一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね

椎名 富比路

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第三章 狂乱の魔術師のダンジョン

第22話 狂乱の魔術師ダンジョン 第一層

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 キルシュの話は、本当なんだろうか。

「ギソが、ロイド兄さんの見つけた財宝に呪いをかけた、だって?」

「ていうか、ギソってさ、あらゆるマジックアイテムに呪いをかけまくって、世界中にばらまいたそうだよ」

 その一つを、ロイド兄さんたちは見つけてしまったらしい。

 マジックアイテムに呪いがかかっているかどうかは、僧侶などのヒーラー職にしか分析できない。

 ボクやセーコさんでも、アイテムが呪われているか多少はわかる。けど、本職ほどではない。複雑な仕掛けがされていては、熟練のセーコさんでも見分けがつかないだろう。

「どうして、そんなことを?」

「わかんない」

「フルドレンみたいに、魔王復活に傾倒していたとか?」

「ギソの一族は、魔王を倒した側だよ?」

 キルシュによると、狂乱の魔術師ギソの先祖は、魔王を倒した術者らしい。

「だから、【ワイルド・ウィザード】と呼ばれています。とにかく行動目的が不明でして」

「ホントに、ワイルドすぎるな」

 ヴィクとセーコさんが話し合う。

「冒険者たちに国王が出した依頼ってのが、ギソを倒すことと、ギソがばらまいた呪われた財宝の回収だったんだよ」

「ですから、ギソを追求する班と、お宝を探す班で別れたのです。それがいけなかった。ボーゲンの忠告に、従うべきでした」

 ヴィクが、話を締めた。

「さて。湿っぽい話は、そこまでにしようか。ヒューゴ、ソーニャ。腹が減っただろ?」

 とにかく、昼食がまだだった。
 なのでキルシュとヴィクの二人に、カフェのオススメを教えてもらう。
「シーフパスタ」っていう、大皿に乗った肉団子のパスタを、キルシュが注文した。

 ボクたちは、小皿にパスタをシェアし合って、口の中へかきこむ。おいしい! 肉肉しくて、食べても食べても飽きない。
 
「これを食べて、まずは一層を攻略しちゃおうか」

 キルシュだけ、まるまる一皿平らげてしまった。

 食事を終えて、ボクたちはギルドで登録をする。
 ダンジョン通行許可証と、攻略の手引をもらう。

 このダンジョンには許可証が必要で、「今日はここまで回りました」とマッピングまで自動でしてくれる。でないと、遭難したときに調査隊を派遣しなければならないからだ。なんか、登山届けみたいだね。

「えーっと、『全部で一〇階層まであるダンジョンを進んで、地下一〇階にいるギソを倒せ』だって」

「わかった。じゃあ、オイラは店の準備をするから。帰ったら、寄ってくれよな」

 鍛冶屋のヘッテピさんが、王都の物件へと向かう。

 ダンジョンの入口は、ギルドの隣にあった。

 間違えてギルドより先に入ってしまわないように、門番さんが立っている。

 通行許可証を差し出して、ダンジョンの中へ。

「うわあ、思っていたより広いね。天井も高い」

 また、ダンジョンには多少の鉄骨が使われている。お城でもあまり使われないくらいなのに。
 見た感じ、ダンジョンはかなりしっかりした作りのようだ。
 
「いきましょ。【ファミリア】のフェアリーが案内してくれるわ」

 ソーニャさんが、使い魔を先に向かわせる。
 
「敵が来たわ!」

 フェアリーがピューと引き返してきたのを確認して、ソーニャさんが身構えた。
 
「人間だ!」
 
 五人組の敵が、ボクたちの前に。コボルト族の盗賊と、人間の戦士である。犬の頭をした盗賊の中には、弓を構えているものも。

「人間同士の殺し合いなんて」

「遠慮しなくて、構いませんぞ」

 ヴィクがいうには、彼らはホムンクルスらしい。ギソに敗北した冒険者たちをベースにした、人造人間だという。

「【マン・アット・アームズ】と、【コボルトシーフ】だね」

 把握した。

「【ファイアソード】を喰らえ! 【ブレイズ】!」

 ボクは、ファイアソードを道具として扱う。

 それだけで、マン・アット・アームズの一団が半壊する。
 数名が、恐れをなして逃げていった。

 コボルドシーフは、ソーニャさんの【チェイン・ライトニング】で黒焦げに。
 弓使いも、どうして自分の弓が味方を攻撃のかわからないまま絶命した。

 ヤツの弓が放たれた瞬間に、ソーニャさんがその矢に向けて魔法を放ったのである。

 雷魔法が篭った矢が、コボルトの集団を貫き、最後に残ったアーチャーを突き刺したのだ。

「すごいね。ウカウカしていられないよ」

 キルシュが、ハルバートを別方向へ向ける。

 ワーラットの戦士が、増援で現れた。一匹一匹はボクより小さいが、一〇〇体から出てくる。

「見ててよね」

 キルシュがハルバートをぶん回す。

 ワーラットが、面白いように吹っ飛んでいった。誰一人、キルシュに傷一つつけられない。

「だいたいみんな、ワーラットの戦士の群れにビビって、逃げていくんだよね」

「ワーラットだけでは、ありませんぞ」

 続いて現れたのは、スケルトンの兵士だ。これも、冒険者の成れの果てか。
 民間人に犠牲者が出ていないのか、ゾンビなどの類いは現れない。
 
「我に加護を!」

 鳥人族の神【サヴィニャック】に祈りを捧げ、ヴィクが翼を広げた。
 ヴィクの頭上が輝き、【天使のハシゴ】がスケルトンたちに降り注ぐ。

 ハシゴに触れたスケルトンたちが、砂へと変わっていった。

「いえーい」

 キルシュが、ヴィクとハイタッチをする。

「みんなもやっぱり強いじゃん」

「でも、レアアイテムは出てこなかったね」

 第一層の敵は、ボクたちでは問題なかったみたい。
 
「キルシュ、ヴィク。あんたらは、どこまでいったんだい?」

「二人旅だからね。七層辺りだよ」
 
「キルシュ。あんたそこは、ハズレ階層じゃないか」

 セーコさんが、妙なことを言い出す。
 
 なんだろう、ハズレって?
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