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第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。
ウザ後輩と、的抜き 1
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翌朝、俺は外着姿でキッチンにいた。テーブルに腰掛け、カフェオレを飲む。
「今日もおでかけなの?」
妹のチヒロが、みかんとバナナをミキサーにかけている。牛乳と一緒に。
「おお。今日は勉強会だ。中間試験がもうすぐだから、図書館にな」
「球技大会はいいの? 準備で、忙しいんでしょ?」
「誠太郎に任せてる。俺は、生徒会で提案をしたから免除だと」
アンズ会長と誠太郎は、休日なのに球技大会の準備だ。
できれば梅雨に入る前に、大会を終わらせたい。
五月末は中間試験もあるし。
「ふーん」
必要以上に、ミキサーが起動しているような気がする。
「スムージーが、シャバシャバになっちまわないか?」
「そうだった。考え事してた」
慌てて、チヒロがミキサーを止めた。中身をコップへと移す。
「どうぞ」
「ありがとな」
二人で、スムージーを飲み干した。
「うまい。やっぱりチヒロのスムージーは最高だな」
「えへへ」
俺が頭を撫でると、チヒロがデレっとした顔に。
「じゃあ、行ってくるから。お前も勉強しろよ」
「今日は、私もお友達の家で勉強会」
「よかった。仲良くな」
「うん。行ってらっしゃい」
玄関で、チヒロが俺に手を振った。
デート当日、地元からやや遠いゲーセンへ。
本当は、近所に行ければよかったが、俺が人の目を気にしすぎた。
妹も朝から不機嫌だったな。「中間近いから、図書館へ勉強しに行く」なんて、ガラにもないことを言ったせいかも。中間なんて、まだ一ヶ月も先だし。
「家で手料理を食べてもらえる妹さんが、うらやましいッス。優しいお兄さんを持てて幸せ者ッスよ」
頬に両手を当てて、クルミはうっとりする。今日の服は、ゆったりとしたグレーのパーカーを着ている。下はヒザまでのショートパンツに、黒のタイツだ。運動する出で立ちである。
コイツがどこまで俺の事を本気で好きか、分からない。未だに、おちょくられているだけのような気がする。半年か一年後に、「ドッキリ大成功!」なんてボードを持ったクルミが出てきそうで怖い。
「家の人には、なんて言ってきたんだ?」
金持ちの家だ。休みの日でものんびりできなさそうだ。
「勉強と、球技大会の秘密特訓に行ってくると」
椅子に掛けたリュックには、教科書とノートも入れてあるとか。
「よく怪しまれなかったな?」
「そのために、普段から優等生のフリをしてるッスから」
クルミが、力こぶを作る。
「生徒会の仕事は、手伝わなくてもいいんだよな?」
今頃、誠太郎はアンズ会長と一緒に、商店街を回っているはず。
「他の役員たちに頼んだそうッス。備品については、彼らの方が顔が利くからと」
「助かった」
俺たちは「アイデアを出してくれたからと」と、免除された。
「言い出しっぺなんだから、率先してやれ」と言われる覚悟はしていたのだが。
どうせ俺が備品のレンタルを頼んでも、脅されるみたいに思われるだろうし。
「その代わり、当日は動いてくれって、お姉ちゃんから釘を刺されたッスけど」
「任せろ」と、俺は胸を叩く。
「じゃあ、朝は身体を動かして、昼以降は、本屋近くのカフェで勉強でもするか」
十時から一二時までゲーセンで遊ぶ。昼食を挟んで一六時ごろまで勉強でいいのでは、とまとまった。
いよいよ、駅近くのショッピングモールへ。そこの一階がゲーセンなのだ。
クレーンゲームやモグラたたきなど、ファミリー向けのゲームが多い。
「広いッスね」
「俺がよく行くゲーセンは狭いぞ」
「生徒指導で、一度行ったきりッス」
風紀委員を連れて、俺たち生徒会も見回りなどをする。といっても本当に見て回るだけで、ウチに不良なんてめったにいない。ゲーセン自体に活気がないのもある。
俺のように、「ゲーセンに住みたい!」って程のバカはいないようだ。
一人で遊ぶゲームを好む俺からすると、他人とゲーセンに行くこと自体が珍しい。ましてや、身体を動かすゲームなんて。
「コレが的当てッスね?」
「ああ。的めがけてボールを投げるんだ」
時間制らしい。三分以内なら、どれだけ投げてもOKだという。
「勝負します? どっちかが負けたら、フードコートのラーメンおごるとか」
「昼、ラーメンでいいのか?」
しかも、フードコートでいいとか。四〇〇円しないぞ。
「賭けるから面白くなるんじゃないッスかー。それに、あたしラーメン食べてみたいッス。安いの」
「そうか。分かった。負けた方がラーメンおごりな」
楽しげにしているから、いいか。
「お先にどうぞ」
「えー、いいんッスかー? ミラクル起こしちゃうッスよー?」
ゴムボールを手に、クルミが構える。
「見てて下さいよ、先輩! あたしが全部抜いちゃうッス」
クルミはボールを振りかぶった。ガタガタな格好で。
「たあ」
へっぴり腰で放り投げたボールは、高らかな放物線を描く。
ハンマー投げじゃねえんだから。
ゴン! という軽快な音が鳴った。案の定、外れである。
「とりゃー」
またしてもゴン! と音が鳴った。
「もういっちょ」
スカ。今度は枠にすら引っかからない。
「ていていてい!」
ゴン、スカ、ゴン! 立て続けに投げるが、クルミの球は枠にことごとく嫌われる。
クルミは一枚も抜けないまま、制限時間三分を使い切った。
「今日もおでかけなの?」
妹のチヒロが、みかんとバナナをミキサーにかけている。牛乳と一緒に。
「おお。今日は勉強会だ。中間試験がもうすぐだから、図書館にな」
「球技大会はいいの? 準備で、忙しいんでしょ?」
「誠太郎に任せてる。俺は、生徒会で提案をしたから免除だと」
アンズ会長と誠太郎は、休日なのに球技大会の準備だ。
できれば梅雨に入る前に、大会を終わらせたい。
五月末は中間試験もあるし。
「ふーん」
必要以上に、ミキサーが起動しているような気がする。
「スムージーが、シャバシャバになっちまわないか?」
「そうだった。考え事してた」
慌てて、チヒロがミキサーを止めた。中身をコップへと移す。
「どうぞ」
「ありがとな」
二人で、スムージーを飲み干した。
「うまい。やっぱりチヒロのスムージーは最高だな」
「えへへ」
俺が頭を撫でると、チヒロがデレっとした顔に。
「じゃあ、行ってくるから。お前も勉強しろよ」
「今日は、私もお友達の家で勉強会」
「よかった。仲良くな」
「うん。行ってらっしゃい」
玄関で、チヒロが俺に手を振った。
デート当日、地元からやや遠いゲーセンへ。
本当は、近所に行ければよかったが、俺が人の目を気にしすぎた。
妹も朝から不機嫌だったな。「中間近いから、図書館へ勉強しに行く」なんて、ガラにもないことを言ったせいかも。中間なんて、まだ一ヶ月も先だし。
「家で手料理を食べてもらえる妹さんが、うらやましいッス。優しいお兄さんを持てて幸せ者ッスよ」
頬に両手を当てて、クルミはうっとりする。今日の服は、ゆったりとしたグレーのパーカーを着ている。下はヒザまでのショートパンツに、黒のタイツだ。運動する出で立ちである。
コイツがどこまで俺の事を本気で好きか、分からない。未だに、おちょくられているだけのような気がする。半年か一年後に、「ドッキリ大成功!」なんてボードを持ったクルミが出てきそうで怖い。
「家の人には、なんて言ってきたんだ?」
金持ちの家だ。休みの日でものんびりできなさそうだ。
「勉強と、球技大会の秘密特訓に行ってくると」
椅子に掛けたリュックには、教科書とノートも入れてあるとか。
「よく怪しまれなかったな?」
「そのために、普段から優等生のフリをしてるッスから」
クルミが、力こぶを作る。
「生徒会の仕事は、手伝わなくてもいいんだよな?」
今頃、誠太郎はアンズ会長と一緒に、商店街を回っているはず。
「他の役員たちに頼んだそうッス。備品については、彼らの方が顔が利くからと」
「助かった」
俺たちは「アイデアを出してくれたからと」と、免除された。
「言い出しっぺなんだから、率先してやれ」と言われる覚悟はしていたのだが。
どうせ俺が備品のレンタルを頼んでも、脅されるみたいに思われるだろうし。
「その代わり、当日は動いてくれって、お姉ちゃんから釘を刺されたッスけど」
「任せろ」と、俺は胸を叩く。
「じゃあ、朝は身体を動かして、昼以降は、本屋近くのカフェで勉強でもするか」
十時から一二時までゲーセンで遊ぶ。昼食を挟んで一六時ごろまで勉強でいいのでは、とまとまった。
いよいよ、駅近くのショッピングモールへ。そこの一階がゲーセンなのだ。
クレーンゲームやモグラたたきなど、ファミリー向けのゲームが多い。
「広いッスね」
「俺がよく行くゲーセンは狭いぞ」
「生徒指導で、一度行ったきりッス」
風紀委員を連れて、俺たち生徒会も見回りなどをする。といっても本当に見て回るだけで、ウチに不良なんてめったにいない。ゲーセン自体に活気がないのもある。
俺のように、「ゲーセンに住みたい!」って程のバカはいないようだ。
一人で遊ぶゲームを好む俺からすると、他人とゲーセンに行くこと自体が珍しい。ましてや、身体を動かすゲームなんて。
「コレが的当てッスね?」
「ああ。的めがけてボールを投げるんだ」
時間制らしい。三分以内なら、どれだけ投げてもOKだという。
「勝負します? どっちかが負けたら、フードコートのラーメンおごるとか」
「昼、ラーメンでいいのか?」
しかも、フードコートでいいとか。四〇〇円しないぞ。
「賭けるから面白くなるんじゃないッスかー。それに、あたしラーメン食べてみたいッス。安いの」
「そうか。分かった。負けた方がラーメンおごりな」
楽しげにしているから、いいか。
「お先にどうぞ」
「えー、いいんッスかー? ミラクル起こしちゃうッスよー?」
ゴムボールを手に、クルミが構える。
「見てて下さいよ、先輩! あたしが全部抜いちゃうッス」
クルミはボールを振りかぶった。ガタガタな格好で。
「たあ」
へっぴり腰で放り投げたボールは、高らかな放物線を描く。
ハンマー投げじゃねえんだから。
ゴン! という軽快な音が鳴った。案の定、外れである。
「とりゃー」
またしてもゴン! と音が鳴った。
「もういっちょ」
スカ。今度は枠にすら引っかからない。
「ていていてい!」
ゴン、スカ、ゴン! 立て続けに投げるが、クルミの球は枠にことごとく嫌われる。
クルミは一枚も抜けないまま、制限時間三分を使い切った。
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