一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね

椎名 富比路

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第四章 因縁の地下遺跡へ

第37話 VSギソ

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「俺自らが、相手することになるとは。【フォレスト・ボム】!」

 ギソが、両手から緑色の炎を放つ。

 波打つような軌道を行い、騎士の一人に着弾した。

「ごはあああ!」

 受け止めたはずなのに、ヨロイが破壊される。

「身体に入り込んで、内側から爆発した?」

「そのとおりだ。俺のフォレスト・ボムは、防御は不可能!」

 その後も、次々と騎士たちが犠牲になっていく。

「これも、空間転移の応用よ。空間を抜けて、対象に的確に当てているのよ」

 相手の攻撃手段がわかっているのか、ソーニャさんは魔法障壁で受け流すように退ける。

 ボクは、あえて打ち返すしかない。反撃の手段がわからない以上、対処療法一択である。

「魔法同士なら、なんとか凌げるみたいだね」

「それでもジリ貧よ。ヤツの魔力は、無尽蔵みたい」

 どこからか、魔力供給を受けているのか。

「ヒューゴ、考えていることがあるんだけど」

 ボクはソーニャさんから、ある可能性を聞かされる。

「ありえるね」

「でしょ? ギソなら、それくらいできるわ」
 
 たしかに、卑怯者っぽい戦略だ。

「エレオノル様、どこかに、ギソの魔力源があるはずです。探しましょう!」

「はいっ。ですがヒューゴさん、どうやって……」

「台座に女神像が、あるんです」

 ボクは、台座を指差す。

 邪神像は、見当たらない。とはいえ、まだ女神像が健在である。

「わかりました。しかし、みんなを置いていくのは」

 姫は、他のパーティたちが心配のようだ。

「ご心配なく。我々は、まだ全滅したわけではない。エレオノル」

「お願いします」

 ボクとエレオノル姫は、女神像に触れる。

 すると、遺跡まで戻ってきた。
 
「この遺跡のどこかに、ギソに魔力供給する触媒があるのですね?」

「あるいは、本物のギソがいます」

「本物の?」

「はい。彼はボクたちと対面したときのセリフを、覚えていますか」
 

――俺がギソだ。今はな


「今は、自分がギソと」

「はい。どういうことなのかなって思って、敵の構成などを思い出したんです」

「まさか、彼もホムンクルス!」
 
「その可能性が、高いです」

 ギソは、魔術師だ。ホムンクルスを何体作っていても、おかしくない。自分のコピーさえ。

「なるほど。ギソはコピーを戦わせている、といいたいのですね?」
 
 用意周到なギソは、エルンスト王子と戦わせることによって、自分が本物のギソであると錯覚させた。その可能性は高い。

「それだけ、憎しみが深いということです。また、それだけ臆病なクズ、とも言えますね」

 ギソに聞こえるよう、あえて大声でギソを罵った。

「王家に恨みをぶつけると言いながら、その実やっていることはインチキ。ヘタレです」

 このような輩は、直接対決が怖いのだ。
 ギソよ、聞こえるか? ボクはお前を、許さない。やるなら、ボクを狙うがいい。

『おのれ。この偉大なる邪神・ギソに向かって、ヘタレとは』

 邪神像が、ひび割れた。人間サイズにまで膨れ上がり、ヘビを思わせる亜神と化す。

「これが、ギソ!?」

「ギソの正体は、邪神そのものだったのか」

 神父セニュト・バシュの血族に取り憑いて、邪教を広め、追放されてもなお王家を破壊しようと仕向けた、異形の神。
 憑依された側にも気づかせぬまま、悪事を働かせていた、厄災の化身。
 それが、本物のギソだったのである。

「邪神ギソ。お前の目的は何だ?」

『肉体を再生させて、生きながらえること。我の肉体を復活させるには、まだ大量の死体が必要だったのだ』

 だから遺跡の宝物庫に人を集めさせ、命を奪ってきたのか。

「あのフルドレン族は?」

『あれは本物の、フルドレンではない。王家シュタルクホンを憎んでいたフルドレンに、偽の記憶を植え付けたホムンクルスよ』

 ただ肉体のパーツを組み合わせただけで、あそこまでのパワーを放つとは。

『だが、そんな事実を知っても、我が野望を止めることはできぬ! くらえ、【フォレスト・ボム】!』

 フルドレンの放ったものより強力な緑色の火炎弾が、ボクに襲いかかってくる。

 これは、避けられない。

「ヒューゴさん、お手伝いします。【オーラショット】!」
 
 剣の腹に、銃を撃ち込んだ。
 
 反動で、ボクの剣がフォレスト・ボムをかち上げる。
 フォレスト・ボム同士が触れ合い、大爆発を起こした。

 再度、姫がボクの剣に魔力弾を撃つ。

 ボクは銃弾を跳ね返し、そのままボムに弾丸をぶつけた。

 大量のフォレストボムが、一瞬でかき消える。
 
「とどめだ、【ウェーブスラッシュ】!」

 ボクは、剣から衝撃波を撃つ。

 剣から放たれた光刃は、ギソの身体をあっさりと両断した。

 やはり、弱かったか。

 この手の策略家の実態は、あんがいもろいことが多い。
 
『バ、バカな。邪神である我が……そうか、【フレイムタン】とは』

 ボクの手にしている武器は、フレイムタンだ。これなら、炎の刃で不死・亡霊タイプでも切り裂ける。たとえ、実体を持たない邪神でも。

『しかし、フレイムタンといえど、我の幻視は破れぬ。なぜだ?』

「知りませんよ。なにも知らないまま、対策もできないまま、死んでいきなさいよ」

 ボクは、エレオノル姫の手を取った。

「一緒に、お兄さんの敵を討ちましょう」

 エレオノル姫と指を重ね合わせ、銃の引き金を引く。

 邪神は、今度こそ消滅した。
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