レアドロップしない男、魔法付与装備を生成できる女スライム魔王に溺愛されて、【レアアイテムを破壊する男】として覚醒!

椎名 富比路

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3-2 このエルフは、思わず殴りたくなります

踊り子 ビョルン

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  鉄扇を両手に持って腰を捻っているのは、確実にビョルンだ。

「たしかに、ビョルンに似ているが」

 扇情的なダンスを披露しているのは、少女ではなく少年だった。

 少女のダンサーと同じ衣装だが、彼だけには前垂れがされている。引き締まった背中や突き出たヒップは、思春期の男子独特の特徴だ。

 ビョルンは恥じらうどころか、見られることにより自信に満ちていた。挑発的な視線を、客席に放つ。実に清々しい。

「ああ。顔を隠しているが、間違いない」

 踊り子が男子と知ってか知らずか、男性客たちは興奮している。

「あたし知ってるぞ。あれは『男の娘』というんだぞ」

 ピーナッツをポリポリと噛みながら、トウコは音楽のリズムに合わせて頭を振った。

 ビョルン以外の女性たちも、ビョルンにひけをとらずセクシーである。だが、ビョルンの醸し出す色気とは比較にもならない。

「エルフ独特の、魅力でしょうね」

 フェリシアは、ビョルンの魅力を冷静に分析した。

 他は人間や獣族だが、ビョルンはダークエルフである。エルフというだけで中性的であり、種族的な魅力に引き込まれてしまう。たとえ、同性だったとしても。

「特にダークエルフは、清楚なエルフより性的な魅力が高いの。男相手なのに堕ちちゃうのも、ムリないわ」

 ビョルンに色目を使っている男性客に、フェリシアは呆れる。

「おまたせしました。調査隊のものです」

 踊りが終わった頃に、数名のパーティが俺たちに近づいてきた。

 調査隊の合計は、二〇人前後だ。コネーホとルーオン以外のハンターは、二、三人というところか。他は全員が、ヒューコの兵隊で結成されていた。

「ヒューコの兵隊長エトムント・ガルデューンだ。エトムントと呼んでください。よろしく」

 三〇代くらいの男性が、先頭に立って俺に握手を求めてくる。

「ランバート・ペイジだ。こちらこそファーストネームでいい」

 俺も握手に応じた。

「お噂は聞いています。エルトリとサドラーを救った英雄だと」

 エトムントが、俺を称賛してくれる。

「そんな大層なものじゃない。運がよかっただけだ」
「しかし、民は感謝しているでしょう」

 これにビョルンが合わさって、災厄の塔を攻略すると。

「あんたも、敬語はいらんぞ」
「……自分はあなたの友人ではないが、いいか? 仲間の中でも、敬語の人がいたが?」
「構わんさ」

 サピィはあれが標準だ。

「失礼。子どもを連れているのか?」

 コネーホとルーオンに、エトムントは視線を向けた。

「相手は塔の侵略者だ。子どもを守るほどの余裕はない」
「子どもじゃねえ! オレはルーオン。リック・ロードストリングスのギルドメンバーだ。半人前だが、戦える!」

 エトムントの挑発を受けて、ルーオンが反論する。

「よしなさいよ」

 コネーホが、ルーオンをなだめた。

「ごめんなさい」
「いいんだ。こちらこそナメてかかって悪かった」

 エトムントとコネーホが、オトナな対応をする。エキサイトしているのは、ルーオンだけだ。

「ハネ返りは元気な証だ。装備もレアっぽいし、それなりに腕が立つのだろう。しかし、さっきも言ったが我々には他人を守る余裕はない。自分の身は、自分で守るんだ」
「言われなくたって!」

 また、ルーオンがヒートアップした。血の気が多い。

「おまたせ。どうだった、オイラのダンスは?」
「ブラボーだったっ。さすがヒューコで最高のダンサーってだけあるね!」

 コネーホが、パチパチと手を叩く。

 ルーオンは相変わらず、仏頂面のままだ。コミュニケーションが取りづらい。

「だろぉ? みんなオイラに釘付けよ。男だろうと女だろうと関係ないのさ」

 汗を拭いながら、ビョルンが人のウイスキーロックを一気にあおった。

「おい、それはオレのだぜ」

 兵士が注文した酒だったようだ。

「カタいこと言うなって。ちょいと、このヤロウにさっきと同じもの。それと、プンスカしてっから横についてあげて」

 特にビョルンは、悪びれることもしない。酒を頼んで、女中に怒らせた兵隊の相手まで頼んだ。ちゃっかりしている。

「全員揃ったな。さっそく塔の攻略へ行くか?」
「まだです。今日はもう遅いですし。一番休まないといけないのは、あなたです。ランバート」

 今日は、顔見世だけにしようと、サピィは提案した。

 俺としては、ダメージを負った感覚はないんだが。

黒曜顎コクヨウガクでしたか。あのオブシダンの刀は、想像を絶する力を持っています。今のあなたが扱えば、たちまち命を削られます」

 あの刀は強いが、その分こちらの魔力を根こそぎ奪う。それは感じている。

「そうだな。肝に銘じよう」
「では、なにか食べましょう。せっかくですし」

 サピィが、軽めの食事を注文してくれた。

「みなさんも、遠慮せずにどうぞ」
「ありがたい。こちらのパーティがごちそうしてくださるそうだ。ありがとう、お嬢さん。この埋め合わせは、必ず」
「いえいえ。お気になさらず」

 騎士団は、酒やつまみばかりを頼んだ。サピィに礼を言い、全員で盃を交わす。

 エトムントはルーオンたちのメニューを見て、微笑む。まだ子どもっぽさが抜けていないと悟っているらしい。

「パスタとオムライスと、ポテサラか。まだまだ幼……」

 だが、俺とサピィもまったく同じメニューを頼んでいる。しかも、俺たちはプリンまでついていた。

「ここのポテサラはうまい。信用できる」
「コホン、そうだな」

 大げさに、エトムントは咳払いをする。考えを改めたらしい。

「何だよランバート、プリン食うの? 子どもっぽいな。バーに来たんだから、酒を飲めばいいのに」

 自分のことを棚に上げ、ルーオンは俺をからかう。コーヒーゼリーなのが、彼にとっての大人なデザートなのだろう。

「俺は飲めないんだ。それにここのプリンは、カラメルにブランデーを使っている。オトナっぽくて上品な味だぞ」

 解説してやると、ルーオンが生ツバを飲む。「オレもプリン!」と、店員を呼んだ。

 俺とエトムントで、情報を交換し合う。

「単身で、パワーアップしたリカオンを退けるとは。そのレベルがあったとしても、一人で仕留めるのは困難だぞ」
「一歩間違えたら、危なかった。サピィたち信頼できる仲間がいなければ、ムチャはできなかった」
「我々は、足手まといになるかもしれん」

 うつむきながら、エトムントはチビチビと酒を飲む。

「とんでもない。同行に感謝する。ハンターでもトレハン勢なら、断られているところだ」
「ああ。あんたのウワサは知っているよ。だから、騎士団に声がかかったのだろう」

 俺がいると、レアアイテムを落とさない。そのため俺は、トレハン目的のハンターからは煙たがられているのだ。

「そのジュエルという宝玉を使った装備、頼もしいな」
「レアドロップしない俺の、命綱だ。サピィがいるからこそ、俺はここまで来られたのだ」
「私も、生涯のパートナーを見つけたいものだ」
「お、俺とサピィは、そんなんじゃ」

 熱くなった頬を冷やすため、俺は冷水を一気に飲み干す。

「ハハ、冗談だ。しかし、大事にしたほうがいい」
「だな」

 ホントにサピィには感謝している。

「では、ランバート、聞きたいことがあったら話そう」
「塔に関して、なにか情報はないか?」
「上階に、『ラムブレヒト』っていう、やたら強い騎士がいるんだよな」

 エトムントの背後にいた兵隊が、発言した。

 目撃情報によると、プラチナでできた騎士が、上への行く手を遮っているという。
 大剣と全身ヨロイという古典的な出で立ちなのに、誰も寄せ付けないとか。
 その騎士は、ドラゴンにも勝ったという。

「彼のせいで、我々は足止めをくらっています。近代兵器も通じず、どうしたものかわからん」
 
 とにかく、ラムブレヒトには注意しろとのことだ。
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