一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね

椎名 富比路

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第二章 人妻ダークエルフ忍者と、旅立つ

第12話 オークロード撃退

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 あろうことか、セーコさんの息子さんが、オークに捕まってしまった。

「どういうことだ? 息子は街にいたはず」 

「ちょっと冒険者に協力を要請したら、すぐに連れてきてくれたさ」
 
 オークロードが、下卑た笑い声を上げた。

 冒険者が、裏切っただって!?

「さて、伝説のニンジャに、オレサマの子種をぶち込むとするか。武器を捨てろ!」

 ボクは剣を手放そうとする。

 だが、セーコさんは「待ちな」と、止めた。

「どうしてです? このままだと、息子さんが」

「いいんだ。坊や!」

 母セーコに呼びかけられ、息子さんがこちらを向く。

「教えたとおりにやるんだ! 構えて!」

 オークに捕まったまま、息子さんは構えた。母親と同じように。

「なにをする気だ? 変な気を起こしたら、ガキをぶち殺すぞ!」

 セーコさんは、オークロードの脅しにも屈しない。
 
「壱、弐、参!」

「いち、に、さん!」

 息子さんは母親の合図を復唱し、オークの親指を手で掴んでへし折った。怯んだオークの足を、カカトで踏みつける。

「これって!?」

 さっき、ソーニャさんがやってみせた護身術だ。

 たしかセーコさんの道場って、戦えない商人を相手に護身術を教えていると聞いた。

 その技が、息子さんにも引き継がれているのか。

「走って! 参で走れって教えたろ!」

 セーコさんが、息子さんに合図をする。
 だが、息子さんは足がもつれてしまう。

「逃がすか!」

 オークロードが、剣を振り下ろそうとした。

「させるかって!」

 ボクは、身体強化レインフォースで全身の速度を上げ、オークロードの剣をさばく。

「な、ガキどもめ!」

 息子さんが無事、母であるセーコさんの腕の中へ。

「他の子たちと一緒に、逃げて!」

「わかった! オークは、頼んだよ!」

 セーコさんが、戦線から離脱した。子どもを抱えての逃走だが、セーコさんは巧みに逃げていく。大丈夫だろう。

 セーコさんの足元に、どこからか矢が飛んできた。
 
「ソーニャさん! 七時の方向、矢でセーコさんを狙う個体が!」

 木の枝の上から、オークが弓を構えている。

「わかってる! 確認したわ!」

 矢をつがえているオークに、ソーニャさんがファミリアを近づけた。

 ファミリアが、オークの目をつつく。

「いたいい!」

 目を押さえながら、オークが木の上から落下した。

 トドメに、ソーニャさんがオークに氷の矢を突き刺す。

「もう一体……あれ?」

 別のオークが矢をつがえていたのだが、何者かの射撃によって撃ち落とされた。

 誰だ? 今のは?

「ザコは任せて、アンタはボスをやっちゃって!」

「はい!」

 ボクは、オークロードと向き合う。

「調子に乗りやがって! お前から食ってくれるわ!」

 オークロードが、手の蕃刀を振り回す。手の中で旋回させて、まるで円形の盾のように回転させた。摩擦熱なのか、剣の先が燃え盛っている。

「けえああああ!」

 円形のノコギリのように、オークロードの蕃刀がボクの身体に襲いかかってきた。

 とっさによけたものの、壁代わりにした丸太が切断される。
 やはり、オークチャンピオンより強い。

「おとなしく首を差し出せ! そしたら、楽に殺してくれる!」

「やれるもんなら、やってみなさいっての!」
 
 何度も、オークロードが蕃刀を振り回す。

「【エンチャント】、氷!」

 ボクは氷の付与魔法を、自分のロングソードに施した。

 高速回転する蕃刀に対して、あえて打ち合う。

「ガハハハ! 勇ましいな! 炎に対して、氷魔法か! そんな攻撃で、オレサマの【スクリューカッター】が止められるものか!」

 勝ち誇ったように、オークロードが攻撃を繰り返す。

 だがボクは、本気で打ち合っているわけじゃない。ほんの少し、氷魔法を相手に撃ち込んでいるだけ。それでいい。

「どうした? そんなチンケな攻撃では、オレサマを止められないぜ!」

「それはどうかな?」

「なにを……オン!?」

 蕃刀を振り回す腕の動きが、鈍った。

 氷魔法を受けすぎて、手が凍りついてきたのだ。

 ボクは、氷魔法を相手の蕃刀に叩き込んでいた。それは剣と、それを振り回す指、手、腕を使い物にならなくするため。
 少しずつ氷魔法を与えて、相手の手を凍りつかせたのだ。

 蕃刀は完全に凍りつき、反対の手に持ち変えることもできない。

「テメエ!」

「武器が動かなくなれば、こちらのもの!」

「このやろう!」

 オークロードが、殴りかかった。

「レインフォース!」

 ボクも、身体強化魔法を使って受け止める。

「なにいい!?」

 攻撃を胸で受け止められて、オークロードが驚愕した。

「お前の攻撃なんて、丸太が顔面にぶつかったときより痛くない!」
  
 ボーゲンさんの指導の元、ずっとこれだけをやり続けてきたのだ。
 レインフォースを使って、橋の修理などの力仕事をこなした。見張り台の修理など、危険な高所での作業だって。
 日常的な業務でも、訓練になるんだ。
 そうやって一年間、いつか旅することを目指して。

 それが今、ようやく実を結んだ。

「マナセイバー!」

 ロングソードに、ありったけの魔力を込める。

「なんだ、こいつのマナセイバーは! えげつない魔力量だ!」

「これしか、させてもらえなかったからね!」

 ボクは、ロングソードを振り下ろす。

 苦し紛れに、オークロードが凍った蕃刀で防ごうとした。

 研ぎ澄まされた魔力で、オークロードを蕃刀ごと斬り捨てる。
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