俺にだけウザ絡みしてくる後輩と、付き合うことになった。

椎名 富比路

文字の大きさ
41 / 48
第二章 後輩ウザかわいさが、とどまるところを知らない(自称

ウザい後輩と、お化け屋敷

しおりを挟む
 真っ黒いカーテンを抜けて、お化け屋敷内部に。
「あれ、大したことないぜ」

 誠太郎の言う通り、薬品のツンとした匂いがほのかに漂うだけで、後は暗いだ||

「ひっ」
||思わず、声が漏れた。

 血まみれのベッドが、蛍光灯の点滅で一瞬だけ見える。連続して点滅すると、より状況が鮮明にわかった。これは手術台だ。血に染まった機材などが、床に散乱している。

「大丈夫ッスか先輩、足が震えてるッスよ」
「お前こそ平気か? 連れてきておきながら、今更後悔したって遅いからな」
「なーにを仰るヘタレさん、ッスよ。特等席で先輩のビビリ声を聞けるの、興奮してるんッスよ。早く可愛い声聞かせてほしいもんスね」
「随分と饒舌だな。怖いのをひた隠してるのミエミエなんだよ! もっと一歩一歩は大股で行かないとギヘエエ!」

 なんか踏んだ! 内臓を踏んでる!
 俺は片足立ちのまま、硬直してしまった。

「先輩ってなんでそんなにビビりなんスか?」
「生まれつきだ! 怖いものは怖い!」

 なぜだろう。クルミの前だと、『毅然としなければ』という感覚が薄れる。自分に正直でイられるのだ。こいつも自分をさらけ出しているからか?

「認めましたね。カワイイ先輩ぃいひいいいい!」
 クルミが、急に俺の胸に飛びついた。

 抱きしめられ、俺は身動きが取れなくなる。

「おいクルミ! どうした?」

 ただ俺の胸に顔をうずめた状態で、クルミは指を俺の背後に指す。

「おい、何もいねえぞ、脅かすな」
 振り返ってみたが、暗黒があるだけで何もない。

「いたッス! 確かにいたッスよ!」
「どこにそんなのがアヒヒヒヒ!」

 俺がクルミに振り返った途端、クルミの真後ろに骸骨がいた。

 今度は俺が、クルミを強く抱きしめる。細い身体を引きずるように、後ずさった。

「ぎゃああああ!」

 続いて、人体模型が暗黒から姿を現す。クルミが見たのはこれか!

「逃げろ!」
 俺は猛ダッシュで、クルミの手を引く。

 息切れも気にせず、ただ暗闇を駆け抜けた。

「はぎゃあああ!」

 血糊の手形が、壁にベタベタと浮き出る。まるで、俺たちを追いかけるように。ペチョペチョという効果音も響く。

「手、手、手ェ!」

 顔がプロペラ戦闘機になっているという、コンセプトの分からない怪物が出てきた。

「うわあ、なんだコイツ!」
「怖くないのが逆に怖いッス!」

 意味不明なクリーチャーに追いかけ回され、俺たちはゴールを目指す。

「ドアだ!」
「出口って書いてるッス!」

 俺はノブを回す。

「ひぎゃあああああ!」

 最後の仕掛けはすべり台になっていた。

 俺たちは、いつの間にか坂道を進み、建物の二階へと上がっていたのだ。そこから、防災訓練のように急降下する。



「おっ、帰ってきたぞ」
 出口には、見計らったように誠太郎が。

「おかえりー」
 アンズ会長もいる。


「二人さ、すっかり仲良しになったみたいで」

「へっ?」
 気がつくと、俺の腕はクルミをガッチリとホールドしていた。

 クルミも同様に、俺の腰に手を回している。
「あわわ!」

「すまん!」
 俺はとっさに手を放す。

「でもさ、一時はどうなるかと思ったよ。二人に気を使わせちゃったかなーって」
「いや、そんなことはねーよ」
「いっそ、付き合っちゃえば?」

 無邪気に首をかしげながら、アンズ会長は俺たちに語りかける。

 カミングアウトの場面としては、ナイスなタイミングだ。
 
 だが、クルミが俺と付き合っていると分かったら、アンズ会長の環境が変わってしまうのでは。
 家に気を使って、誠太郎と付き合えなくなるとか。
 アンズ会長なら、家より自分を優先しそうだが。


「まあ、もういいじゃんアンズさん」
「誠ちゃん?」

 誠太郎がアンズ会長の背中を押して、俺たちの道を作る。

 クルミと俺は、何事もなかったように立ち上がった。

「お、もういい時間だな」

 時刻は、四時を回っている。もうそろそろ、帰り支度をしないと。
「今日は楽しかったな、リクト」
「おう。また来ようぜ」

 すっかり帰宅ムードだった俺たちに、アンズ会長が待ったをかける。

「待って! 最後、門限過ぎてもいいから、最後に一つだけ!」
「どうしたの? そんなこだわりの乗り物ってあったっけ?」
「アレに乗りたい!」

 観覧車を指差して、アンズ会長が駄々をこねた。

「そうだったな。あの観覧車、この街で一番でかいんだっけ」
「最強のデートスポットなんだっけ」

 俺たちが話し込んでいる横で、アンズ会長がコクコクとうなずいている。

「乗りましょう!」
「でも、時間やばいよ」

「夕焼けがみたいの! みんなで!」

 たしか、この遊園地は夕焼けに染まる街が一望できるって有名なんだっけ。

「クルミもどう? 席は、離れ離れになっちゃうけど」

「いいですね。行きましょう」
 会長の言葉に、クルミも承諾する。
 
「先輩」と、クルミが不敵な笑みを浮かべてきた。
「まさか、高いトコロが苦手とか、言わないッスよね?」
 デヘヘとニヤケながら、耳打ちしてくる。

「ああ。俺、高いところは平気なんだよ」
 高身長のせいか、あまり怖くない。
 オバケ・幽霊などの超常が怖いのだ。

「先輩も、問題ないそうです。参りましょう」
 
 なんで、クルミが仕切っているんだろう?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

処理中です...