一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね

椎名 富比路

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第三章 狂乱の魔術師のダンジョン

第26話 エルンスト王子と、エレオノル王女

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 身体が勝手に反応して、ボクは参列者の中に割り込む。
 
「あの、すいません!」

 馬に乗ったショートカットの人物に、ボクはひざまずいた。

「あの、エルンスト王子ですよね!?」
 
 ショートカットの人が乗っている馬が、ボクの前で止まった。ボクの声に反応してくれたのか?

「エルンストを、ご存知なのですか?」

 人物の声を聞いて、ボクは後悔した。

 その声は、女性のものだったからである。

 ロイド兄さんと旅をしていたのは、エルンスト【王子】である。

 しかし、ボクの眼の前にいるのは、女性だ。

「無礼であるぞ。少年。こちらにおわすはエレオノル王女……」

 ポニーテールのエルフ侍が、ボクの前で刀を脱いた。

 ひえええ。

 刀より、鋭い目のほうが怖い。

「おっと」と、キルシュが間に入った。

「命が惜しくば、どきなさい。キルシュネライト・ブルメ」

「やなこった。アンタこそ、その出刃包丁を下げな。民間人をみじん切りにするのが、あんたの仕事なのかい?」

 騎士二人が、殺気立つ。
 
 この二人は、知り合いなのかな?

「構いません、ザスキア。下がって」

「ですが、エレオノル様」

「下がりなさい」

 ザスキアと呼ばれたエルフ侍は、エレオノルという女性の言葉に引き下がった。

「兄エルンストの関係者なら、通しなさい」

 ショートカットの女性が、馬を降りる。ボクの前にしゃがんで、兜を脱いだ。

「わたくしはこの国の第一王女、エレオノル・シュタルクホン。兄エルンストの無念を晴らすため、旅を続けています。改めてお尋ねします。兄をご存知なので?」

ハリョール村のヒューゴヒューゴ・ディラ・ハリョールと申します。エルンスト殿下を知っているのは、ボクではなく兄の方なのですが」

「あなたは、エルンストに同行していた人物と、ご関係が?」

「はい。ロイドという兄がいまして。彼は、エルンスト殿下の雇ったレンジャーでした」

 ボクの話を聞いていたエルフ侍さんが、「あっ」と顎に手を当てた。

「ついさきほど、我々はハリョール村のロイドロイド・ディラ・ハリョールという者を尋ねたのです」

 ザスキアさんが、苦々しい顔をする。
 状況は、芳しくなかったのだろう。

「ヴェスティの街え、ボーゲンさんに看病してもらっていたでしょ?」

  ボクが尋ねると、ザスキアさんは首を振った。
 
「導師ボーゲンに阻まれ、ロクな情報を聞き出せなかった」

「でしょうね」

 ボーゲンさんなら、そうするはず。仲間を売るようなマネは、あの人ならしない。

「不躾なのですが、ヒューゴさん。あなたの方から、ロイドさんに情報提供をお願いできませんか?」

「できません」

 ボクは、きっぱりと断った。
 
 もう一度旅へ同行しろとか言われたら、兄が発狂しかねない。
 兄を、ボーゲンさんは守ってくれたんだ。

「あなた――」

「お恐れながら! 兄は病を患っております!」
 
 エルフさんが再び抜刀仕掛けたのを、エレオノル王女が止めた。

「あの遺跡にて、兄は多くの仲間を失いました! 自身の恋人にまで、刃を向けたとのこと! また、あなたのお兄様も助けられず、無力感に苛まれております! 再び兄に当時のことを思い出せと言われては、兄はもう現実に戻ってこられない可能性がございます! ボクには、兄をそこまで追い詰めることは、できません!」

 エルフさんの向ける殺気にも頑として向き合い、ボクは王女に告げる。

「……わかりました。申し訳ありません」

「いえ。ボクの方こそ、お詫びいたします」

「結構です。ムリを承知でお願いしたのですから。謹んでお詫びいたします。わたくしも兄を喪い、殺気立っておりました。人に戻してくれて、ありがとう」

 エレオノル王女は、兜をかぶり直す。

「帰りますよ。では、ヒューゴさんでしたね。またお会いすることはあると思います」

「そうなんですか?」

「明日のお昼、お時間がございましたら、お城にいらしてください。お昼食を囲んで、お話をいたしましょう」

 ボクの仲間も、同行していいという。

「あの、何度も申し上げますが……」

「あなたのお兄様の件は、もう結構です。では、ごきげんよう」 
 
 王女たちが、馬に乗って王宮へ帰っていく。

「ふあああああ」

 ボクは、脱力した。
 あとになって、背中から汗がドッとにじみ出る。

「いやあ。あの『首刈りザスキア』に真正面からケンカ腰とは、恐れ入ったよ」

「首刈り?」

「ああ。刀で相手の首を刈り取る戦い方から、仲間内からは首刈りって呼ばれている」

 あまりの速さに、敵もいつ首を切られたのかわからない表情で絶命するとか。

 そんなザスキアさんの刀を止めるんだから、あの王女様も相当な腕前ってことだよね?
 
「ウチは、アイツは苦手なんだよね。歳と戦闘力は近いんだけど、アイツはずっとエリートコース。で、ウチは落ちこぼれ。近衛兵とフリーの騎士だから、接点もないし」

 王女に言われたら、キルシュはダンジョンに同行することもあるという。しかし、ザスキアさんとソリが合わなくて、あまり乗り気ではないそうだ。
 
「でも、エレオノル王女から呼び出し食らうなんてさ。あんた、見込まれたのかもよ」

「そうなのかな?」

「ザスキアだって、ウチとヒューゴがつるんでるところを見て、一瞬でアンタに対する見方が変わったからさ」

「そうなの? 全然、わからなかったけど?」

「ツワモノってのは、そういうもんなのさ」
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