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1-3 レアを作って、殴りに行きます
報酬は、バケツプリン
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「毎回、世話になるな。グレース」
「いいって。あんたが仕入れてきてくれる卵やハチミツ、大人気よ」
「そうか。俺は役に立っているんだな」
「何を言ってんのさ? あんたは人が思っているほど、お荷物じゃないわよ!」
また、グレースに背中を叩かれた。
「あなたは、兄のクリムとどういう関係? 兄貴はランバートと違ってモテてたから、女性には不自由していなかったけれど」
「いえ。会ったこともありません。名前もお顔も、さっきブティックに飾ってあった写真でお見かけしただけで」
「そうなんだ。じゃあ完璧ランバート大本命ってわけだ。やるじゃないランバート!」
またグレースが、俺の背中をバチンと叩く。
「そういうんじゃないから! さっさとオーダー頼むよ」
「あいよ。じゃあ、ダンナが呼んでるから行くね!」
グレースが、厨房へと引っ込もうとした。
「待ってください! 今、旦那さまと?」
「ああ。アタシ、シェフと結婚しているの。二〇歳差婚よ。エアハートは旧姓なの」
アゴが外れるのではないかと、サピィは口を開く。
「騒々しくてすまない」
「いえいえ。若くて元気な方で」
「あいつの母親は、おしとやかなんだけどな」
俺は背中をさする。
「どんな方なんです?」
「アイレーナギルド食堂のコックだった。今は引退して、ここで療養しているらしい」
この店に、資金も提供したそうだ。
「まあ。立派な方なんですね」
「もっとも、本人はまだまだと言っているが」
俺とクリムは、母親同士の仲がいい縁で親しかった。
手に職を持てば、もっと息子に楽をさせられると、小さな店から初めて料理人として腕を認められていく。
「それにしても結婚って。まだ一〇代ですよね」
「グレースは、一九歳だ。ここのシェフが、当時バイトだったグレースをもらってくれてな」
パティシエとしての訓練をしている中で、深い関係になっていったのだとか。
「なんだか、犯罪の臭いがします」
「惚れたのはグレースの方だ。いいじゃないか」
結婚生活は、想像していたのと違ったらしい。だが、幸せなのは見ていてわかる。
昼食が運ばれてきた。海鮮のスープと、イッカクウサギのステーキである。
「グレースは母親に憧れて、ずっとパティシエを目指していた」
パティシエはセレブ相手だ。ハードルは高いが、一度認められればずっと食べていける。兄の手に頼らずとも。
クリムは妹の夢を叶えるために、レアを集めていたのだ。
ハンターは、一攫千金を狙える。
手堅い仕事では、稼ぐのに何年かかるか。それだけの金額を一日で手に入れることも、ハンターなら夢ではない。
クリムは金のほとんどを、妹への学費として送っていた。
「おまたせ!」
デザートの時間となる。逆さになったバケツが載った皿を、グレースがテーブルに置いた。
「当店自慢のバケツプリンよ」
バケツサイズの型を抜くと、中身のプリンがプルルンと波打つ。
「待ってくれ。いつもより大きい!」
「デート仕様よ! 二人で食べなさい」
固まる俺に対し、サピィは「いただきましょう」とスプーンを取った。自身に、一口めを運ぶ。
「おいしいです! カラメルがないのにこんなに甘い!」
「でしょ? コカトリスの卵って、毒抜きすると甘くなるの」
「それで、ランバートに頼んだんですね?」
「そうなのよ。ランバート、甘いものが好きだから。兄のクリムなんて、匂いを嗅ぐのも苦手だったけれど」
兄を話題に出すと、グレースは申し訳無さそうな顔になった。
「ごめんなさい、ランバート。ウチのバカ兄貴があんたを追い出すなんて」
「いや、効率を考えたら仕方ない」
「まったく、クソ兄貴ったら。いったい、どこをほっつき歩いているんだか」
窓の向こうを眺めながら、グレースは苦笑する。
「大変ではないですか? こんな時代に、スイーツのお店なんて」
「こんな時代だからよ」
異界から魔物が現れて、数百年が経つ。魔物を倒してお宝を得ることで、ハンターは潤い国は発展していった。
しかし、その恩恵が平民にまで行き渡っているかはわからない。
クリムたちの母は、そのことをずっと憂いていた。
貧しい時代から料理の腕を鍛え、認められるまでに至る。
俺を養うためでもあっただろう。自分の子供の面倒だってあるのに。
「グレースは、料理人だった母親に代わって、家事をこなしていた。彼女の料理を食べて、俺は甘い物好きになったんだ」
ある意味、グレースはおばさんの遺伝子を受け継いだといえる。
俺とクリムは早々とハンターという道を選び、グレースも外へ働きに行った。世話になったおばさんに恩返しをするため。
「それにしても、あんた。彼女連れだなんて、わたし聞いてないんだけど?」
「あ、いや。この人は彼女とか、そういうのでは」
「ただの知り合いってわけ? そんな子が、男の前でおめかしなんてするわけないじゃん!」
お盆を抱きしめながら、グレースが反論する。
「ねえねえ、どこまでいったの?」
「裸を見られました」
「うっひょーっ!」
両頬に手を添えながら、グレースは奇声を発した。
「あっ、また夫が呼んでるわ。じゃあごゆっくり」
これ以上長居をすると、色々と詮索されかねない。コーヒーをいただいて退散するか。
「ごほごほ!」
突然、二階から咳き込む声が聞こえてくる。
「いいって。あんたが仕入れてきてくれる卵やハチミツ、大人気よ」
「そうか。俺は役に立っているんだな」
「何を言ってんのさ? あんたは人が思っているほど、お荷物じゃないわよ!」
また、グレースに背中を叩かれた。
「あなたは、兄のクリムとどういう関係? 兄貴はランバートと違ってモテてたから、女性には不自由していなかったけれど」
「いえ。会ったこともありません。名前もお顔も、さっきブティックに飾ってあった写真でお見かけしただけで」
「そうなんだ。じゃあ完璧ランバート大本命ってわけだ。やるじゃないランバート!」
またグレースが、俺の背中をバチンと叩く。
「そういうんじゃないから! さっさとオーダー頼むよ」
「あいよ。じゃあ、ダンナが呼んでるから行くね!」
グレースが、厨房へと引っ込もうとした。
「待ってください! 今、旦那さまと?」
「ああ。アタシ、シェフと結婚しているの。二〇歳差婚よ。エアハートは旧姓なの」
アゴが外れるのではないかと、サピィは口を開く。
「騒々しくてすまない」
「いえいえ。若くて元気な方で」
「あいつの母親は、おしとやかなんだけどな」
俺は背中をさする。
「どんな方なんです?」
「アイレーナギルド食堂のコックだった。今は引退して、ここで療養しているらしい」
この店に、資金も提供したそうだ。
「まあ。立派な方なんですね」
「もっとも、本人はまだまだと言っているが」
俺とクリムは、母親同士の仲がいい縁で親しかった。
手に職を持てば、もっと息子に楽をさせられると、小さな店から初めて料理人として腕を認められていく。
「それにしても結婚って。まだ一〇代ですよね」
「グレースは、一九歳だ。ここのシェフが、当時バイトだったグレースをもらってくれてな」
パティシエとしての訓練をしている中で、深い関係になっていったのだとか。
「なんだか、犯罪の臭いがします」
「惚れたのはグレースの方だ。いいじゃないか」
結婚生活は、想像していたのと違ったらしい。だが、幸せなのは見ていてわかる。
昼食が運ばれてきた。海鮮のスープと、イッカクウサギのステーキである。
「グレースは母親に憧れて、ずっとパティシエを目指していた」
パティシエはセレブ相手だ。ハードルは高いが、一度認められればずっと食べていける。兄の手に頼らずとも。
クリムは妹の夢を叶えるために、レアを集めていたのだ。
ハンターは、一攫千金を狙える。
手堅い仕事では、稼ぐのに何年かかるか。それだけの金額を一日で手に入れることも、ハンターなら夢ではない。
クリムは金のほとんどを、妹への学費として送っていた。
「おまたせ!」
デザートの時間となる。逆さになったバケツが載った皿を、グレースがテーブルに置いた。
「当店自慢のバケツプリンよ」
バケツサイズの型を抜くと、中身のプリンがプルルンと波打つ。
「待ってくれ。いつもより大きい!」
「デート仕様よ! 二人で食べなさい」
固まる俺に対し、サピィは「いただきましょう」とスプーンを取った。自身に、一口めを運ぶ。
「おいしいです! カラメルがないのにこんなに甘い!」
「でしょ? コカトリスの卵って、毒抜きすると甘くなるの」
「それで、ランバートに頼んだんですね?」
「そうなのよ。ランバート、甘いものが好きだから。兄のクリムなんて、匂いを嗅ぐのも苦手だったけれど」
兄を話題に出すと、グレースは申し訳無さそうな顔になった。
「ごめんなさい、ランバート。ウチのバカ兄貴があんたを追い出すなんて」
「いや、効率を考えたら仕方ない」
「まったく、クソ兄貴ったら。いったい、どこをほっつき歩いているんだか」
窓の向こうを眺めながら、グレースは苦笑する。
「大変ではないですか? こんな時代に、スイーツのお店なんて」
「こんな時代だからよ」
異界から魔物が現れて、数百年が経つ。魔物を倒してお宝を得ることで、ハンターは潤い国は発展していった。
しかし、その恩恵が平民にまで行き渡っているかはわからない。
クリムたちの母は、そのことをずっと憂いていた。
貧しい時代から料理の腕を鍛え、認められるまでに至る。
俺を養うためでもあっただろう。自分の子供の面倒だってあるのに。
「グレースは、料理人だった母親に代わって、家事をこなしていた。彼女の料理を食べて、俺は甘い物好きになったんだ」
ある意味、グレースはおばさんの遺伝子を受け継いだといえる。
俺とクリムは早々とハンターという道を選び、グレースも外へ働きに行った。世話になったおばさんに恩返しをするため。
「それにしても、あんた。彼女連れだなんて、わたし聞いてないんだけど?」
「あ、いや。この人は彼女とか、そういうのでは」
「ただの知り合いってわけ? そんな子が、男の前でおめかしなんてするわけないじゃん!」
お盆を抱きしめながら、グレースが反論する。
「ねえねえ、どこまでいったの?」
「裸を見られました」
「うっひょーっ!」
両頬に手を添えながら、グレースは奇声を発した。
「あっ、また夫が呼んでるわ。じゃあごゆっくり」
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