俺にだけウザ絡みしてくる後輩と、付き合うことになった。

椎名 富比路

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第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。

ウザ後輩と、的抜き 2

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「結構難しいッスね」
 クルミが、タオルを首筋に当てる。

 その間に、俺はコインを入れた。

「先輩、カッコいいところお願いするッスよ」
 クルミが俺に、柄にもなく黄色い声援を送る。
 

「おう、見とけよ」

 オレの球も枠に当たって、ゴン! と外れた。

「ギャハハハ! ダッサ! 言ってる側から外して、ダッサ!」
 クルミが腹を抱えて笑った。

「このやろ、見てろよ」
 俺は渾身の力を込めて、もう一球投げる。今度は盛大に外れた。


「惜しい!」
 言う割に、クルミはうれしそうである。





 ムキになればなるほど、枠に嫌われた。
 ゴムボールというのが曲者だ。コントロールも定まらない。三級連続で外す。真ん中が取れない。枠が狭すぎる気がした。


「案外難しい!」

「せーんぱい、一球でも当たったら、キスしてあげましょうかーっ?」
 冗談交じりに、クルミが投げキッスをよこす。


「やかましい、気が散る!」

 ゴン! 

「ぎゃははははは! 本気にしてやんの!」
 また笑われた。


「ラスト十秒ッス、先輩!」
 このままだと、俺も〇枚で終わってしまう。

 こうなったら、と、俺も連続投げを決行した。
 
 一球だけ、枠を捉える。

「え、待って待って待って!」
「よし、入れ!」

 だが、連続投げが災いし、ボール同士が衝突してしまう。
 枠を捉えるどころか、盛大に弾け飛んだ。

 結局一球も入らないで終了となる。

 クルミ、ホッとしてやがった。
 覚悟がないなら変な約束するなっての。

「まあまあ、初めてなんてこんなもんッスよ」

「んだよ偉そうに。お前だってノーコンじゃん」
「じゃあ、どーしてもっていうなら、再チャレンジします?」

 腕時計を確かめた。昼も回っていない。

「まだ時間があるし、もうひと勝負するか」
「そうっすね。汗もかいてませんし。それに……」

 クルミが、俺に顔を近づけ、耳の側に言葉を投げかけた。

「キスの約束もまだッスから」
「おま……」

「ギャハ! やーいやーい! 動揺してやんの!」
 俺を指差しながら、クルミが涙を流しながら笑い転げる。

「こいつ。本気にしちまうぞ」

「え」
 突然、クルミが真顔になった。

「いいから先やれよ」

 他にプレイ従っている人がいないことを確認し、連コインする。

「わ、わっかりました! とりゃー」


 ゴン!


「お前そればっかだな!」
 相変わらずのへっぴり腰である。

「黙ってろッスよ! せいやあらああ!」
 投げた瞬間、クルミは盛大にズッコケた。

「クルミ!」
 とっさに、俺は前のめりになったクルミを抱きかかえる。

「~~~~~~~~っ!」
「ケガはないか、クルミ?」

 奇跡的に、球が枠の中へ吸い込まれていった。

「おー、当たったぞ、クルミ!」
 一応、喜んでおく。

「あれ、クルミ?」
 なぜか、クルミが俺の左手首を掴む。




「この手はファールフライ、ッス」




 力のない声で、クルミは俺に顔を向ける。真っ赤に頬を染めながら。

 何事かと思って手を見てみる。俺の右手はクルミの腰を、左手は胸を鷲掴みしていた。

「あっ、すまん!」
 動揺して、俺は手を放す。

 クルミが立ち上がった。

「時間ッス。先輩投げてくださいッス」
 クルミが俺にボールをよこす。

「お、おう」
 とはいえ、混乱した手ではうまくコントロールできず、枠に阻まれる。

「どうしたんスか、先輩? キスが遠ざかっていくッスよー?」
 いつもの軽口が、クルミに戻ってきた。

 ひとまず、外枠左側の一枚を抜く。

「おーやったッスね!」
 手を叩いて、クルミが喜ぶ。

「せーんぱい」
「なんだよ」

 今集中しているから、後にしてほしいんだが。




「がんばって」
 潤んだ眼差しを、クルミが向けてきた。



 心臓が、過剰反応する。クルミに変な感情鳴って持っていないはずなのに、俺は動揺してしまう。


「ぐおおおおおお!」
 やけくそで、ラスト一球を放り投げる。


 タイム〇秒になったところで、ようやくもう一発当たった。しかもど真ん中だ。

「おーっ、先輩の勝ちッス!」
 ぴょんぴょんと、クルミがその場で飛び跳ねた。



 しかし、店員は手でバツ印を作る。



「え、無効?」
 制限時間直後に当たったので、記録にならないという。



「引き分けッスねー、残念」
 コイツ、うれしそうに。


「泣きのもう一戦、します?」
「なんだよ泣きって。一応、的に当たったのは俺の方だし」
「ムキになったらカッコ悪いッス。そんなにあたしと、ちゅーしたかったんスか」
「うるっせ」

 どうにか再戦に持ち込もうとしている、お前の方がカッコ悪いわ!

「えー、先輩の方こそ、肩が温まってないでしょーお? もう一戦しておいて、本番でガツンといいトコ見せたくないッスか?」

 言われてみれば、そうだな。
 このまま帰っても、体験しただけで終わりになってしまう。
 このゲームで、なにか気づくことがあれば、生徒会に活かせるかも。

「よし、泣き言とか言うなよ」
「先輩に言われたくないッスねー」
「言ったな。じゃあ、ラーメン賭けて、もうひと勝負だぜ」
「望むところッス。先行、てりゃー」


 ゴン!



 数分後、そこには息も絶え絶えな男女がいた。

「ぜーぜー、今日のところは、このくらいにしておいてやるッス」

 結局、お互い一枚程度という、なんとも不本意な結果に。

「ほ、他のゲームをするか」

 トボトボと、他のゲームへ向かう。
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