一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね

椎名 富比路

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第三章 狂乱の魔術師のダンジョン

第28話 第三章 完 最下層のレアアイテム

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 ボクたちは腕試しのため、八層に向かう。

 ここには、フロアが一つしかない。だだっ広い空間の入口には、「モンスター配備センター」と書かれていた。

 フロアに現れるモンスターをすべて倒せば、突破だ。
 倒しても倒しても、次々と魔物が襲ってくる。
 アイテムのドロップこそしないが、モンスターは強いので戦闘経験としてはおいしい。

 ホムンクルスの、人間型モンスターもいる。人型の敵といえど、ヨロイを着たガイコツだったりだ。

「【メテオバースト】!」

 ソーニャさんが、【ファイアーボール】の上位魔法を放つ。

 特大の火球をまともに喰らい、魔物数体が火ダルマになった。

 エレオノル姫たちの周りに、モンスターは集まってこない。八層をクリアした者には、魔物が寄り付かない仕組みだという。

 特に危なげなく、ボクたちは八層をクリアした。

「あっけないわね。これでも八層の敵なの?」

「ソーニャちゃんが、強すぎるんだって。厳密には、ソーニャちゃんの装備が」

「そうね。この杖、尋常ではない魔力を感じるわ」

 新調した魔杖は、ボクが七層で獲得したレアドロップである。

「でも大半は、ヒューゴのファイアストームで蹴散らしちゃったんだけど」

「アハハ……」

 ブロードソードを肩に担いで、ボクは苦笑いをした。 

 ヘッテピさんの腕は、確かなようである。ファイアストームの火力が、かなり増していた。これが最下層でも、通用すればいいけど。
 
 封印されていたエレベーターが、解放された。

「力は、十分にあるようだな」

 ザスキアさんが、刀を収める。

「んー? なぁに? 手助けしてあげるつもりだったの?」

「冗談ではない。あなたたちが失敗したときのために、備えていただけだ」

「とか言っちゃってぇ。ホントは心配だったとかー?」

「バカを言うな」

「ツンデレかわいい~」

「やめんか。斬るぞ」

 またザスキアさんが、刀に手を添えた。

「ムリムリ。ドラゴニュートに刃が通じないのは、知ってるっしょ?」

「試してみるか?」
 
 おお、一触即発。

「おやめなさい。では、最下層へ」

 二人をたしなめて、一同は最下層へ続くエレベーターに乗り込んだ。
 
 最下層のボス部屋へ、一直線に向かう。

「九層へ続く道への突破口が、兄を死に至らしめた遺跡にあるのではないかと、我々は睨んだのです」

 だが、その遺跡にある「強欲の呪い」に、打ち勝つ必要がある。

「そのアイテムが、最下層に眠っているそうなのですが、モンスターからのレアドロップなのです」

「だから、ヒューゴが必要なのね?」

「はい。魔法戦士のレアドロップ率が」

 フロアのボス部屋に、到達した。

「あれがこの階層のボス、ガーディアンです」
 
 フロアボスは、戦士タイプの敵だ。腕が四本もあって、それぞれに武器を持つ。
 
 一人だけなのに、ボクたちが束になってかかっても互角である。
 得物は、キルシュと同じ槍だ。
 ボクの剣を素手で受け止めながら、槍を振り回してソーニャさんの魔法を弾く。

「これなら! 【ファイアー・ストーム】!」

 ボクは、ファイアーストームで陽炎を作った。背後に迫って、剣を突き立てようとする。

 しかし、ガーディアンは軽々とボクの手を掴んで壁に放り投げた。

「くーっ、強い」

 壁に当たる直前で、ボクは身を翻す。壁を足場にして、再度敵に飛びかかった。

 ガーディアンが、大きな盾を構える。ボクのキックを、真正面から受け止めた。ダメだったかー。

「時間があったら、もうちょっと上でレベルアップもできたんだけどねー」

「まあ、仕方ありませんよ。エレオノラ姫たってのお願いでしたら、ムゲにはできません」

 戦闘しながら、キルシュとヴィクが語り合う。この二人はレベルが高いだけあって、まだ余裕だ。

「おっと!」

 ガーディアンの剣を、キルシュは腕で受け止めた。

「ドラゴンニュートに斬りかかるってのは、こういうデメリットもあるのさ」

 キルシュの腕には、ドラゴン族のウロコが生えている。ドラゴンニュートは軽装でも、自分の皮膚で相手の攻撃を弾けるのだ。

 グーパンで、ガーディアンを殴り飛ばす。

「今だよ、ソーニャ!」

「わかってるわ!」

 ソーニャさんが、メテオバーストを放った。

 案の定、ガーディアンが槍でメテオバーストを弾く。

 ファイアボールの数倍も大きい火球が、槍の回転によって爆発した。
 
「今よヒューゴ!」

「OK! 爆発からの、【ツバメ返し】!」

 メテオバーストの爆発を利用して、ボクはツバメ返しを見舞う。

 ガーディアンの大盾も、間に合わない。

 ボクの剣は、深々とガーディアンのノドに突き刺さる。

 ガーディアンが、砕け散った。

 残ったのは、一つのハンドベルである。 
  
「これです。このアイテムこそ、遺跡探索に必要なアイテムなのです」

 エレオノル姫が、ハンドベルを手でつまむ。 

「これが件の遺跡に必要なアイテムです。これは、【恬淡てんたんの鈴】と言います」
 
「恬淡……つまり、欲を持たない性格ってことかい。お姫?」

「はい」

 セーコさんが、エレオノル姫に問いかける。

 このアイテムは、魔法戦士クラスのレアドロップ率がなければ、手に入らないらしい。

「兄は元々、欲を持たない性格でした。ギソ討伐も、民のためを思っての行いでした。しかし、他の者はそうでもなく」

 業突く張りばかりの集団に囲まれて、あの遺跡に向かっちゃったわけか。一攫千金を夢見た、ボクの兄ロイドも含めて。

「しかし、これを鳴らせるのは、精霊のみ。人間が使えば、たちまち呪われて……え?」

 ソーニャさんのペンダントから、ファミリアの精霊がフヨフヨと飛んできた。エレオノル姫からハンドベルをひったくって、両腕でチリンチリンと鳴らす。

「どうやら、どうってことないみたいね?」

「にんげんって、ぜいじゃくー」

 精霊が、アイテムを手にソーニャさんのペンダントへ戻っていく。ゲラゲラと笑いながら。

 とにかく、これですべてのアイテムが揃った。

(第三章 完)
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