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第一章 竜胆の騎士:ジェンシャン・ナイト

第5話 嫁ゲット

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「悪い。大丈夫か?」
「はい。なんとか」

 でも、ケガをしていてはいけない。オレは、レクシーを回復の泉に浸す。

「足元が見えないから、気をつけろ」

 両手を持ちながら、そっと泉の中へ。

「ありがとうございます」

 レクシーは、落ち着いたようだ。さっきまで泣きはらしていたらしい。腫れた目元が、泉の力で回復していく。

「どうして、こんなところに?」
「お背中を流して差し上げようと」
「長老の、じいさんの指示か?」

 レクシーは、首をブンブン振った。

「私からの感謝の印です」
「なにも、こんなことをしなくても」
「ハダカに慣れておきたいんです! お互いの!」

 どうやら、結婚話はマジみたいだな。

 相手は乗り気だ。それを断るとなっては。

「じゃあ、お願いします」
「はい。喜んで」

 背中を流すと言っても、回復の泉自体に石けんの機能がある。タオルで軽く拭う程度に過ぎない。それでも、レクシーの手付きにオレはゾクゾクした。

「何をビビってるんだい? 相手はキミと一緒になるのを、むしろOKしているよ?」
「多分、見た目からだ」

 幼女っぽいから、どうしても足踏みしてしまう。

「心配ないよ。彼女は一八歳だ。従来なら、行き遅れているくらいさ」

 そうなのか?

「はい。治癒・補助魔法の修練などに没頭してしまって、気がつけば婚期を逃していました。アカデミーでは、色々と私を狙っている男子生徒がいたようですが」

 何ひとつ青春らしい日々を送ろうとせず、レクシー女史はひたすら研究に没頭していた。

「なんでまた?」
竜胆の魔女ソーマタージ・オブ・ジェンシャンのは、私の憧れなのです。女性ながら社会進出して、数々の偉業を成し遂げました。魔族の侵攻をこれまで食い止められているのも、魔女様のおかげなのです」

 なるほどね。こいつは、人々の役に立っていたと。

「でも、魔女様はお亡くなりになり、我々の希望は途絶えました。それで魔族は息を吹き返し、私の両親は……」

 タオルでオレの背中を拭う手が、止まった。

「辛いな」
「でも、あなたがいます」

 オレは、レクシーの手をつかむ。

「じゃあ、ワタシは席を外すよ。素材から、武器の構築をしておく」
「頼む」

 ニョンゴが消えていった。

 照れくさいから見ていてくれ、なんて言わない。ちゃんと、レクシーに向き合わないと。

「あの、け――」
「結婚してください」

 オレの方から、前を向いてプロポーズをする。前をむくのは照れくさかったが、そうも言ってられない。

「え? ホントに?」

 自分から告げようとしたのだろう。レクシーが戸惑っている。

「ホントだ。一緒になろう、レクシーちゃん。あんたさえよかったらだけど。繁殖のためとか、そう言う事務的な結婚じゃなく。もっと夫婦らしいことを、たくさんしようぜ。楽しいぞ、きっと」

 思えば、この子は家族を失ったばかりだ。祖父である長老がいると言えど、寂しい思いをしているに違いない。支えが必要だろう。

「ありがとうございます。ありが、とう」

 レクシーが、オレの胸で泣き崩れる。
 こうしてオレは、元の世界で築けなかった家庭をもつことになった。 



 泉から上がって、二人で着替える。

 長老に連れられて、里の冒険者ギルドへ。

「忙しい所、すまん。この方の冒険者登録を」
「かしこまりました」

 受付嬢のポニテ女子エルフによって、冒険者カードが作られる。

「名前はモモチで登録。二つ名なんて項目があるのか」

 二つ名とは、「世間でどう呼ばれたいか」を書いておく項目だ。オレのように、匿名で活動したいヤツラは、二つ名を相手に呼ばせるんだとか。

「こっちは……シェリダンの方にしておくか」

 職業は、騎士として登録した。親しい人とだけ、モモチと名乗ろう。身を隠すため、フルフェイスのヨロイは常に身につけておくか。

 冒険者登録すればステータスがセーブされる、ってわけじゃない。ただ、こういうのは気持ちの問題だ。異世界に来たら、冒険者登録しないとね。

「配偶者名、配偶者……」

 うーん、手が震える。わかっていても、緊張するもんだな。

「さっさと書けよっ、モモチ」
「でもなあ……あ」

 業を煮やしたのか、レクシーがオレから用紙をぶんどった。さささっと、自分の名前を記入する。

「シェリダンことモモチ様と、奥様のレクシー様ですね。承りました。おめでとうございます」
「ど、どどどどうも」

 受付の人に歓迎されて、レクシーはどもった。

 さっきは勇ましかったのに、レクシーはすぐに縮こまっている。どっちが本当のキミなんだ?

「あっそうか。結婚したんだから、先に役所へ行かなきゃ」
「大丈夫ですよ。こちらでは、住民登録の手続きも兼ねていますから」

 受付さんが、そう教えてくれる。

 なるほど。ならとっと書いて正解だったのか。

「あと、街に出て必要なものを買いたい。とはいえ……」

 ここはもう、街としては機能していない。復興には時間がかかるだろう。

 ここより大きな街に出て、アイテム系を揃えようかと。こっちの武器・防具のデザインも見ておきたい。参考になればいいが。

「ですが街は、モンスターに襲われています」
「じゃあ、助けよう」

 休みなしだな。でもいいや。それくらいが、ちょうどいい。

 だが、その前に。

「えっと、レクシー。喪に服しておくか?」

 さすがに結婚していきなり新居へ、なんてわけにはいかない。

「両親を亡くしたんだ。お別れは伝えておいたほうが」

 新しい家族を招くんだから、部屋も片付けておきたかった。あの館は作業スペースばかりで、生活感もなかったし。

「ありがとうございます。では、葬儀だけさせてください。一日で済ませます」 
「わかった。日を改めて、迎えに行く」

 諸々の準備をするために、オレは魔女のラボへ一度帰ることにした。
 ついでに、森周辺のモンスターも蹴散らす。これで、少しは安心できるだろう。素材も手に入るし。
 あらかじめ、ギルドで初心者向け依頼も受けておいた。

「うーんと、薬草採取とハチ退治と、イノシシ撃退は……完了したな。これでランクアップと。

 申請なしでランクアップするシステムは、いいな。
 同時に、犯罪もすぐにバレるらしいが。

 ラボに帰還、っと!

「ニョンゴ、最適化は完了したか?」
「バッチリ! あとは、ビジュアルを決めるだけだ。それで、キミにとっておきのスキルを授けよう。さっき泉で席を外したとき、開発しておいた!」

 これからさらに強くなるってか? オーバーキルがすぎるぜ。

「その名も、ドドーン! 【フルモデルチェンジ】だ!」
「なんの機能があるんだ、それ?」
「アイテムのビジュアルを、キミの好きなように変更できるスキルだよっ!」

 そのスキルは、「アイテムを、オレの好きな見た目に変換できる」機能らしい。

「変わるのは見た目だけ! 性能はまったく変わらないから安心してね」

 物理法則で多少は軌道や操作性は変わるかもしれないが、基本的には元の数値を維持しているという。

 助かる。やはり見た目第一だからな。

 実際、オレはレクシーとの結婚をためらった。彼女はオレから見て、小学高学年くらいにしか見えない。やはり幼い見た目で、「YESロリ・NOタッチ」の精神が湧き上がってしまうのだ。

「ただし、アイテムだけだから、生きた人間とかの見た目は変えられないよ」
「わかった。ではさっそく、ヨロイの見た目を変えようじゃないか」
「そんなに、気に食わないんだね?」

 一生、着るものだからな。ビジュアルには、こだわりたいのだ。

 各素材を吟味しながら、ヨロイをヒロイックなパワードスーツへと仕上げていく。

「あと、武器も追加しておいたよ。近接武器だ」

 動物的デザインの武器が、ニョンゴの足元から降ってきた。

「刀か」

 握りが、ドラゴンの指でできている。爪を削って作ったのか。

「うーん、機能は実用的だな。仰々しい見た目もなかなかだが、今回は却下だ」

 これでは、悪者だしな。

「よし。他の素材を集めに街へ行くぞ!」
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