俺にだけウザ絡みしてくる後輩と、付き合うことになった。

椎名 富比路

文字の大きさ
33 / 48
第二章 後輩ウザかわいさが、とどまるところを知らない(自称

ウザい後輩と、ドーナツ

しおりを挟む
 翌日、俺はクルミと一緒に隣町のデパートへ。

「初デート以来ッスね。ここ」
「ああ。映画で盛り上がったな」

 今日も、クルミは一人でココへきた。下校時間に合わせて、時間帯もずらして。

「アンズ会長のことだから、一緒についてくるものだと」
「言われたッスよ? でも、大杉先輩とのデートを邪魔したくないから一人で行く、って言ってきたッスよ」

 アンズ会長は現在、誠太郎の洋服を選んでやっているのだとか。何を着させても似合うだろう。なんたって誠太郎だからな。

「どこまで行ったんだ?」
「ハニクロ、ッス」

 正反対の位置にある、大量洋服売り場である。

「やけに庶民派だな。もっと高そうな店を選ぶかと」
「汗かきそうだから、動きやすくてスッキリしたものを着たいんだそうッス。特に、姉は下着が欲しいらしくて」

 アンズ会長は、動きを阻害しない下着を求めているという。普段、どんだけ締め付けてんだよ?

「ペアルックとか、着てきそうだな」

 俺が言うと、クルミは「プッ」と吹き出す。

「お前らって、姉妹の仲はいいのか? それとも」
「普通ッス。あんま干渉し合わないんで」

 そっけなくはせず。が、過保護でもない。互いの詮索もなしだという。

「親が過干渉すぎる、ってのがあって、お互いにウンザリしてるッスから。その反動ッスね」

 フードコートに寄って、ドーナツで軽くデザートタイムとする。

 俺はホットコーヒーと、全種類味見できるコロコロしたドーナツを。クルミは生クリーム系とシュガー系の二つ、アイスの抹茶オレだ。結構、頼んだな。

「服選びだぜ。ドーナツで太ったら大変だぞ」

「ドーナツ一個くらい平気ッス。普段はおやつなんてあまり口にしないんで。むしろ成長期なので、ちょっとゆったりした服を選ぶッス。この間も買ったブラがすぐにサイズが合わなくなり」

「ストップ。ストップだクルミ」

 これ以上説明されたら、想像してしまう。

「んー? 先輩、変な想像しちゃいましたね? あたしがブラをつけているところをイメージしちゃったんスねーっ?」
 ドヤ顔で、クルミが身を乗り出してきた。
 テーブルに体を寄せたから、胸がポヨンと潰れている。

「してない」
「脇のお肉をブラに集めているところを、想像しちゃったんスね?」
「だから、してない!」

 具体的すぎるだろ!

「とんでもないことになりましたね」

 まさか、無意識にカップルくさいことをしていたとは。

「気づかれてないといいけどな」
「あたしとしては、もうバレてもいいッス」
「マジか?」
「だって、先輩のこと好きなのは、ホントッス。あとは、先輩のお気持ち次第で」

 俺に気を使っていたのか。

「別に、彼女がいるくらいで俺も気にしていないが、お前の家に発覚すると、面倒そうだな」

 アンズ会長ですら、誠太郎との交際を隠し通している。

「そのときは、そのとき対処するッス。あたしは次女ッスから、お咎めも少しで済むかも。問題は」
「やっぱ、アンズ会長だよな」
「姉さんは、親ともたびたび衝突してるッス」

 自由で開けた経営方針を打ち出す姉に対し、両親や祖父母は、伝統を重んじて変化を嫌う。
 両者は、まったく相容れない。
 お互い、より良い未来を考えてのことなのに。

 両者の間で、クルミは窮屈な思いをしてきたという。

「端から見ていれば、大した問題じゃなさそうなんだけどな」

 変われない文化は衰退していく。いつまでもビビっていては何も生み出せなくなる。

 アンズ会長の決断は、きっと新しい風をもたらす。

「で、先輩は、あたしのコト、好きッスか?」

「まあ、嫌いでは、ない」
 俺は、歯切れの悪い答えを返した。

「答えになってないッス!」
 アイス抹茶オレを、クルミはコンとテーブルに叩きつける。

「まるでドーナツの穴のようッスね。スッカスカで、見通せないッス」
「お前がもうちょっと、おとなしい性格なら、惚れていたかも」

「へーえ」
 にへら、と、クルミはしたり顔になる。

「じゃあ先輩っ、今日は普通モードでデートするッスか?」
 俺の手に、クルミが手を重ねてきた。

 体温が一気に上昇する。本当に、黙っていれば美人なのだ。クルミは。

 しかし、すぐにクルミは吹き出す。

「デヒヒヒッ、だめッス。恥ずかし」
 両手で顔を覆い、クルミは突っ伏してしまう。

「なんで。なんでダメなんスか。こんなにも好きなのに、素直になれないッス」

 クルミはクルミなりに、キャラ付けに戸惑っているらしい。

「ごめんなさい。普通の子とデートしたいッスよね? こんなおちょくってくるやつとなんて、一緒にいたくないッスよね?」
 そう言って落ち込んでいるクルミの表情は、今にも泣きそうだ。

「いいって。自然体のクルミでいいんだよ」

 俺が告げると、クルミは「はふう」と一息つく。

「ありがとうッス。もう、どれが普段のあたしなのか、もう自分でもわからなくなってきたッス! 先輩のこと好きなのはホントなので、信じてほしいッス」
「もう聞いたよ。ありがとな」

「はわぁ」
 魂が口から抜けそうな顔になっている。

「服を選びに行くぞ」
「はぁい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

処理中です...