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第二章 猛将と、闇の博士

第14話 猛将ウェザーズ

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 王都に最も近く、最も親交の深い国家の城内に、猛将がいるという。
 そこまで、馬車を走らせる。

「猛将ウェザーズとは、何者なんだ?」

 後ろにいるフローレンスに、オレは運転しながら声をかけた。

 プロボクサー役か、宇宙からの捕食者にやられる役か。どちらにしても名俳優の名を関するなら、それなりの人物でないと。

「魔族の中でも、武闘派で通っている人物です。戦闘狂で、強い相手との戦いに目がありません」

 彼の振るう大剣は、山をも切り裂くという。

「人間相手じゃ、物足りないんじゃないのか?」
「はい。獣人族やエルフ、ドワーフなどと戦うのを好んでいますね。我が父も、それなりの使い手です。ジーンを鍛えたくらいですから」

 姫の側にいるジーンが、フローレンスに寄り添う。

「ライコネン卿は、我が師であると同時に憧れだった。私の父とも親しく、共にしのぎを削った仲だという。フローレンス様の騎士になれたことを、私は誇りに思っている。
「お互い、信頼しあっているんだな」

 城が見えてきた。もはや城の原型はとどめておらず、辺り一面に炎が上がっている。

 馬車を降りて、オレは状況を確認した。なんてこった、生存者がほとんどいない……。

「ニョンゴ、消火作業を頼む。オレは避難民の救助を!」
「あいよ!」

 オレの合図で、ニョンゴが馬車を解体した。ドローンへと変形させて、上空から氷魔法を散布する。

 炎は、みるみる消えていく。

 モンスターの素材を、片っ端からドローンにしたのがよかった。

「ジーンは現地の騎士たちとともに、周辺魔物の排除を!」

 フローレンス姫はけが人の救助をして、ジーンはそこらじゅうにいる魔物たちを撃退していく。

「二人は、ここを頼む。オレは強めの魔物の排除と、人名救助を」
「わかりました」

 飛んで生体反応を調査して、オレは生存者を助け続けた。助かったのは七割である。三割は、間に合わなかった。

 死体を食おうとした魔物たちを、今度はオレが死体にする。

「幻滅しているね」

 オレの気持ちを察してか、ニョンゴが語りかけてきた。

「ヒーローってのは、こんな精神状態で戦っていたんだな」

 もう、おかしくなりそうになる。もっと救えると思っていた。もっと平和にできるとも。

 しかし、実際はどうだ?

 オレ自身は、理想通りに戦える。理想通りのビジュアル、理想通りのヒーローになりつつあった。

 予想外と言えば、理想以上の奥さんが手に入ったことだが。

 けど、実際の戦場は悲惨なものだった。とてつもないリアルで、オレの理想を踏みにじる。

 あらかた片付いた後、オレは広場に人が集まっているのを見た。

「あれは……決闘か」

 人間の騎士と、赤い肌の魔族が向かい合っている。

 あの魔族が、ウェザーズとかいうヤツか。髪がボサボサの白髪で、ヒザまで伸びている。まるで歌舞伎の登場人物だ。肩に、分厚い剣を担ぐ。あのデカイ剣はなんだ? サーフボードくらい大きい。

 観衆が見守る中、騎士は民の声援に応えるかのように魔族と向かい合う。騎士は手に、槍を握っている。目元がフローレンスとよく似ていた。彼が、ライコネン卿だろう。

「ん、客か?」

 赤い肌の男が、こちらに気づく。

「申し上げます。あの男が例の」
「よい。見ればわかる。すばらしい働きぶりだ」

 配下がオレについての報告を、ウェザーズは止めた。

「見ていくがよい。これが、ワシの戦い方だ!」

 ウェザーズが、剣を振り下ろした。サーフボードくらい大きな剣を、片手で。自分の前に、線を引く。

「この線からワシを出せたら、お前の勝ちにしよう」

 余裕の顔で、ウェザーズは線の前に立った。

「ヨロイの御仁よ、逃げろ! この地を頼む!」

 ライコネン卿が、無謀な挑戦を受ける。槍を持って、ウェザーズに突進していった。

 だが、槍はウェザーズのみぞおちに跳ね返されてしまう。

 真っ二つに折れた槍を、ライコネン卿は投げ捨てた。そのままウェザーズに組み付く。

 しかし、どう力を入れてもウェサーズを動かすことはできない。

「く、くう!」
「ムダである。相手を投げ飛ばすというのは、こういうことをいうのだ!」

 ウェザーズは、ライコネンを片手で持ち上げた。ブン、と空高く投げ飛ばす。

「うおおおおお!」
「そのまま、王都まで飛ぶがよい! トマトのように潰れたそなたの肉体が、侵攻の狼煙となろう!」

 オレは、空高く飛んだ。ライコネンを抱きとめる。

「うう、あなたは?」
竜胆の騎士ジェンシャン・ナイトのシェリダンだ。フローレンス姫に呼ばれて、あんたらを助けに来た」
「ありがたい。だが、娘を連れて逃げよ。いくらあなたでも」
「心配には及ばない。とにかく、あんたは娘さんのところへ」

 フローレンスの元へと急いだ。ライコネンと合流させる。

「お父様!」
「ああフローレンス! もう会えないと思っていた!」

 後は、この二人に任せよう。

「ジーン、二人を頼む」
「お前、まさか」
「当たり前じゃん。ウェザーズをぶっ潰しに行く」
「おい!」

 ジーンが止めるのも聞かず、オレはウェザーズの待つ決闘場へ。

「待たせたな」

 間合いがゼロの状態で、オレはウェザーズの前に降り立つ。

「貴様! 猛将の真ん前に立つなど無礼な!」

 配下の魔族たちが、騒ぎ立てる。

 だが、ウェザーズはひと睨みしただけで、その口を閉じさせた。

「無礼は承知の上だろう。その度胸、面白いぞ。だが、わが余興を邪魔するとは。それにこの間合い、死にたいと見える」
「悪かったよ。その代わり、オレが遊んでやる」

 また、魔族たちがハッスルし始める。オレをあざ笑い、猛将を祭り上げた。

 猛将は、配下たちに火炎魔法を浴びせる。魔族たちを、「物理的に」黙らせた。

「よろしい。ただし、フローレンス姫はワシのものだ。これは、覆らぬ」
「それでいいよ」

 さっきまで笑みを浮かべていた男が、真顔になる。

「シェリダン、お前というやつは!?」

 駆けつけたジーンが、オレを怒鳴った。

 まあ、見ていなさいよっての。

「正気か? 姫がほしくば自分を倒せってわけじゃないんだな?」
「今ので勝負は完全についた。残念ながら、姫はあんたのものだろう。だったら話が早い。オレがもう一度、お前さんから姫を取り戻せばいいだけだ。線から出たら、姫さんは返してもらうぜ」
「……面白い! その勝負受けて立とう!」

 再び、ウェザーズの口元が上がった。

「たしかにお主からは、その自信を裏付けるだけの魔力を感じる。来い! いつでも相手になろうぞ!」

 ウェザーズが、臨戦態勢に入る。

 だが、オレは構えない。

「もう、決着は付いてるぜ」
「なんだと? 挑発しながら、その態度は何だ?」
「自分の足元をよく見てみな」
「足……!?」

 ウェザーズの足が、線を越えていた。

「てめえ、日和ってんじゃねえかよ」
「バカな! このワシが、こいつを恐れているだと!? このワシが、恐怖を」
「あれだけ大口叩いておいて、ビビって逃げ出すとはな。頭で抑え込もうとしても、本能ってのはどうしても反応してしまうんだ」
「くっ!」

 ウェザーズが、サーフボード大の大剣を振り上げた。

「フン!」

 オレは、刀で受け止める。

「な、なに? そんなか細い剣で、ワシの剣を受けただと?」
「力の角度がわかっていたら、こんな芸当もできるのさ」

 バチイン! と、オレはウェザーズの大剣を弾き飛ばす。

「貴様……」
「わざわざ、『苦手な戦場で舐めプ』しても仕方ねえだろうが。本気でやってやる。だから、お前も本気で来い」
「どうして、それを?」
「お前の剣は、斬馬刀に近い。振り下ろしたり振り上げたりするには、デカすぎるんだよ。自由自在に使うには、地上というアドバンテージを削ぐ必要がある」

 オレは、上空へと戦いの場を移した。

「つまり、お前さんのフィールドは空なんだだろ? 来いよ」
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