一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね

椎名 富比路

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第三章 狂乱の魔術師のダンジョン

第27話 エレオノル姫との会談

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 翌日、ボクたちはお城に呼ばれた。

「なあヒューゴ。オレもついてきて、よかったのか?」

 ヘッテピさんが、あちこちをキョロキョロしながら廊下を歩く。慣れないタキシードなんて着ながら、ちょこまかと歩いていた。
 
「関係者は、なるべく全員連れてこいってさ。あきらめな」

 ワインレッドのスカート型の軍服に身を包んだセーコさんが、ヘッテピさんの肩に手を置く。

「大丈夫かね? オイラ。風呂は入ってきたが、タキシードはずっとしまっておいたやつだから、臭うかも」

「心配ありませんよ。ヘッテピさん。問題はありません」 

 ボクたちも一応、ドレスコードに反しない衣装を身にまとっていた。

 まさか、ソーニャさんに仕立ててもらった洋服が、こんなところで役に立つなんて。

「ほら見なさい。あたしが指摘したとおりじゃない。王都では、なにがあるかわからないのよ。備えあれば憂いなし。偉大なる祖父ボーゲンが、異国で拾ってきた言葉よ」

 ソーニャさんが、鼻を鳴らす。さすが貴族だね。こういう場でも、堂々としている。一応格式張ってはいるが、必要以上に緊張なんてしていない。
 純度一〇〇%の農民出身なボクとは、大違いだ。

「ついたよー」

 もっとリラックスしている騎士キルシュが、「おじゃまー」と応接間のドアを開いた。
 なんて、あぶなっかしいんだろう?

「キルシュネライトッ。あなたね」

 ザスキアさんがキルシュを咎めようとする。やっぱりこの二人は、バチバチなんだな。

 エレオノル王女が、ザスキアさんを静止する。

 だよね、このまま二人が争っていると、話が進まないもんね。
 
「それでは、席についてください。お茶をお持ちしますわ」

 メイドさんが、ボクたちの席にお茶とお菓子を置く。

「ありがとうございます。召し上がっても?」

「どうぞ。ヒューゴさん」

「いただきます」

 一応、断りを入れてから、手を付けることに。

 うん、おいしい。どこで食べたお菓子より、上品な味わいだ。個人的には、そのへんで売っている駄菓子のほうが食べやすい。人の目を気にしなくていいからだ。
 高貴な人の前では、お菓子一つ食べるにしても緊張するね。

 キルシュは「いただきまーす」とクッキーを手づかみで食べ始め、またザスキアさんからたしなめられていた。

 ソーニャさんは慣れたもので、ちゃんとマナーを守って食べている。

 他の面々は、どこをどう攻めていいのかわかっていない様子。ボクも、例に漏れず。

「ところでエレオノル姫様、お話とは?」

「実はみなさんに、ダンジョンの探索に同行していただきたいのです」
 
 現在、姫様は最下層を攻略中である。しかし、ダンジョンの最下層には魔物しかいなかったらしい。

「ですが、面白いことが」

「調べた結果、ギソが九層にいることが判明した」

 全ルートを回れるだけ回ってみたが、どこにもギソはいなかったという。
 だがギソの魔力反応が、九層に現れたというのだ。

「たしか、八層から一〇層への移動は、エレベーターでの移動なんですよね?」

「はい」

 だが、九層はスルーされるという。九層の案内はあるが、素通りしてしまうのだ。
 
「ですから、あなた方にはひとまず、八層攻略していただきます」

「これは、みなさんへの試練でもある。心してかかるように」

 八層を軽々と探索できる実力でなければ、ついてこさせないとのこと。
 
「お願いしているのに、試験するってこと?」

「他の騎士団が、黙っていないのだ。わかってもらいたい」

「ふーん。まあ、どうせ強くならないといけないんだ。やったろうじゃんね。ヒューゴ」

 もちろんだ。ギソを退治するなら、どのみち強くなる必要はある。
 
「我々は、九層に続く道を探しておきます。いまだ、九層の入口がわからないのです」

 ハズレ中のハズレといわれている九層は、そのエリア自体が土に埋もれている。

「いわゆる『石の中にいる!』ってやつじゃね? あのままギソが死んでくれていたら、ラッキーじゃん」
 
「だとよかったのですが、ギソの魔力はいまだ健在だと、うちの魔道士が指摘しております」

 キルシュが楽観的な意見を言うも、エレオノル王女に否定された。

「埋まったまま、生きてるんじゃないの?」

「それも込みで、調査中です」

 なお、フロアの壁や天井の破壊も試みたという。しかし奇妙な力が働いて、ダンジョンに傷一つつけられないという。


「九層を攻略するには、兄が追い求めていた、遺跡のアイテムが必要だったらしく。ところが、そのアイテムはなかなか見つからないどころか、遺跡自体が汚染されていて」

「遺跡の探索だったら、私の力がお役に立つかもね」

 トラップ解除能力の高いセーコさんが、席を立つ。

「そうなんです。ニンジャであるあなたと、レアドロップに期待できるヒューゴさんに同行をお願いしたく」

「そうは言いますが、エレオノル姫様。件の遺跡に九層突破のアイテムがあるのはわかりました。ですが、あの遺跡は呪われています。解呪が必要なのに、解呪が可能なヒーラーが真っ先に命を落とすといいます。その呪いの対策は、ございますのでしょうか?」

 ボクらのパーティにいるヒーラー、鳥人族のヴィクが、手を上げた。手というか、翼だけど。

「それと、どうしてヒューゴ殿の力が必要なのでしょうか? 遺跡に宝があるなら、セーコ氏のトラップ解除能力だけが必要のはずですが」
 
「呪いの解決法は、見つかっておりますわ」

 ひとまず、すべては最下層にて説明するとのこと。

「準備ができ次第、八層へ向かいましょう」

「今でもいいよー」

 キルシュに続き、ソーニャさんも、武装をした。

「いいんじゃないかしら? なら、お姫様についていくわ」

 ソーニャさんも、同行に賛成した。

「お姫様、いつでもお手をどうぞ」

「頼もしい方々です。では、八層攻略後、最下層にて必要なアイテムがございます。それを手に入れましょう」
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