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3-3 LOと早食い対決 ~温泉宮廷ビバノン~

ととのう状態

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「おお、ええじゃろええじゃろ!」
 ソー・ローネも、ノリノリで仰ぐ。

「まだまだ行くぞ」
 今度は、二人して天使の羽で熱波の流れを変える。温度の高い熱風が、うちわによってボクたちに向けられた。


「これがロウリュだよ、チサちゃん」

「微妙に違うけん。ロウリュっちゅうんは、いわばこのサウナ自体をいうけん!」
 インチキ広島弁で、ソー・ローネは言う。

 ロウリュとはフィンランドのサウナで、サウナストーンに水をかけて水蒸気を発するサウナのことだ、と教えてくれた。

「本場ではっ、シラカバの葉をっ、使ってっ、身体をっ、叩くらしいっ」
 うんしょうんしょと、細腕でセーラさんがうちわで扇いでくれる。解説をしながら。

「それは知ってます。ドイツではタオルを、日本の場合はうちわで仰ぎ、熱波を体に当てるんですよね」
「本場ではっ、座っているだけっ。ストーンにっ、水をっ、かけるのもっ、セラフッ! いやセルフッ!」
 しんどいのか、セーラさんの言葉が怪しくなってくる。
 うちわの勢いも弱い。

「同志セーラよっ! 無茶をするな! 交代するぞ!」
「気遣い無用! 制服が肌にまとわりついている故! しばしの辛抱だ!」
「辛抱しとる段階でアウトじゃ! 皆の衆すまんのう! 今日のロウリュサービスはお開きじゃけん!」

 二人の学生が、うちわを止めた。

「まだ足りない」
 そういったのは、チサちゃんである。

「代わって。わたしが仰ぐ」
 チサちゃんが、二人に手を差し出す。

「嬢ちゃんが、やってくれるんか?」
「やりたくなったみたいなんです」
「ほうか。じゃあ遠慮せんわ。同志セーラ、貸さんかい」

 ボクが事情を説明すると、ソーは快くうちわを貸してくれた。

「すまぬ。少し抜ける」
 セーラさんは、外に出て水を飲む。

「いくよ。よいしょ!」
「よいしょー」

 ボクら二人はうちわを上下させ、みんなに熱を浴びせる。

「あー、いい気持ちだわ!」
「ホントね。汗がにじみ出てきたわ」

 マミちゃんとトシコさんは、リラックスしながらロウリュを楽しんだ。

「いいですな」
「先に上がったほうが、牛乳おごりな」

 ケイスさんとネウロータくんは、ドボドボと汗を流し耐久をしている。二人共腕を組んで。

 仰いでいるボクたちも、汗が止まらない。

 ククちゃんチームを見ると、やたら踏ん張っていた。なぜか、二人共が胸を抑えながら。

「風を、弱めましょうか?」
 うちわを止めて、ボクは二人に呼びかけた。

「大丈夫ですわ!」
「はい。お構いなく」

 タオルが落ちそうなほど、汗をかいている。

 やせ我慢にしか見えないんだけど?

「よっしゃ! みんな上がるんじゃ! 温めの打たせ湯があるから、そこで汗を流してくれんかのう!」
 ソーから、ストップがかかった。

 一〇分も入っていたなんて。

「汗を流すのはマナーだが、それだけじゃない。急な温度変化を起こさないためだ。これから、水風呂に入るからな」
 セーラさんが、そう教えてくれた。

「チサちゃん、楽しかった?」
 サウナのすぐ横にある打たせ湯で、汗を落とす。

「またやりたい!」

 楽しかったみたいで、なによりだ。

「水風呂へ行くんじゃ! ただし、浸かるのは二分間だけじゃけん!」

 汗を洗ったら、水風呂へ入る。

「くうううう!」
「冷たいいいい!」

 全身を震わせながら、水に身体を沈めた。

「身体を丸めるんじゃ! 心臓への負担が軽くなるけん!」
 ソーが、水風呂の秘訣を教えてくれている。

 だが、それどころじゃない!

「まだですか?」
「全然じゃ! まだ一分も経っとらん!」

 無慈悲! 

「でもダイキ、ちょっとだけ楽になってきた」

 チサちゃんの言うとおり、水の冷たさに身体が順応してきた。それでも冷たいのは変わらないけど。

 歯を食いしばりながら、冷気に耐える。

「よっしゃ! お疲れさん! 後横になるんじゃ! それで整うけん!」

 全員が、勢いよく水から上がった。
 広々としたスペースに横たわって、外気に当たる。

「頭がフワフワする」
「そうじゃろう! これが『ととのっている』状態じゃ!」

 起き上がれないくらい疲れていた。でも、宙に浮くくらいの気持ちよさがある。

「これが、オーガズム!」
「違うよ。トランス状態っていうんだ」

 チサちゃんの発言を訂正した。


「お疲れさん! これでロウリュ体験は終了じゃ! もう一回やっていくかの?」
「十分です。ありがとうございます」
「じゃあの!」

 数分リラックスした後、ボクらは清々しい気分でサウナを出る。
 浴衣に着替え、コーヒー牛乳でくつろぐ。
 
 セーラさんがこちらに歩み寄ってきた。ボクたちに頭を下げる。


「今日はありがとう。特別なスタンプを贈ろう」
 セーラさんが、スタンプをくれた。金色だ。

「ありがと」
「礼を言うのはこちらだ。感謝する。いつもは、こんなにヘバらないのだが」

 歴戦のサウナーでも、疲れることはあるんだろう。

「人が多かったからでしょう。忙しかったんですよ、きっと」

「また来てくれ。サービスする」
 そう言い残して、セーラさんは仕事場へ戻っていく。

「まさか、ビックリよね」
 着替え終わったトシコさんが、ボクに話しかけてきた。

「何がです?」

「ククちゃんとヨアンさんよ。二人共、女の子だったわ」

 えっ⁉
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