一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね

椎名 富比路

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第三章 狂乱の魔術師のダンジョン

第23話 ハズレ階層

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 危なげなく、ボス部屋に到達した。
 
 第一層のボスは、クマの化け物である。
 しかし並の冒険者ならいざ知らず、レベル五程度のボスなんて、敵ではない。
 マナセイバーの一撃だけで、ボクはあっさりとボスを倒す。

 クマが消滅し、名刺サイズのアイテムを落とした。敵が落とした小さいカードが、二層へ行く権利書らしい。

 第二層は、敵はいないがトラップだらけのフロアだ。
 
「あの、セーコさん。ハズレ階層ってなんですか?」

「立ち寄る必要のない階層のことだよ」

 話しかけている途中でも、セーコさんは何事もないようにトラップを壊していく。

 このダンジョンには、攻略しなくていい場所が、三つあるらしい。
 他はすべて攻略しないと、一〇層にたどり着けないという。

 二層のトラップをすべて解除して、マップをすべて埋めた。これで、三層以降へ行く権利書を得る。

 三層は、玄室ばかりある迷路だ。

 玄室とは本来、死者を埋葬する棺の部屋を言う。ここでは、モンスターの住居という位置づけみたい。一部屋一部屋が、ドアで繋がっていた。
 フロアを一歩進む度に、モンスターが湧く。一層はザコが大量に湧くスペースだったが、こちらはやや強めの敵が出てくる。

 一層でボスだったクマが、二匹同時に攻めてきた。
 それでも、まあなんとか倒せるけど。

 玄室に潜むモンスターは、宝箱を落とす。箱の中には、貴重なお宝が眠っているのだ。キルシュはお宝を目当てに、ずっと三層に潜っていた時期があったという。

「このハルバートも、三層で手に入ったんだよね」

 キルシュが、手持ちの装備を振り回す。
 鉄板のついたホットパンツと、左腕のアームガードも、三層の戦利品らしい。
 
「こういった、敵が襲ってくるばかりのフロアだったらいいんだけどね」

「そうはいきませんよ、ソーニャさん。それだと、あっという間に突破されちゃうんだから」

「そうよねぇ。あれ、もうボス部屋なのね」

 第三層のボスは、【悪属性の僧侶ダークプリースト】と、なんと【魔法戦士】のホムンクルスだった。レベルは、【一五】ほどだ。オークロードどころか、フルドレンより強い。

「いくよ。【マナセイバー】! って、えええ!?」

 敵も、【マナセイバー】を使ってきた。こちらが赤いオーラを、向こうは緑色のオーラを放つ。

「みんな、僧侶は頼みます! ボクはコイツを倒します!」

「あいよー」

 キルシュとソーニャさんで連携して、僧侶に回復させるスキを与えない。

「ヒールを撒きましょうか?」

「いいよ。なんとか自分でやってみる!」

 マナセイバーを、魔法戦士と打ち合う。
 敵になると、魔法戦士ってこんな感じなんだな。

「これじゃあ、キリがない! 【ファイアソード】!」

 ボクはファイアソードを、道具として使った。敵魔法戦士の周辺に、【ブレイズ】を撒く。

 魔法戦士は、剣戟でブレイズを焼き切った。炎を断って道を作り、ボクに斬りかかる。
 敵の剣が、ボクの胴体を薙ぎ払った……少なくとも、敵にはそう見えたはず。

「残念。【陽炎】だ」

 ボクは、敵の背中に剣を突き刺した。

 一見すると、ボクが斬られたように見えただろう。ボクはブレイズを、攻撃ではなく、陽炎を発生させるために発動したのだ。

「お見事。ヒューゴ殿」

「いえいえ、ヴィゴ。みんなには、まだ敵わないよ。もっと強くならないと」

 三層の突破アイテムは、カギだった。シンプルなデザインながら、剣のように太い。これで武器にできそうだ。
 壁にあった隠し扉にカギを差し込んで、四層へ潜入する。
 
 だが、セーコさんは第四層をスルーした。四層の入口のすぐ隣に、隠し扉を見つける。そこから、五層へ向かった。

「じゃあ一旦、戻ろうか」

 五層には、突破した冒険者が設置してくれたワープエリアがある。そこから、城下町へと転送してくれるのだ。五層を突破した冒険者のみ、このワープが利用できる。

 
 ヘッテピさんに戦利品を売り払って、ボクたちはギルドの横にある酒場へ。ハズレ階層について詳しく話を聞くことに。

「厳密には、四層、七層、九層がハズレだよ」

 ハズレ階層には、攻略に必要なアイテムが出てこない。
 シュタルクホン王はそれに気づくまで、幾多の兵隊と数年の歳月を失った。頭でっかちな兵隊より、順応性のある冒険者を頼るようになったらしい。

「それでも、いいお宝目当ての冒険者は、攻略には乗り気じゃないんだよね」

「どうしてなの? 攻略に成功したら、ご褒美ガッポガポなんでしょ?」

  ソーニャさんが、コーヒーのカップを傾ける。
 
「ギソを殺しちゃったら、ダンジョンがなくなっちゃうじゃん」

 冒険者として、恒久的な稼ぎの場を失うわけにはいかない。

「それはどうだろう? ギソを倒したくらいで、ダンジョンが消えてなくなるなんて、ないと思うけどなあ」

「ヒューゴは、どうしてそう思ったん?」
 
「なんかあのダンジョンってさ、人が一人で隠れているにしては、本格的すぎない?」
 
 隠れるなら、もっと規模を縮小して、迷路状にしたほうが効率がいい。

「あるいは、ダンジョンそのものをトラップにして、本人は別の場所に身を潜めているとか」

 フルドレンが、オーク共を隠れ蓑にしたように。

「ハズレ階層だって、怪しいもんさ。案外、そっちが本命なのかも」

「鋭いね。実はウチもそう感じて、ハズレを回っているところなんだよね」
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