そのモフモフ、メスガキにつき ―三十路DT魔術師、懐かないフェンリルに勝つため鍛えていたら無自覚最強に。ロリダークエルフの彼女までゲット―

椎名 富比路

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第一章 幼少期編 まだ主人公がションベン臭いガキだった頃の話

召喚士唖然! モフモフはメスガキだった!?

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 ウォールバーグ侯爵家の三男坊、ジョシュアは、誰からも期待されずに育った。

 兄二人は計画的に生まれ、計画的に育つ。成人した二人は、今や国を動かすほどだ。

 一方で、ジョシュアは両親が歳をとってからできた子である。具体的に言うと、酔った勢いで生まれた。父が母を、妾と間違えたのである。

 それでも、誰一人としてジョシュアを邪険にしなかった。おかげでジョシュアは、愛情深い子になる。

 一二歳の誕生日を迎えた今、その優しさが災いした。

「山火事だ!」

 屋敷の周辺を、火が覆い尽くす。森で一番の大木に雷が落ちて、森を炎が包んだ。

 熟練の魔道士である兄二人が、氷魔法で周囲の炎を消化している。しかし、まったく追いつかない。燃え広がるばかり。

「バラ園が!」

 母が大切にしていたバラの花園に、火の粉が燃え移る。

 父やメイドたちが必死になって、燃え広がるのを食い止めていた。

 家族が危ない。ジョシュアはひとり、屋敷の庭を抜けて外へ。

「どこへいく、ジョシュア!」

 両親が止めるのも聞かず、ジョシュアは術式を組む。

 ジョシュアは放任されて育っていたが、決してアホではなかった。本棚にあった魔導書をくまなく読み進め、自分で解読してきた経験を持つ。教師よりよく学び、仙人よりよく己を律した。そのおかげか、精通もまだ経験していない。

 自分なら、この火を止められる。ジョシュアは、汗をかきながらも術式を必死で組む。ある魔物を召喚するために。

 まずは魔法陣を呼び出し、周囲を取り囲んだ。これで、屋敷は安全になるはず。

「来い。フェンリル!」


 魔法陣の外に、別の魔法陣を喚び出す。


 氷山が狼の形をとったような白き獣を、ジョシュアは呼び出そ
うとしていた。氷系召喚獣のトップクラスだ。

 フェンリルなら、この炎を消し去ることができる。

 しかし、十代前半な若造の要求に応えるほど、フェンリルは甘くない。そんなことくらい、ジョシュアだって知っている。

「ボクの寿命を全部やる! お前がこの地に過ごす権利を与える。だから、ボクの言うことを聞けぇ!」

 手から、血が滲んできた。ジョシュアの血液を糧に、白き狼が姿を現そうというのだ。

「やめろジョシュア! うわああ!」

 父ウォールバーグ侯爵が、ジョシュアの詠唱を止めに入った。しかし、炎の熱気に煽られて、下がらざるを得ない。

「ボクのいうことを聞け、フェンリル!」

 ありったけの魔力を召喚用の魔法陣に注ぎ込み、ジョシュアは狼に呼びかけた。

「炎を食ってしまえ! そしてその優雅な姿を、ここに!」

 オオオ、と、低い声が魔法陣から漏れ出す。

 炎が、魔法陣の中へ吸い込まれていった。森を焼き尽くすほど広範囲だった灼熱が、あっというまに沈静化していく。

「何が起きているんだ?」

 父である侯爵も、呆然としていた。ただひとつわかったことは、ここに喚び出された雪の狼によって、自分たちが救われたことだけだろう。

 召喚したジョシュア自身も、驚きを隠せなかった。

 ワオーン……。

 遠吠えが、黒ずんだ森に鳴り響く。

 気がつけば、炎はすっかり姿を消していた。

 代わりに現れたのは、白く輝く毛並みを持った、モフモフの獣である。フェンリルだ。人間サイズの狼で、二本脚で立っている。
 人狼ルー・ガルーと思われたが、違うようだ。山火事による炎を吸って、実体化したのだろう。

「ありがとう、フェンリル」

 ジョシュアが、ヒザから崩れ落ちる。そのまま、仰向けに倒れ込んだ。

 ポフ、という感触に、ジョシュアの身体が包まれる。

 あったかい。火災による熱とは違う。サラサラの毛並みに覆われると、二度と出て行きたくなくなる。

「本当にありがとう、キミはボクの守り神だ……」

 寿命を犠牲にした反動か、ジョシュアの命は消えかかっていた。せめて感謝の気持を伝えたいが。

「言葉は通じないか」

 フェンリルは、どこ吹く風である。
 この地にとどまって、あちこちをキョロキョロと見回す。
 すべてをあきらめた様子で、フェンリルはジョシュアを抱きしめるようにあぐらをかいた。ため息をつきながら。

「ごめんね。キミがしゃべれたらいいのに。そうしたら、ずっとボクたちは友達だよ」

 そういって、ジョシュアは眠りにつく。

 眠る間際、白き狼はずっと月を眺めていた。



「起きなさいっ。アンタ、いつまでアタシの股の間で寝てるのよ? 女の股ぐらで寝ていいのは赤ちゃんだけよ!」

 翌朝、ジョシュアは聞き慣れない声で目覚める。いつの間にか、ベッドで眠らされている。ずっと寝てしまっていたのか。

 しかも、まだ生きていた。

「ほら、どいたどいた!」

 フワッとした肉球に蹴り飛ばされて、完全に覚醒する。

「あー漏れる漏れる」

 声の主は、フェンリルだった。フェンリルはジョシュアを押しのけるや、一目散でトイレに駆け込んだ。立ちションを始める。

「はあー、生き返るわぁ」

 身体をブルッと震わせて、小用を終えた。

「ボクはジョシュアだよ。えっと、キミはフェンリルだよね?」
「そうよ。アタシの名前はテオドーリヨ・マクファーレン。長いから、リヨでいいわ」

 リヨと名乗ったフェンリルが、洗面台で手を洗う。水に浸した手で、自慢のシッポを撫でる。

 本当に、フェンリルがしゃべるなんて思ってもいなかった。
 神様に、自分の思いが通じたのだろう。
 ジョシュアは、神に感謝した。

「まったく。いくらフェンリルのシッポが寝心地いいからって、お昼前まで寝るなんてありえないわ! 痕が付いたらどうするつもりだったのよ!」

 ベッドに戻ったリヨは、愛おしそうに美しいシッポの毛づくろいを始める。

「ごめんなさい。あまり経験がなかったから」
「まあいいわ。それよりジョシュア、お腹がすいたわ。何か食べるものはないかしら?」

 リヨが腹をさすった。

「わかった。今生肉を持ってくるよ。ウチのお肉は産地直送だから超美味しいよ」

 その軽さは、子どものジョシュアが三枚ペロリと食べてしまうくらいだ。

「はあ? ちゃんと焼きなさいよ。部位はリブロース、表面焦げ目で中身はレアよ、レア。あと赤ワインもちょうだいね。大至急」
「そんな言い方ないだろ? 仮にもボクはキミのご主……じゃないな。友達だぞ? 親しき仲にも礼儀あり、っていうじゃないか」

 召喚獣の中でも、フェンリルは最上位に位置するのだ。
『飼い主』なんて言い方はふさわしくないだろう。
 ましてや『ご主人さまと』呼ばせるような主従関係は、取りたくない。

「はいはい。ザコ友ね」
「ザコ!? ボクがザコだってのかい?」

 動物と話せるようになったことを、ジョシュアはちょっとだけ後悔した。
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