俺にだけウザ絡みしてくる後輩と、付き合うことになった。

椎名 富比路

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第二章 後輩ウザかわいさが、とどまるところを知らない(自称

ウザい後輩の、ファッションショー

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 食べ終えた俺たちは、洋服売り場へ。

 だが、ここへ来てとんでもないやつと鉢合わせた。
 女子の制服を来た大女が、男子の「大きいサイズ」コーナーで洋服を物色している。腕なんて、成人男性の足くらい太い。

「よりにもよって、鹿島かしまさんかよ」
「あの方がッスか!」

 我が二年が誇る秀才で、最強の図書委員長と呼び声の高い鹿島さんだ。

「おい、クルミ、ちょっと隠れてろ。話しかけられるとヤバイ」

 俺と鹿島さんは、クラスメイトなのだ。

「おう、ダン氏。ごきげんよう」
 鹿島さんが、こちらに気づいた。

「壇氏も、このキャラコラボTをご所望でござるか?」

 手に持っているのは、ゲームキャラがプリントされたTシャツである。自身がゲームキャラのような設定をしているが。

「いや。ちょっとよそ行きの服を」

「ほほお。いやはや、オシャレは大切でござるよ」
 豪快に、鹿島さんは笑う。

「実はこれ、デート着なのでござる」

「鹿島さんにカレシってマジかよ。やるじゃん!」
 まるで旧友のように、俺は鹿島さんのことを喜んだ。

 いいヤツだもんな、この子。

「イベントで知り合った男性と、意気投合してな。おそろいの洋服などを色々と物色していたのでござる」
「ペアルックか、健気じゃん」

「うむ。かたじけない」
 失礼な言い方だが、鹿島さんにも乙女なところがあるんだな。


「では、壇氏、拙者はこれにて」
「おう。気をつけてな」
「ぬはは、拙者を誰だと心得ておる?」
「そ、そうでしたね」

 家が空手道場を運営していて、黒帯の実力者である。
 なのに図書委員という変わり者だ。
 理由を聞くと、「学生レベルのスポーツ部なんて、入る気すら沸かん」とのこと。
 殺人拳でも習っているのではなかろうか。

「では、また学校で」

「うむ」
 ごきげんな顔で、鹿島さんは去っていった。

「えらい、キャラの濃い人ッスね」
「悪いやつじゃないんだ」
「オススメTシャツ買うっす?」

「買いま……せん!」
 俺は、キッパリと否定する。

 気を取り直して、服選びに。 

「先輩大きいから、何着ても似合うッスね。かっこいいッス」

 俺に、イケメンという自覚はない。多分お世辞だろう。

「これでいいよな でも、俺からでよかったのか?」

 クルミがいいと言った服を、俺が先に選んだ。クルミを待たせたことになる。

「先輩が試着している間に、吟味していたッス」


 言っているクルミの両手には、たしかに洋服一式が。結構数も多い。

「普通、逆だろ」

 女が試着している間に、男が適当に見繕うシーンなら分かるが。

「時間かかりすぎるッス。女の買い物って長いよねって、思われたら終わりッス」
「それも醍醐味だと思うがね」
「でもイヤッスよね?」

 正直に言うと。

「なるべく時間は有効活用したい」

「そんな先輩の性格を鑑みて、この作戦を取ったッス」

 気遣いの鬼だな。

「じゃあ、試着してくるッス」
「敬礼はいいよ。普通に行け」

 カーテンの奥に消えていく。

「脱いだタイミングで開けるので、入るッス」
「なんでだよ⁉」
「ラッキースケベってやつッス!」

 それは「入らざるを得ない状況」になって、初めて成立するからな!

「アホか! 入らんからな!」
「えー、つまんないッスよ。盛り上がりましょう!」
「いいっつーの!」

 俺は念を押して、店の外にある休息用ソファへ腰掛けた。はあ、相手をするだけで疲れる。気遣いはうれしいが、クルミ自体がウザ絡みしてくるから大変だ。

「終わったッス!」
 やけに大声で、クルミが声をかけてくる。

「ちゃんと着たよな?」
「はい! バッチリッス」

 カーテンが開く。ちゃんと服を着たクルミが立っていた。

 水玉ブラウスの上に、チェックの入ったグレーのジャケットを着ている。下も同色のキュロットスカートだ。頭には、漫画家のような帽子を被る。

 しっくりするほど、ぴったりだが。

「遊園地って感じじゃないな。美術館めぐりならそれかも」

 アトラクションを巡るわけだから、動きやすい服装がいいだろう。

「なるほど。ではー、こっち!」

 マジシャンのような早変わりで、クルミが着替え終えた。それもそのはず。今度はTシャツワンピース姿だ。

「バッチシじゃないッスか?」

 お世辞抜きで、似合っている。
 とはいえ、デート着かと言われると悩む。部屋着だよな。

「一気に、ガキっぽく寄せたな」
「厳しいッスねー」

 俺の発言に、ガックリとクルミは肩を落とす。
 やる気満々で登場した分、ダメージが大きかったようだ。

「エッチっぽいから、好きかなーと思ったんスが」
「リラックスしすぎだな。だらしなく見える」

 部屋着なら、これでいいだろうけど。

「そのだらしなさがクセになったりしないッス?」

「いんや」と、俺は首を振った。

「そこまでッスか」
「妹が学校休みの日に、そんな格好になるんだよ」

 この格好で、妹はソファで携帯ゲームに勤しんでいる。
 要は、見慣れているのだ。
 透け防止の柄がマンガ絵というのも、マイナスかも知れない。

「そっかー。妹さんで慣れてるなら、着替えざるを得ないッスね」
「んだよ、その対抗意識」

 またしても、カーテンが閉まる。
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