一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね

椎名 富比路

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第二章 人妻ダークエルフ忍者と、旅立つ

第17話 ボスは、アイアンゴーレム

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 フルドレン探索は置いておき、ひとまず鉱物を探す。

「ふむ。あらかた削られているなぁ」

 めぼしい鉱物は、手に入らない。
 
 掘り返した土をいじりながら、ヘッテピさんがつぶやいた。

「ヒューゴ、どう思う?」

「例のフルドレンが、なんらかの作戦としてトロルトゥースを採掘した可能性が、ありませんかね?」

「だよな。採掘の形跡が、限定的すぎる。明らかに、トロルトゥースを狙った採掘だ。知っているやつでしか、こんな掘り方はしない」

 その証拠に、採掘現場には貴重な魔法石が散乱している。魔力のこもった鉱石にも、目もくれていない。

「もったいねえから、もらっていくけどよ」

 ヘッテピさんは自分のアイテム袋に、散らばっている魔法石や鉱石を詰め込んでいく。

「トロルの末裔……フルドレンの可能性がでかいのかい?」

 セーコさんが、ヘッテピさんに問いかける。

「かもな。トロルトゥースってのは、加工がムズい。冒険者の子どもをオークに誘拐させていたのも、単に足止めしていただけかもな」

「トロルトゥースを掘るためだけに、ってわけかい?」

「ああ。本命は、トロルトゥース掘り」

「何のために?」

「そこまでは、わからねえ。だが、トロルトゥースの用途はわかるぜ。あれは元々、武器としての用途は低いんだよ。使用価値があるとすれば、建築用なんだよな」

 城や城壁の骨組みとして、トロルトゥースを用いるのかな?

「オレがトロルトゥースを探しているのも、街の壁を補強するように領主様から頼まれていたからなんだ」

「建材として、重宝するのか?」

「違う。建築する装置を作成するためだ」

 トロルトゥースは重いながら、魔力伝導率が高い。そのため、金属でできた装置の骨組みとして活用されれるのだ。
 重機など、そちらの部品として役立つ。
 ウチの水車や風車などにも、トロルトゥースが使われているんだって。

「あたしのお屋敷にある車という乗り物にも、トロルトゥースという金属が使用されていると聞くわ。あまり乗ったことないけど」

「新しいものって、あんまり興味ない感じ?」
 
「魔法があるからよ。自分であれこれする方が、楽しいもの」

 馬車を活用するより、ホウキに魔法を込めて浮遊するほうが、ソーニャさん的には面白いのだという。文明に否定的ってわけじゃないけど、コントロールできる方が好きらしい。

「建築装置って言ったら、例えばゴーレムみたいなものでも?」

「ああ。トロルトゥースっていったら、ゴーレムっていう奴らもいる」

 トロルトゥースで作ったゴーレムを、【トロル】と呼称していたという伝承まである。 
「ゴーレムって、あんな感じですか?」

 ボクは、ヘッテピさんの後ろを指差す。

「そうそうあんな……って逃げろおおおおお!」

 ヘッテピさんが、ボクとソーニャさんの腰を抱え上げた。一目散に、洞窟から脱出する。

 洞窟から脱出したと同時に、入口が爆発音を上げた。通路が、土砂で塞がる。
 
「おいでなすったか、ゴーレム!」

「あれが、ゴーレムなんですか? ヘッテピさん?」

「ああ。アイアンゴーレムだ」

 ボクたちの前には、ズングリムックリした鉄の塊が立ちはだかっていた。なんだこの化け物は? 今まで見たことのない形の、魔物である。

「よお、ヘッテピ! そっちにゴーレムがいなかったか?」

 冒険者の一団が、王都へ続くルートから現れた。王都への道を塞ぐモンスターを討伐するチームである。


「おう。このヤロウ、こっちまで逃げてきたようだな」
 
「ようやく、追い詰めたぜ。こいつをしょっぴいて、お宝をいただく!」
 
 ボクたちの元まで、冒険者の一団がやってきた。

 ゴーレムの頭上にある、ハッチが開く。
 中から、牛の角を生やした男が現れた。
 
「クソが! セーコの息子をさらったってのに、しくじりやがって! おかげで、コイツまで駆り出すことになっちまった! これでは、ゴーレムが量産できん! 王都を襲撃する計画が、台無しだ!」

 どうもこの男が、セーコさんの息子をオークに誘拐させた張本人のようだ。王都への道を通せんぼしていたのも、コイツか。

「フルドレン族! おとなしく俺たちに捕まりやがれ!」

「うるさい。我がアイアンゴーレムの、練習台になってもらおうか!」

  今度は逃げず、ゴーレムは冒険者たちに立ち向かうつもりらしい。

 それにしても、変な形だな。頭なんて平べったく、樽のフタみたいだ。手も、マラカスを握っているような形状である。

「死ねえ!」

 冒険者たちが、飛びかかった。

 マラカスのような手から、突起物が現れる。

「ストーム・コレダー!」

 突起物から雷が巻き起こり、冒険者たちを直撃した。

 ボクたち以外の冒険者が全員、黒焦げに。
 
「みんな、平気?」

「ファミリアが安全地帯を見つけてくれて、助かったわ」

 ソーニャさんだけでなく、セーコさんやヘッテピさんも、土を掘って回避していたようだ。

「あんた、すごいわね。あの雷撃をかわすなんて」

「いや」

 ボクは遠くにいたから、たまたま回避できただけだ。
 ゴーレムの間近にいたら、ボクも死んでいたかも。
 
「生身の人間ごときに、我がアイアンゴーレムは打ち破れぬ!」
 
「やってみなけりゃ、わかんないよ!」

「なんだとガキが!」
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