俺にだけウザ絡みしてくる後輩と、付き合うことになった。

椎名 富比路

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第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。

ウザ後輩との仲を、隠し通す。

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「ただいま」
 玄関を開けると、妹のチヒロが走ってきた。



「おかえりお兄ちゃん」

 珍しく、チヒロはよそ行きの服を来ている。紅白チェックのTシャツに、丈の短いデニムのサロペットスカートだ。中学生の割に見た目が幼いチヒロに、よく似合っている。

「おう。今日はどうだった?」
「部活のメンバーと勉強してた。家にお呼ばれして、四人で」

 チヒロは笑顔で話す。

 よかった。友だちができたみたいで。

 って、よそ様の家だと?

 しかし、クルミの言葉が、頭をよぎる。

「なあチヒロ、その中に男子はいなかったか?」
 チヒロの両肩を掴み、俺は尋ねた。

「いるわけない。男子部員は男子で集まってたらしい」
「そっか。すまんな。チヒロを信じてなかったわけじゃないが」
「お兄ちゃん以外の男子に興味ない」

 それはそれで問題発言だぞー。

「でも、今日は一日、お兄ちゃんがいないから寂しかった」
 そう言われても。まだ、兄離れができていないか。

「お前は、クラスとか部活で、男子と仲いいのか?」
「しゃべらない。事務的な会話もないかも」
「そっか」

 何をホッとしてるんだ、俺は?
 クルミが成長したなら、見守るのが兄ってもんだろうが。
 どうして兄が妹を独占できると思った?

「好きな人ができたら、教えてくれな」
 妹は「うん」といった後、間をおいて尋ねてくる。

「そういうお兄ちゃんは、どうなの?」
 射抜くような視線が、俺に向けられた。

「お兄ちゃんにカノジョできたら、教えてくれるの?」

「お、おう、ちゃんと話すよ。約束する」
 事情をさとられまいと、あくまで平静を装う。

「絶対」
 チヒロと指切りを交わした。

 すまん、妹よ。兄は嘘つきだ。

 あれをカノジョと呼んでいいのか?

 交際してくれるのはありがたい。けれど、付き合ってくれているだけなんじゃ、という疑惑も拭い去れなかった。

 メシの支度をしながら、クルミのことを考える。今日は何を……。

 スマホが鳴った。

「どうした、誠太郎?」

[いやな、お前んトコのおじさんから連絡あって、久々にウチ同士でメシでもどうだってさ]

「いいじゃんか」

 チヒロにも相談し、準備をする。
 幸い、チヒロは着替える直前だったので、用意はすぐに済んだ。

 両親が帰宅し、さっそく誠太郎一家の待つ料理店へ。

「う、お……」

 夕飯も、中華料理だった。ラーメンメインで。
 それも、結構な値の張る店だぞ。
 誠太郎のおじさん、奮発したな。ラーメンにフカヒレ乗ってるし。

「いやぁ。親父が昇進してな。今日はお祝いなんだ」
「おめでとう」

 俺と誠太郎が、お茶で乾杯する。

 とはいえ、昼に続いて夜もラーメンか。

「どうしたの、リクト。あんまり箸が進んでいないようだけど。食欲ないの?」

「ああ、実は昼もラーメンだったんだ」
 誠太郎に悪いので、小声で母に伝えた。

「そうだったの? じゃあ餃子だったら食べる? 臭わないニンニクを使ってるんですって」

「ありがとう。そうするよ。チャーハンちょうだい」

 チャーハンを回してもらい、俺はライス系メインで平らげていく。ラーメンはチヒロに選り分けてあげた。
 俺は、フカヒレを少しつまむくらいで留める。

「わーい」
「からあげも食えな」
「お兄ちゃん大好き!」

 チヒロは大いに喜ぶ。

「誰かと食べに行ったの?」と、母が聞いてきた。

「え、いや。なんで?」
 チンジャオロースを食べながら、冷や汗を拭う。

 どうして、誰かと一緒に食事してきたと分かった?

「あんた、外食とかムダ遣いしないでしょ? 寮のある大学に入るんだとかで」

 言われてみれば。

「勉強を見てもらったんだ」
「誰かと一緒にゴハン食べたんでしょうねって。仲良くしているの?」
「それなりだな」
「よかったじゃない。勉強だけが人生じゃないわ。お友達とも仲良くね?」
「おう」

 俺たちの話を聞きながら、誠太郎がラーメンを豪快にすすった。

「勉強だったら、オレも見てもらいたかったなー」
「お前は学年一〇位圏内だろうが」

 しかも直感で解答する天才肌なので、教わってもなにひとつ頭に入らない。

「誰に教わったんだ? 鹿島か?」
「女子じゃねえか。違う違う。接点ないから」

 学年トップの図書委員を上げてきたが、俺は首を振る。

「仙道だ、仙道」
「え、あいつって、よその高校行ったじゃん」

「誰なの、その子?」と、母が誠太郎に尋ねた。

「秀才中の秀才で、勉強の鬼なんですよ」

 男子と聞いて、母はフンフンと安心したかのように首を振る。

「たまたま勉強していたところで、ばったり会ってな。俺の指摘してきやがってさ」
「あー、仙道のやつ、そういうとこあるよなー」

 オレもやられたわ、とは誠太郎の弁だ。

「で、せっかくだからって真向かいに座ってきた」

 遠くの高校に越して行ったやつだから、名前を出してもいいだろう。

「仙道の指導なら、中間はうまくいきそうだな」
「任せろ。生徒会で赤点なんか出すかよ」
「仙道に電話するかな」

「待て待て。向こうも忙しいだろうからさ」
 俺は、誠太郎がスマホを操作しようとしたのを止めた。

「だな。そもそも仙道の番号、機種変したかで変わってたな」
「引っ越しの際にデータが吹っ飛ぶなんてのは、よくある話だ」
「それもそうか」

 こうして、誠太郎の親を祝う会は、にぎやかに終わる。
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