レアドロップしない男、魔法付与装備を生成できる女スライム魔王に溺愛されて、【レアアイテムを破壊する男】として覚醒!

椎名 富比路

文字の大きさ
141 / 230
第三部 災厄の塔に棲む堕天使 3-1 塔を支配した堕天使を、殴りに行きます

ヒューコの塔

しおりを挟む
 ヒューコが誇る最難関ダンジョンの中で、俺は猛然と刀を振り回す。

 敵は、ダンジョン内を埋め尽くすコボルドやミノタウロスだ。
 普段ならどうとでもなる敵である。が、このダンジョン内ではあんなザコでさえ油断できない。

「おらああああ!」

 俺は群がる魔物を蹴散らしていく。

 それにしても、ヒューコ名物【災厄の塔】は相変わらずだ。

 塔と言っても、内部はカオス極まる。下階は森となっていて、鉄骨などのガレキがひしめく建造物だ。

 魔物の数が多く、力も強い。

 他所のダンジョンでボスとして君臨するミノタウロスなどが、普通に森を歩いていたりするのだ。

 この建物は魔界と近い。魔物も本来の姿や力を、取り戻しつつあるのだろう。

 見た目はただの高層ホテルだ。しかし、その本性は魔窟である。
 一階にこそ、ヒューコのハンターギルドやショップが並ぶ。
 上の階以降は、すべて魔物のはびこるフロアだ。

「サムライとしての戦い方やスキルを覚える、絶好の相手だな!」
「ですね、ランバート!」

 俺はあえて魔法を使わず、フィーンド・ジュエルの装備にも頼らない。
 自身の身体能力だけで、ミノタウロスと対峙する。

「おらあ!」

 頼りないながらも、深くミノタウロスのノドへ切り込んだ。

 しかし、浅い。ミノタウロスは、まったく意に介さなかった。

 反撃の斧が振り下ろされる。オーガの数倍はあろう腕で、巨大な斧を俺に叩き込んできた。

「うおらあああ!」

 俺は、刀を水平に構えて、斧を防ぐ。

 コナツが作った打刀には、傷一つ付いていない。

 しかし、どれだけ武器が素晴らしくても、使い手が強くならなければ。

「いけません、ランバート!」

 サピィが、加勢しようとする。手に魔力を集め、火球を作り出す。

「ダメよサピィ。ヒューコに向かう前に決めたでしょ? 移動は、ランバートの特訓も兼ねるって」

 女君主ローデスのフェリシアが、サピィの手首を掴む。

 そう。俺は実戦のトレーニングを積んでいた。
 筋力をつけるため、前衛でも剣を振るえる反射神経を養うために。
 でなければ、ヒューコでも足を引っ張ってしまう。

 訓練も兼ねているのだ。ヒューコ現地で鍛錬していては、とても生き残れない。

「雑魚は任せておけ、ランバート! お前は、強くなれるぞ!」

 群がるコボルドをロッドで叩き伏せながら、ドワーフのトウコが俺を応援した。

「しかし、いくらなんでも初陣でミノタウロス相手なんて無茶です! もっと手頃な敵がいるでしょう!?」

 わかっている。しかも、コイツはミノタウロスでも亜種だ。
 なんらかのパワーを受けて、強化されている。
 ヒューコは特に魔物が強い。
 それも、ヒューコを長年悩ませているダンジョンのせいなのだが。

「こんな無茶でもしないと、この先誰にも勝てない!」

 俺は、自分の力不足を痛感している。

 せっかく最強クラスのジュエルを手に入れて、強くなったと思い込んでいた。
 しかし実際は、武器をコントロールできずにいる。
 もう一度戦闘要塞ヴァスキーを切り裂いた技を出せと言われても、できない。

 あのとき、俺はどうやってヴァスキーを倒した? サドラーの王女ヒルデが襲われたときに、ビルを溶かしたことだってある。

 無我夢中だったので、思い出せない。

 俺のどこに、そんなパワーがあるのか。

 あるいは、何から何までジュエルに頼り切っていたがゆえの副作用なのかもしれなかった。

 俺自身、どこまでやれるのか試す。

「そうではなくて、筋力に頼らないでくださいと言っているのです」

 どういうことだ? サムライなら、筋力は必要なはずだ。

「あなたもサムライなら、その力はどこから来ているかわかっているはずです。筋肉から繰り出されているわけではないと」
「筋肉だけが、すべてではないと?」
「ええ。力の弱いエルフだって、サムライになれるのです。あのジェンマも、力だけで剣を振り回しているわけではありませんでした」

 ジェンマ・ダミアーニは、サピィと友人だった魔王デーモンロードだ。
 呪われた装備「オミナス」にとらわれ、命を失ってしまったが。

「そうか。魔力を流し込んでもいいんだな?」
「いかにも。魔力で戦うのは恥ではありません。筋肉は、あくまでも魔力を送り込む補助です。ジュエルに頼らないのは結構。しかし、サムライの真髄は魔力にあります」

 なるほど。どうしてサムライが魔法使いを派生するのか、ようやくわかった気がする。

 そうとわかれば。

「おらっ!」

 全身の魔力をみなぎらせ、ミノタウロスを軽く弾き飛ばす。

 圧倒できると思っていたのか、ミノタウロスは俺の変貌ぶりに恐れをなしていた。

「本当の恐怖を味わうのは、これからだ」

 俺は、ミノタウロスに向けて殺気を放つ。

 脅威を感じたのだろう。ミノタウロスが斧で横一線を繰り出した。

 刀を片手だけで持って、俺は敵の斧を受け流す。そのまま上空へ跳躍し、ピタリと止まる。

「おらああ!」

 空気を蹴って、俺は魔物の真下に落下する。
 同時に、縦一文字でミノタウロスを切り捨てた。

 ジュエルを吐き出し、ミノタウロスは絶命する。

「お見事でした。ランバート。サムライのコツは掴めそうですね」
「ああ。ありがとうサピィ。キミの助言がなかったら、腕力をあげなければと躍起になっていた」
「いえ。あなたのポテンシャルは、我々魔族でさえ未知数です。人間かどうかすら、わたしには判別できませんよ」
「ウワサには聞いていましたが、これほどとは」

 ヒューコは、特に魔物との激戦区である。

 というのも、世界の崩壊はヒューコから始まったからだ。

 かつて、電力に変わる新たなエネルギーを求めて、人類は魔界の門を開いた。
 しかし、魔物の力を侮っていたため、文明がほぼ崩壊する。
 その始まりは、ヒューコなのだ。

 エルフの最高位「ソーマタージ・オブ・シトロン」は、世界中からガレキを集めて一晩で塔を建設した。
 自分のほぼすべての魔力を用いて。
 世界中に溢れた魔物の七〇%を、自作の塔へ押し込める。

 ヒューコに建設されたこの巨大タワーは、【災厄の塔】と呼ばれてハンターたちのトレーニング場となっていた。

「俺もガキの頃、友人のクリムと一緒に塔へ潜ったよ。そのときは、クリムの親父さんと一緒だった」

 俺がハンターとしてやっていけるのも、クリムの父親に育ててもらったからである。

 本来、こういう魔物たちを退治して世界を守るのが、俺たちハンターの仕事だ。

 しかし、多くのハンターたちはトレジャーハントに夢中である。そのせいで、都市機能は一部の地域を除いて今だ機能不全に陥っていた。

 ひどいハンターは、災厄の塔を根城にして自己の利益のみに動く野盗に成り果てている。

 現在はエルフ族の王、ルエ・ゾン・ウセが、ハンターたちを管理しているのだ。

「ルエ・ゾンに会うためには、力を認めてもらわないとな」

 ハンターギルドのリーダーであるルエ・ゾンは人と関わりを持とうと思わない。

 コナツの友人だと言っても、門前払いを食らった。偏屈だと聞いていたが、これまでとは。

「なんなのっ、あの親玉の態度! 見つけたら、ぶっとばしてやるわ!」
「落ち着け、フェリシア」
「よく落ち着いていられるわね!」

 フェリシアが、俺の腕を振りほどく。

「ランバートの強さは、あたしが一番よく知っているわ」
「わたしの方が、詳しいです」

 なぜか、サピィがフェリシアと競い出す。

「いいえ。サドラーだけではなくエルトリまで救う手助けをしてくれたのよ。あの剣を扱えるようになったら、もう無敵だわ」
「ええ。その前だって、わたしはジェンマの魂を救っていただきました。本当の敵にトドメまでさしてもらっています」
「ほらぁ。誰もランバートの強さを否定する人なんて、少なくともあたしたちの間にはいないわ」
「同感です」

 一触即発になりかけたが、どうにか収まったようである。 

「依頼をこなしたら、会ってやるといっていたじゃないか」
「えっと、『流通ルートを確保しろ』だったかしら?」

 ハンターギルドが手狭になったので、領地を拡大したいらしい。

 しかし、並のハンターたちでは手出しできないという。

「お待ちを、あちらに魔物以外の生体反応が」

 フォート族という機械の体を持つ老人、シーデーが、向こう側を指差す。

 一人のダークエルフが、モンスターに囲まれていた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...