俺にだけウザ絡みしてくる後輩と、付き合うことになった。

椎名 富比路

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第二章 後輩ウザかわいさが、とどまるところを知らない(自称

ウザ後輩は、やっぱり「あーん」してほしい

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 やはり、アンズ会長は知っているんだ。

 俺たちの関係を。


「あなたが、食いしん坊だってこと」
 返ってきたのは、意外な回答だった。


「ハンバーグだけじゃ足りないんでしょ? おうちでも、サイドメニューのポテサラを、容器が空になるまで食べていたじゃない」

「そ、そのことですか。人前で恥ずかしいです」
 クルミは、アンズ会長から目をそらす。

「恥じることなんて、ないから。食べられるって元気な証拠だよー。元気に育って、お姉さんはうれしいぞー」

「そ、そうですね」
 ホッとしてるのが、クルミの顔色で分かる。

「でもさ、クルミの男性不信が治ってよかったって思ってるよー」
「なんのことでしょう?」
「だってさ、リクトくんと密着しても、嫌な顔しないでしょ?」

 またしても、俺は心臓が跳ね上がった。

「おねーさんはうれしいよ。クルミも成長してるんだなって」
 ハグをしようとしているのか、アンズ会長が両手を広げる。


「ありがとうございます」
 なのに、妹の方はこの塩対応。

「やーん、かわいくない!」
 お姉さんにプンスカ怒られて、クルミもビクッとなる。

「もー、こうなったら、無理やりデートさせてやる! 誠ちゃん!」

「んあ?」
 俺たちの会話を聞きながら、誠太郎は野菜ジュースを飲んでいた。のんきだな。

「明日試験休みじゃん。遊園地に行きましょう! この二人も交えて!」

 なぬ? 

「別にクルミが、リクトくんのこと嫌ならいいよ。無理しなくても。でもでも、クルミだってリクトくんなら平気でしょ?」

「ええ、まあ。嫌いではない、です。助けてくださいましたし」


「でっしょー。だったらさ、クルミの対人苦手を克服するお手伝い、頼んでもいいかな?」

 俺は、クルミを向き合う。

 クルミの方も、困惑気味だった。

 なぜ、そんな状況になるのか。

「なんでまた、そんな急に」
「実は、遊園地のチケットが当たってしまったのです」

 球技大会の備品を買いに、生徒会で商店街を回っていたという。
 ちょうど、福引していたので、ついでに回そうぜというノリになり、アンズ会長が代表として回したのだ。

「誠ちゃんがおうどんくれたので、私はこの遊園地チケットをお返ししようと考えついたのです。でもこれは、家族チケットだったのです。四人同時プレイ」

 アンズ会長が、俺たちの前で指を四本立てた。

「他の生徒会には、声をかけなかったんだな」

「全員が『えーっ、二等のナンテンドー・タッチがよかった』とか抜かしやがったので、上げませんでした」
 大人気なく、アンズ会長が口をプクーとふくらませる。

「あいつらデート慣れしているらしくてな、興味ないんだと」と誠太郎が言う。

 意外と貞操観念薄いよな、我が校は。

「斉藤家だけで行けばいいじゃんか」

「やーだやーだーっ! あんな退っ屈な家族と、顔を突き合わせなきゃいけないなんて、やだーっ!」

 一言だけで、会長が家をどう思っているのか分かった。

「ですから、お二人にもついてきてもらいます」

「クルミ……さんは、ついてきていいんだな? 同じ家族でも」
 思わず呼び捨てになりかける。やばかった。

「妹はかわいいもーん。それに、たまには姉らしいこともしてあげたく」

 ムフフと笑みを浮かべているので、どうも良からぬことを企んでいるっぽい。

 ともあれ、クルミとアンズ会長が打ち解けあっている。微笑ましい。

「先輩の方こそ、よろしいのですか? あたしのような無愛想な女は、退屈なのでは?」

「と、とんでもない。よろしく」

「了解を得ましたので、ご一緒致します」

 アンズ会長が「かたっくるしーなー」と言いつつ、話をまとめる。

「日時は、来月の日曜でいいよね? ちょうど、その頃くらいにテスト勉強も始めなきゃだし」

 俺たちのバイト先を気にして、アンズさんは休暇の相談ができる余地を与えてくれた。抜かりない。

「じゃあ、メッセで詳細を後日贈ります。よろしくて」

「異議なーし」
 誠太郎が意見をまとめて、解散となった。

「ごちそうさま。ありがとう誠ちゃん」
「いいっていいって。オレもごちそーさん」

 二人がトレーを片付けに言っている間に、クルミが大胆にも口を開ける。

「せーんぱいっ」

 こいつ、あ~んさせる気だ!

 俺は、最速のスピードで、カレーをクルミに食わせた。

「んん! ゴホゴホ!」
 量が多すぎたのか、クルミがむせる。

「どうしたの、クルミ?」
 アンズ会長が、何事かと振り返った。

 しゃべれない中、クルミは手を顔の前でひらひらさせる。「なんともない」とアピールした。

「がっつかないの」

 コクコクと、首肯だけでクルミは返答する。

 クルミも俺も食べ終わり、トレーを返した。

「じゃあ、このまま帰るから。おつかれさま」

 戻ってきたアンズ会長が、クルミの腕を優しく引く。

「で、では、わたしもこれで」
 立ち上がったクルミは、頭を下げた。

「おう、おつかれさん」
 俺は手をふりかけたが、誠太郎の目があったのでやめておく。

「それじゃ誠ちゃん、後でね」

 アンズ会長とクルミが、食堂を出ていった。

「ホントに、クルミちゃんとはなんともないんだな?」
「なんともねーよ」
「でも、いいと思うぜ。お前ら二人」
「褒め言葉と受け取っておくぜ」
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