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第二章 猛将と、闇の博士
第18話 妻の優しさ
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「……追跡できない。完全に消えちゃったよ。どんな技術なんだ?」
偉大な魔女であるニョンゴでさえ、捕捉できないとは。
ニョンゴが知らない技術を、使っているのだろう。
「いいさ。必ず現れる。オレがいる限り」
あいつは、オレとの戦いを望んでいる。きっと再び、まみえることになるだろう。
被害に遭った街に戻る。
フローレンス王女が、王とともに治療兵を先導していた。救出されたばかりだというのに、兵隊たちの歓迎もそこそこに動く。自身も、民を励ましている。
オレは、姫に背を向けた。
「会っていかないのか? 姫はお前に、感謝の言葉を」
「いいんだ。オレなんかが行ったら、邪魔になってしまう」
ジーンが引き止めたが、オレは首を振る。
姫様は律儀だから、きっとお礼の言葉とかもくれるだろう。でも、彼女の優しさを一番必要としているのは、被害に遭った民衆だ。
「それより、手伝えることはあるか?」
「ない。それよりひど顔だ。治療を受けた方がいい」
「いいんだ。家でゆっくりするよ」
「大丈夫か、モモチ?」
心配そうに、ジーンがオレの顔を覗き込む。
「オレは大丈夫だ。みんなは?」
「無事だ。犠牲者は少ない」
「少ない、か」
「お前は、すごいよ。がんばってくれた。おかげで、これだけの被害で済んだんだ」
でも、被害は出たんだよな。
「そうだ。ライコネンの持っている物資で、オレが使えそうなものを見繕ってほしい」
「街を救ってくれた礼だ。いくらでも無償で提供しよう」
「いや、そうじゃない。金を出したいんだ」
街が少しでも、潤ってくれればいい。
「わかった。用意する」
「あと、この辺でうまそうなものを。女房が待ってる」
オレが言いづらそうにするのを、ジーンが笑う。
「別に照れなくてもいい。家族を大切にしている男は、すばらしい」
「ありがとう」
ライコネンの道具屋にて、鉄と魔法石を手に入れた。装備開発に使えそうな魔導書も、ニョンゴに記録させる。
感謝されるために動いたわけじゃない。
「あとは、我々でするから、ゆっくり休んでくれ」
「そうさせてもらう」
スーツのエネルギーも、残り少ない。オレにできることは、ないだろう。
「ただいま」
オレは、レクシーのもとへ帰ってきた。スーツを外して、くつろぐ。
「変えることだと思って、お食事を用意していました」
「いいね。一日、何も食べてないんだ」
ニョンゴは充電器のような台に乗って、じっとしている。
「お前さんも、充電が必要なのか?」
「これが、ワタシの食事だ。この端末にはね、君らの世界で言う『リアクター』ってのが必要なんだ」
「ああ、よく『魔力炉』とかいうもんな」
内蔵小型リアクターの調節、洗浄、安定化を兼ねている。
この炉を保管するために、家が必要だったのか。
「ウェザーズとの戦いは、課題が多かったね」
「そうだな。スーツと互角の奴がいるとは」
このスーツは、ザコを相手にすれば無敵に近い。しかし、パワーで押してくるタイプにはまだ力が足りない。持続性も気になる。
「ウェザーズの素材が、一切手に入らなかったのは痛いね」
「その分、データは大量に手に入ったろ?」
「うん。いい研究対象になったよ」
「オレの体感を話す。スーツはもっと出力多めで、強さより速さを重点に置きたい。武装には硬さより軽さが欲しい」
あんなバケモノタイプは、そんなに出てこないはずだ。強化したヴァージョンは、いざというときの切り札でいい。
「毎回、バカみたいな火力はいらないってわけだね?」
「そんな感じでいいと思う。あれで完成形でいいと、一旦は思ったんだが」
「じゃあ、次はドワーフの鍛冶屋にでも行ってみよう」
「いいね。次の行き先が決まった」
手を叩いたところで、レクシーが料理をテーブルに置く。
「グラタンか。うまそうだ。それと、これを」
「これは?」
「ジーンからもらった梨だ。デザートにって」
「まあ。今度お礼を言いに行きます」
「じゃあ食べようっ。うーん。うまい」
レクシーと一緒に、食卓を囲む。
家に奥さんと、あったかい食事がある。
オレは、これくらいの幸せが欲しかったんだな。
風呂に入って傷を癒やしていると、レクシーが入ってきた。
「お背中お流しします」
「お願いします」
毎回こうである。もう、オレも止めることはしない。
「傷だらけですね」
「すまんね。ダメ亭主で」
「いいえ。あなたの目元を拭うのが、わたしの務めですから」
「目なんてケガしてないぜ」
「でも、心は傷ついてる」
オレは、ハッとなった。
なにもかも、レクシーはお見通しなんだ。
「辛いことがあったのでしょう。あなたは毎回そうです。スーツで頼もしく活動していても、マスクの中は泣いている」
ゴシゴシという、背中を流す音だけが浴室に響く。
「ニョンゴから聞いたのか? そんなワケないよな」
「何も。わたしが個人的に、あなたのケアをしたいのです」
レクシーの温かい手が、オレの肩に触れた。
「どうか、わたしの前だけでは、重く冷たい仮面を脱いで。そうしないと、あなたは壊れてしまう」
「う、うう……」
オレはレクシーの手を握りながら、嗚咽を漏らす。
偉大な魔女であるニョンゴでさえ、捕捉できないとは。
ニョンゴが知らない技術を、使っているのだろう。
「いいさ。必ず現れる。オレがいる限り」
あいつは、オレとの戦いを望んでいる。きっと再び、まみえることになるだろう。
被害に遭った街に戻る。
フローレンス王女が、王とともに治療兵を先導していた。救出されたばかりだというのに、兵隊たちの歓迎もそこそこに動く。自身も、民を励ましている。
オレは、姫に背を向けた。
「会っていかないのか? 姫はお前に、感謝の言葉を」
「いいんだ。オレなんかが行ったら、邪魔になってしまう」
ジーンが引き止めたが、オレは首を振る。
姫様は律儀だから、きっとお礼の言葉とかもくれるだろう。でも、彼女の優しさを一番必要としているのは、被害に遭った民衆だ。
「それより、手伝えることはあるか?」
「ない。それよりひど顔だ。治療を受けた方がいい」
「いいんだ。家でゆっくりするよ」
「大丈夫か、モモチ?」
心配そうに、ジーンがオレの顔を覗き込む。
「オレは大丈夫だ。みんなは?」
「無事だ。犠牲者は少ない」
「少ない、か」
「お前は、すごいよ。がんばってくれた。おかげで、これだけの被害で済んだんだ」
でも、被害は出たんだよな。
「そうだ。ライコネンの持っている物資で、オレが使えそうなものを見繕ってほしい」
「街を救ってくれた礼だ。いくらでも無償で提供しよう」
「いや、そうじゃない。金を出したいんだ」
街が少しでも、潤ってくれればいい。
「わかった。用意する」
「あと、この辺でうまそうなものを。女房が待ってる」
オレが言いづらそうにするのを、ジーンが笑う。
「別に照れなくてもいい。家族を大切にしている男は、すばらしい」
「ありがとう」
ライコネンの道具屋にて、鉄と魔法石を手に入れた。装備開発に使えそうな魔導書も、ニョンゴに記録させる。
感謝されるために動いたわけじゃない。
「あとは、我々でするから、ゆっくり休んでくれ」
「そうさせてもらう」
スーツのエネルギーも、残り少ない。オレにできることは、ないだろう。
「ただいま」
オレは、レクシーのもとへ帰ってきた。スーツを外して、くつろぐ。
「変えることだと思って、お食事を用意していました」
「いいね。一日、何も食べてないんだ」
ニョンゴは充電器のような台に乗って、じっとしている。
「お前さんも、充電が必要なのか?」
「これが、ワタシの食事だ。この端末にはね、君らの世界で言う『リアクター』ってのが必要なんだ」
「ああ、よく『魔力炉』とかいうもんな」
内蔵小型リアクターの調節、洗浄、安定化を兼ねている。
この炉を保管するために、家が必要だったのか。
「ウェザーズとの戦いは、課題が多かったね」
「そうだな。スーツと互角の奴がいるとは」
このスーツは、ザコを相手にすれば無敵に近い。しかし、パワーで押してくるタイプにはまだ力が足りない。持続性も気になる。
「ウェザーズの素材が、一切手に入らなかったのは痛いね」
「その分、データは大量に手に入ったろ?」
「うん。いい研究対象になったよ」
「オレの体感を話す。スーツはもっと出力多めで、強さより速さを重点に置きたい。武装には硬さより軽さが欲しい」
あんなバケモノタイプは、そんなに出てこないはずだ。強化したヴァージョンは、いざというときの切り札でいい。
「毎回、バカみたいな火力はいらないってわけだね?」
「そんな感じでいいと思う。あれで完成形でいいと、一旦は思ったんだが」
「じゃあ、次はドワーフの鍛冶屋にでも行ってみよう」
「いいね。次の行き先が決まった」
手を叩いたところで、レクシーが料理をテーブルに置く。
「グラタンか。うまそうだ。それと、これを」
「これは?」
「ジーンからもらった梨だ。デザートにって」
「まあ。今度お礼を言いに行きます」
「じゃあ食べようっ。うーん。うまい」
レクシーと一緒に、食卓を囲む。
家に奥さんと、あったかい食事がある。
オレは、これくらいの幸せが欲しかったんだな。
風呂に入って傷を癒やしていると、レクシーが入ってきた。
「お背中お流しします」
「お願いします」
毎回こうである。もう、オレも止めることはしない。
「傷だらけですね」
「すまんね。ダメ亭主で」
「いいえ。あなたの目元を拭うのが、わたしの務めですから」
「目なんてケガしてないぜ」
「でも、心は傷ついてる」
オレは、ハッとなった。
なにもかも、レクシーはお見通しなんだ。
「辛いことがあったのでしょう。あなたは毎回そうです。スーツで頼もしく活動していても、マスクの中は泣いている」
ゴシゴシという、背中を流す音だけが浴室に響く。
「ニョンゴから聞いたのか? そんなワケないよな」
「何も。わたしが個人的に、あなたのケアをしたいのです」
レクシーの温かい手が、オレの肩に触れた。
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