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第二章 猛将と、闇の博士

第19話 閑話 デバガメのタキ

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 タキは、ライコネンにあるという、竜胆の騎士ジェンシャン・ナイト シェリダンのアジトを突き止めた。魔族側の情報網をもってすれば、たやすい。

 今は、家の近くにある植木に上って、観察をしているところである。

「あ、ええ匂いさしとるなあ」

 腹の虫が鳴った。
 彼らは食後の入浴をしているところだが、こちらはまだ何も食べていない。

 観察しながら、腕輪を弄ぶ。

「ノゾキとは感心しないね、タキくんとやら」

 トンボの羽根が付いたピンポン玉に、捕捉された。
 偵察ドローンとは。用意周到なやつだ。相手にとって不足はない。
 それにしても、電気のない世界でどうやって動かしているのか。

「ワシを攻撃するんか?」
「まさか。忠告するだけだよ。今はあの二人を、そっとしてやってほしいんだ。キミなら、わかってもらえると思うんだけど」
「せやな。今のモモチは、死ぬ気で戦った後やから腑抜けとる。それくらいわかるで」

 今のやつには、休息が必要だろう。気力体力共に充実してから、勝負すべきだ。

 それに、こちらの準備もまだまだである。

「こちらはキミに、ウェザーズの武器も死体も取られている。キミだって、ワタシたちの戦闘データを回収しただろう」
「たしかにな。十分すぎるくらいの資料が手に入ったで。ワシが特に気になっとるんは、あんたの存在や。竜胆の魔女ソーマタージ・オブ・ジェンシャン

 モモチの強さの秘密は、おそらく彼女をおいて他にない。

 現魔王であるジェラン・ミルドレッドに楯突くものの中で、最も力が強い相手とされていた。

 ジェランも、彼女との戦いを楽しみにしていたのを思い出す。

「キミのボスは、泣き虫ミルドレッドか。兵が懐かなくて苦労しているだろう」
「よう知っとるやないけ」
「あんなウソ泣きタヌキ、忘れることなんてできないさ」

 アイツは基本的には無害だが、狡猾だ。勝手に自分に楯突くヤツラが、内輪もめで死んでいく。タキも、そういう光景を見てきた。

「今のアイツほど、魔族世界の適任者はおらん」
「だろうね。とにかく今日は帰りなよ。キミだって、この戦況を乗り越える手立てはないだろう?」
「せやねん。見逃してもらうと助かる」

 タキは、ライコネンから立ち去る。

 
 帰り際、ライコネンに向かおうとする魔族の一団がいたので、タキは呼び止めた。

「どこへ行くんや?」
「どけ、タキ。今は貴様にかまっている暇がない」

 馬の顔をした魔族の一人が、代表して語る。黒い鎧に身を固め、ウェザーズに劣らぬ重武装だ。

「えらい、切羽詰まっとるやんけ。行き先は、ライコネンやな?」
「当然だろ。今のライコネンは手薄だ。王も、結界を制御するフローレンス姫も、厄介な女騎士ジーンもおらん。ジェンシャン・ナイトとやらは、家にこもっているそうじゃないか」

 馬面が、不敵な笑みを浮かべる。

「ウェザーズの敵討ちかいな?」
「違う。あんなパワハラ男など、死んで当然。これからは、我々の時代だ」

 たしかこいつらは、ウェザーズと覇権争いの真っ最中だったか。

 ちなみに、ウェザーズの配下で生き残ったものは全員、魔王側に寝返った。ウェザーズよ、どれだけ人望がなかったのか。

「二度目はないぞ、タキ。早くそこをどけ」
「あの男には、指一本触れさせへんで」

 今は一家団欒のときだ。そんな寝込みを襲うような真似をするってことは、彼らも結局ウェザーズと同類である。

 生きている価値などない。

「あんなおもろいおもちゃ、今を逃したら二度と手に入らんさかい」

 タキは、腕輪を作動させた。

 鉄製の包帯が、タキの周りを取り囲む。

「まずは、試作品のテストをさせてもらうで」

 鋼鉄の帯が、タキを縛り付けた。

「第一段階は、終了やな」
「なんのつもりだ? まさか、俺たちと戦うつもりか?」
「戦うんやない。虐殺するんや」

 魔族の馬面を、タキは魔力銃で粉砕する。

「ほう、出力はそれなりやないか」

 魔族の爆発した音が、合図となった。

 戦い……いや、虐殺の。

 一呼吸終えるまでもなく、魔族の群れは倒された。

「もっと将軍クラスとかが来んかい。ヌルいのお」
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