。前回は万全じゃなかったけど、今はいけそう」

 一歩進むと、炎に包まれた車が挟み撃ちしてくる。念力使いが、まだいたか。

 チェーンソーをローラーブレード代わりにして、念力使いの老婆に接近する。

 キリちゃすのすぐ後ろで、爆発が起きた。車同士が、衝突したのだろう。

 攻撃が当たらず、念力使いが茫然となっている。

 念力使いの首に、チェーンソーのキックを食らわせた。絶命した念力使いを、魔王が手で包み込んで食らう。

 まずは、ウォーミングアップ終了である。

 警察や消防も、到着していた。勝負を決めなければ、また邪魔が入る。

 チェーンソーのダッシュで、距離を詰めた。ヒザを。

 老婆は片腕にも関わらず、キリちゃすの蹴りを防いだ。振動により、チェーンソーにヒビが入る。キリちゃすの脚も、一瞬で砕けた。

『これがヤツの能力か!』

 キリちゃすが転倒した途端、チェーンソーも破壊されてしまう。

 今度は回し蹴りを見舞った。

 老婆は数珠を持った裏拳で、こちらの武器を防ぐ。

 またしても、チェーンソーが砕けた。

 みぞおちに一発を食らう前に、キリちゃすはバリアを展開する。なるべく力を使いすぎないように、腹だけをかばう。

 だが、拳だけでなく蹴りまで連続で放ってきた。どの一撃も、落石のように重い。

「これで片腕とか!?」
『相当の使い手だ!』

 なんという強さか。人間をやめているようだ。

 いくらキリちゃすが死ににくいからと言っても、相手の一撃は致命傷になりかねない。

 足払いを食らって、キリちゃすは転倒した。

 キリちゃすの顔面へ向けて、老婆が拳を振り落としてくる。

「なめんな!」

 道に落ちていた鉄パイプを、キリちゃすは老婆に突き刺す。

 腹を貫かれ、老婆は後退りする。そのまま、仰向けにドンと倒れた。

「あっけなかったね」
『最強クラスのスラッシャーと戦ったのだ。身体は既に、ボロボロだったのだろう』

 相手が人間なら、死ぬはずだ。人間、ならばの話だが。

「……マ?」

 片腕の老婆は、起き上がってきた。ゆっくりとパイプを腹から抜き取って、平然としている。キズも、みるみる塞がっていった。

「化け物?」
『……こやつ、もう死んでおる!』

 死して尚、立ち上がってくるとは。

『一時的に、スラッシャーの不死能力を会得しているのか!』

 また、ラッシュが襲ってくる。

「どうやったら死ぬん、コイツ!?」
『なにか、ヤツを操っている元凶がいるはずだ』

 この老婆の動きから、第三者の気配がした。

 たしか斗弥生ケヤキ一族の能力は、スラッシャーを自身の式神として操ることである。

 もしや。

『この老婆を操っているのは、天鐘だ!』

 天鐘が、物陰でこっそり印を結んでいるのが見える。死体をスラッシャー化して、自身の式神にして従えているのか。

 老婆を式神にしている相手は、わかった。

 しかし、キリちゃすは老婆に首を掴まれてしまう。凄まじい力で、持ち上げられた。

 振りほどこうにも、老婆の腕は鉄のように硬い。

『だが、悪手だな』

 老婆が、目を見開く。

『死んでいるなら、食える』

 魔王が腕を粘液状にして、老婆を食らった。

『おお、これはこれは。元老院の力は、とてつもないな』

 魔王が、ほぼ十分に力を取り戻したようである。

 後は、天鐘を始末するのみ。

 キリちゃすは、隠れている天鐘に歩み寄る。

 天鐘は銃を構えたが、その銃を念力で奪う。

 怯える天鐘に向けて、キリちゃすは引き金を引く。

「終わったね。これで全部」
 


「いや、まだ最後の始末が残っている」



 キリちゃすは、背後から声をかけられる。


 振り向いた瞬間、キリちゃすは胸を銃で撃たれた。
 
 
~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~  


 廃工場は、ひどい有様だった。ホラー映画の撮影現場みたいな光景である。

「こちらオカルト課の青嶋アオシマ 薫流カオル警部です。斗弥生 聖奈セイナと、天鐘の死体を確認。その他、構成員らしき死体多数。どうぞ」

 オレは、千石センゴク署長に無線で連絡を入れた。

『了解、おつかれさん』 
「それと、現場にいた女子高生を保護しました。おそらく彼女が、和泉イズミ あおばだと思われます」

 救急車も来ている。しかし、生存者は女子高生の一人だけだった。とはいえ虫の息で、意識の回復は本人の意思次第だろうとのこと。

『わかった。弓月ユヅキちゃんには、ボクから伝えておくよ』
「お願いします」

 無線を切った。

 緋奈子ヒナコは、キリちゃすの気配を探っている。

「おかしいですね。キリちゃすの気配がありません」

 たしかに、キリちゃすの姿だけが見えない。

「逃げたか?」

 天鐘を殺し、すべて終わったのだ。どこかへ行方をくらましたのでは?

「いえ。キリちゃすや魔王の性格からして、逃亡はありえません。目的は完遂したのです。彼ならおそらく、警察の前に出てくるはずなのです」
「オレたちと、戦うためか?」
「ええ。そう思っていたのですが」

 スマホが鳴り出す。福本フクモトからだ。

『今、弥生の月の本部に、ガサ入れの指示が出ました!』
「とうとう、捜査のメスが入ったか」

 あれだけの騒動を起こしたのだ。無関係とは言い難い。

『それだけじゃないんです!』

 福本が、早口で言う。なんだか、様子がおかしい。

『さっき頭首の斗弥生ケヤキ 尚純ナオズミから、自首するから迎えに来てくれ、って連絡があったんです!』
「わかった。オレたちも行くから待ってろ」
『了解』

 オレと緋奈子は、現場に急行する。

 途中の道で福本と合流し、弥生の月本部へ向かう。

 だが、弥生の月本部で見たのは、おぞましい光景だった。

 そこらじゅう、血まみれの死体ばかり転がっている。
 男女も関係ない。
 召使いなどの非戦闘員さえ、犠牲になっていた。
 中庭の池さえ、血のプールと化している。

 鑑識が来るのを待ちきれず、オレは踏み込む。

「全員、死んでる」

 緋奈子が、状況を確認した。

「コイツらみんな、弥生の月が雇った刺客ですよ! この長身の男も、アジア系の男女も、アクション俳優までいますよ!」

 興奮しながら、福本が救急に連絡を入れる。

 胸騒ぎがした。オレは、尚純がいると思しき和室へ。

 ふすまを開くと、尚純の姿はなかった。

「いませんね」
「これは、キリちゃすが?」
「いえ。この足跡を見てください」

 緋奈子が、畳に付着した赤い足跡を指差す。

「革靴の足跡だな」

 デカイ。男性のものだ。

「尚純が乱心した?」
「いいえ。歩幅が大きいです」

 よく見ると、足袋の足跡まである。

「尚純は筋肉の付き具合から、歩きが遅い印象を受けました。あれだけの高齢では、こんな大股の歩き方は難しいでしょう。足の長さもまるで違う」
「足袋のほうが、尚純だっていうんだな」
「はい。それとこれを」

 さらに緋奈子は、畳に落ちていた長い髪の毛を見つける。

「これは、キリちゃすのか? やはりアイツも現場に」
「ええ、想像できるとすれば、捕まったのかも知れません」

 ワタシを背負ってみろというので、オレは緋奈子を肩に担ぐ。

「犯人は多分こんな感じで、キリちゃすを抱えて帰った来た。尚純を油断させておいて、全員を銃殺した」
「尚純も、ホシがどこかへ連れて行ったんだな?」
「ええ。こんなことができるのは、弥生の月に恨みを持つもの」
「堂本、だな」

 しかし、ヤツはどこへ行ったのか?

「生存者がいるぞ!」

 奥の間に、警官の声が響く。

 オレと緋奈子は、声のする方へ向かった。

 押入れの中に、人がうずくまって泣いている。

「お……お前は!」

 その人物は、さっきまでオレたちが行方を追っていた人物だった。

「どうして、堂本がこんなトコロに?」

 しかし、男性は叫ぶ。

「ぼ、ぼくは、堂本じゃありません!」

 ええ……?
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