俺にだけウザ絡みしてくる後輩と、付き合うことになった。

椎名 富比路

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第二章 後輩ウザかわいさが、とどまるところを知らない(自称

ウザい後輩と、アイス

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「パイレーツ楽しかったねー」
 キャッキャと、アンズ会長がはしゃぐ。

「お、おう」
「そうですね」

 終始隣同士だった俺とクルミは、まだドキドキしていた。

「どうしたの、ふたりとも? 緊張した?」

 急にアンズ会長から話を振られて、俺は「へあ?」と変な声を出す。
「まあな。うん」

「めったにお話なんて、しませんものね」

 二人して、たどたどしさを装う。

 悪いな。俺たちは影に隠れてめっちゃ語り合ってる。

「休憩しよーぜ。アイスでも食べるか?」
「食べる!」

 俺たちに聞いてるのに、会長が真っ先に手を上げた。

「分かった。じゃあ待ってろよ。イチゴ味だっけ?」
「うん!」

 会長は「わーい」とバンザイする。

「俺も行く。クルミ……さんは?」
 危うく、呼び捨てにするところだった。

「あ、あ、う。下の名前」
 クルミが冷や汗をかく。

「だって、斉藤さんは二人いるからよ。今日だけ」
「で、では、リクト先輩。私もイチゴ味を」

 思えば、初めて下の名前で呼ばれたぞ。

「お? 急接近?」

 アンズ会長から茶化されて、クルミはうろたえる。
「ちちち、違いますから! ノリですノリ!」

「でも、気になるなら相談してね」

「はい、姉さん」
 苦笑いで、クルミは会長の言葉を返す。

「イチゴ味が、四つだな」

 丸テーブルを囲み、みんなで買ってきたアイスを食べる。

「いつもアイスってバニラなんだけど、たまにはこういった味もいいな」
「うん。女の子が夢中になるのも分かるよ」

 果物味なんて、何年ぶりだろう。
 こんな甘ったるい味だったっけ。

「みんなで食べると、なおさらおいしいね」
「はい。姉さん」

 姉妹も仲良く、アイスを堪能していた。

「もう。誠ちゃん、ホッペについてるよ」
 アンズ会長が、誠太郎の口元をハンカチで拭く。

「ああ、ありがと」
「うふふー」

 絵になるなぁ。
 ハンカチで口をぬぐっただけなのに。

「あ、リクト先輩、ほっぺ」
 クルミが、俺の口元にハンカチをあてがう。


「お、おう。ありがとな」

 って、クルミの方が顔中にアイス付けてやがる!
 ほうれい線を消すパックみたいに塗りたくってやがった。
 どこまで拭いてほしいんだよ?

「お前マジか。ほら」

 くしゃくしゃのハンカチを取り出して、クルミの顔をゴシゴシとぬぐった。

 イチゴの色以外の赤が、ハンカチに付いている。

「おっと、すまん」

 口をキレイにして分かった。こいつ、口紅を塗っていたのか。

「お構いなく」
 クルミは気にすることもなく、自分でハンカチを使って顔の周りを整える。

「次はさ、あれに乗ろうよ!」

 くつろいでいたのもつかの間、俺は試練に悩まされる。

 あろうことか、アンズ会長が希望したのは、ジェットコースターだった。

 俺は血の気が引く。絶叫を出せずに乗り切れるのか。

「みんな怖い? 怖いなら、わたしだけで行くけど」
「いや、大丈夫。オレはついていくよ」

 怖がりではない誠太郎は、喜んで会長へとついていく。

「二人はどうする? 待ってる?」

 俺は、コースターの行列に入れなかった。

「無理するなよー、リクト。オレたちに合わせる必要なんてないからなー」
 俺がビビりだと知っている誠太郎が、優しい声をかけてきた。

 できれば待っていたい。乗りたくなかった。

 しかし、乗らなければ後日クルミに何を言われれるか。「カッコ悪~デュフフ」とか笑われそうだ。きっとそう。

 こうしている間にも、俺の前に次々と列ができていく。

「乗る。乗らいでか」
「あたしも参りましょう。先輩」

 覚悟を決め、俺はクルミと列に並ぶ。もう結構な列になっていた。躊躇していたら、いつまでも乗れない。

 先頭にアンズ会長が並び、他の客もシートへ着席する。

「はいここまででーす」

 無情にも、俺たちの前で満席になってしまった。
 俺がためらっていなければ。

「先行くわー。すまんなリクト」
「待っててねー」

 ガタンゴトン、と誠太郎カップルを乗せたジェットコースターが前進する。

「すまん、クルミ」

「いいッスよ。先輩」
 クルミが、小声でいつもの調子で語った。

「よかったッスよ。先輩のビビリが姉さんにバレなくて」
「言うな! 恥ずい!」

 俺は顔を覆う。こうなったのもビビりのせいだ。

「下の名前で呼ばれた時は、バレるかとビクビクもんだったぞ」

「まさか、姉の前で名前を呼ばれるとは思ってなかったッス。だから仕返しッス」
 口をとがらせて、クルミが反論してきた。

「マジで気を使わせすぎたな。今まで」
「やっと二人きりなんスよ? もっと喜んで欲しいッス」
 誰も見ていないのをいいことに、クルミがさりげなく腕を組んでくる。


「うれしいは、うれしいんだけどな」
 俺は、誠太郎たちの様子を伺う。小さくてよく見えないが、楽しそうだ。

「うわー結構くねくねするんスね。大丈夫ッスか? リタイアするッスか?」
 組んでいる腕の力が、強くなっている。
 これは、ビビってるな。俺もだけど。

「いや。並んじゃったからな。最後までやり遂げる」
「ふーん。あたしはてっきり『カッコ悪~デュフフ』って笑われたくない一心で、虚勢を張っているものかと」


 見透かされていた! コイツ、俺の心を読んでやがるのか? 


「そんなワケねえだろ! どうってことねえよ」
「では、お手並み拝見ッス。ほら、帰ってきたッスよ」

 クルミの体温が離れた。
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