一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね

椎名 富比路

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第五章 転職して、最終決戦へ

第47話 最終話 今日もボチボチ、冒険者

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 邪神討伐から、数年が経った。

 ボクはロイド兄さんと、自宅で収穫したトマトを街まで売りに来ている。

 まだ万全とは言えないが、ロイド兄さんは人前に出られるくらいには回復した。今も、客を相手にトマトのよさを語っている。
 
「おーい、ヒューゴ。おひとつくださいな」

「キルシュ! 久しぶりだね!」

 懐かしい顔ぶれに、会った。キルシュと、ヴィクである。

「ヴィクは、格闘家に復帰したんだね?」

 ボクは、キルシュとヴィクにトマトを渡す。

「はい。悪役レスラーから、善玉のレスラーにクラスチェンジしましたぞ」

 僧侶職をしつつ、ヴィクはプロレス興行も始めた。競技者としてのブランクは長かったが、まったく衰えを感じさせない。

「今日は、こっちで試合なんだよね。見に来てよ」

「うん。ぜひ。ところで、キルシュは具合、大丈夫?」

「なんてことないって。ちょっとドラゴンになれないくらいでさ」 

 キルシュはもう、変身能力がなくなっちゃったという。
 
「あんときは、有事だったからね。なんとしてでも邪神を止めなくちゃって、自分でもムリをしてたっぽい」

「ごめんなさい。ボクをかばったばかりに」

「ヒューゴのせいじゃないし! ウチがドラゴンに戻ろうって気がないだけだって」
 
 ドラゴンに戻れなくなったのに、キルシュはまったく気にする素振りを見せない。

「そうなんだ。元気ならそれでいいよ。じゃあ会場で」

「ソーニャも連れてくるんだよ!」

「あ、あはは」

 ボクは、キルシュとヴィクに手を振った。


「行っていいぞ、ヒューゴ。店はオレがやっておくから、ソーニャに会ってこい」

「いいの?」

「オレは大丈夫だ。オレだって、もうヒューゴの手を借りなくても、いいようになりたいんだよ。ヒューゴには、自分の道を歩んでもらいたい。オレに、そうしてくれたように」

「……ありがとう。ロイド兄さん」
 
 ボクは、ソーニャさんが帰っているであろう屋敷に向かう。

 ソーニャさんは、馬車から降りたところだった。

「ただいま帰ったわ、ヒューゴ」

「おかえりなさい、ソーニャ」

 ボクはもう、ソーニャに「さん」付けをしないで呼ぶ。ソーニャがそうしてくれって頼んだからだ。ボクたち二人はもう、友だち同士を越えた関係だから。

「ソーニャは、お墓参りは済んだ?」
 
「ええ。おじいさまにお別れを言って帰ってきたわ」

 ソーニャたちは、ボーゲンさんの遺骨を故郷へ埋めに行っていたのである。

 ボーゲンさんは、邪神を討伐した後、すぐに亡くなった。
 ソーニャを鍛え上げたことで、限界を迎えたのだろう。
 これ以上邪神が復活するのを、身をもって阻止したのかもしれないと、ソーニャは語っていた。

 どうだろうか? 
 でも、ボーゲンさんならありえるよね。 

「で、どうする? あたしは今から、予定はないんだけど」

「ボクは、薬草取りに行くよ」

 依頼があるので、薬草を採取に向かおうかと思っていたところだ。

「いいわね。一緒に行きましょ」

「いいの?」

「祖父も行っていたわよ。薬草取りをバカにするやつは、冒険者じゃないって」

「あはは。言っていたね」

 今でも、ボーゲンさんの言葉が耳に残っている。
 
「今日もボチボチでいこう、ソーニャ」


(完)
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感想 1

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みんなの感想(1件)

ひとみ
2024.07.05 ひとみ

ロイドさん、土いじりをしてみてください。野菜、、、プチトマト、お花を育ててみてください。
心が癒やされるかもよ。

2024.07.05 椎名 富比路

ありがとうございます。

ごもっともです。
おそらく導師ボーゲンも、そういったセラピーを推奨してるでしょうね。

解除

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