インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される

椎名 富比路

文字の大きさ
31 / 48
第三章 魔法科学校の秋は、イベント盛りだくさん 魔法体育祭と、スティックチーズケーキ

第31話 ドナシアン・カファロ

しおりを挟む
「で、私に意見を聞きに来たのですね?」

 長い髪をお下げにした初老の男性が、モノクルをクイッと上げた。彼こそこの『金曜日の恋人』の店主、ドナシアン・カファロである。

「そうだ。ドナシアン。また、よろしく頼むぜ」

 オレは金貨を持って、ドナシアンのカフェ『金曜日の恋人』に頼み込んだ。

 彼のメニューはナポリタンやハンバーグなど、まさに洋食店さながらである。まさに古き良き純喫茶と言っていい。金曜日のモーニングを担当する。「金曜日の人」とあだ名もついていた。

「いやあ、イクタさん。ほんとにあなたの周りは、女子生徒に囲まれて、うらやましい限り」

「あんた結婚してるじゃん」

「大昔の話ですよ」

 彼はオレと違って、既婚者だ。男女二人の子どもがいて、三人の孫がいる。その一人は、リックワード魔法科の女子幼稚舎に通っているのだ。

「人気はあんたがトップじゃねえか」

「モーニングは、ですね。定番のお昼なら、あなたがぶっちぎりではありませんか」

「いや、女子は洋食が好きだぜ」

 ドナシアンの店でもっとも特徴的なのは、プリンやショートケーキ、メロンソーダなどがあること。本質はカフェなので、三時以降の放課後にこそ本領を発揮する。

 よって、放課後も過ぎた遅い時間に頼みに来た。これなら、邪魔は入らない。

「私も、地球のグルメに魅了された者。この文明を広めることは、私にとってもうれしい限りです」

 モノクルをクイッと上げて、ドナシアンは微笑む。

「とはいえ、我がレストランの秘伝を、お教えするわけには参りません」

「だよなあ」

 レシピをくれって、言っているようなもんだし。

「お店では出せませんが、我が孫に提供しているデザートなら、聞かせてもよろしいかと」

「本当か?」

「ええ。ありあわせのものを使いますので、材料費なんて安いものです。なのに絶品という最強コスパスイーツですよ」

 ドナシアンが、透明な保存袋と型を用意した。

「どこでそんなレシピを学ぶんだ?」

「これですよ」

 スマホを、ドナシアンが取り出す。料理サイトかよ。

「ああ、その手があったな」

「でもあなたでは、アイデアまでは出てこないでしょう?」

 違いねえ。料理ってのは、相手が何を求めているかまで把握していないと、うまいものは作れない。

「私が実技でお教えしますから、ついてきてください」

 ドナシアンも、これから同じものを作るという。

「まずは、これを」

 市販のビスケットを、ドナシアンは用意した。オレでも知っている、メーカー品だ。

「それ、ウチのばあちゃんの家にずっとあったやつだ」

「馴染みがあるなら、尚更いいでしょう。これを透明な包みに入れて、砕きます」

 ビスケットを保存袋に入れて、麺棒で砕く。レンジで溶かしたバターも、一緒に投下。

「地球の文化はすばらしい。魔法が発達しなかった代わりに、このような文化が日々進歩している。魔法科の教員なら嘆くところでしょうけど、それは宗教上の理由から。私は無神論者ですから」

 地球の技術をたたえながら、ドナシアンがトントンとビスケットを砕き続けた。

「まったくだ」

「では、作業を続けましょう」

 クッキングシートを敷いた型に平たく押し込んで、冷蔵庫で冷ます。

「続いて、柔らかくしたクリームチーズの中に、砂糖、卵、生クリーム、レモン汁、ふるった小麦粉の順で加えます」

 さっきビスケットを入れた型に、混ぜたチーズを流し込んだ。ラッピングをして、しばらく空気を抜く。

「一七〇度のオーブンで、四〇分ほどで結構です」

「わかった、待ってろ」

 時間操作魔法で、ドナシアンのケーキと一緒に短縮しようとした。

「いえ、結構。まだ工程が残っていますので、そのときで十分です」

 焼き上がりを待つ間、コーヒーを淹れてくれる。

「妻直伝のコーヒーです」

「ありがとう。うまい」

 ドナシアンのドリップコーヒーは、香りもいい。

「昔のあんたとは、大違いだ」

 今でこそ好々爺であるが、当時のドナシアンは近づきがたいカタブツだった。

「頭でっかちだった私を目覚めさせてくれたのは、地球生まれの妻です。彼女のコーヒーと出会って、私は雪解けを迎えたのです」

「奥さん、元々洋食屋だったんだよな」

 本来、『金曜日の恋人』は、奥さんの方である。

「ウェディングケーキを生徒のために作ってやれ」という提案も、ドナシアンの奥さんからいただいたアイデアだ。

 今は腰を痛めて、食材の管理に回っている。夫が、代わりに厨房に立つことに。

「彼女と出会って、私は有能な魔法学者ではなくなった。しかし、それ以上に得るものがあるのです」

 料理を作るドナシアンは、実にうれしそうだ。

「ツヤ出しに、アプリコットのジャムを塗ります」

 これを冷蔵庫で、冷やせば完成だ。一日半ほど、寝かせるといいらしい。

 こちらはさすがに、時間を操作して工程を短縮した。

「あとは棒状に切り分けて、できあがりです」

 早速、試食してみる。

「うまい!」

 ザクッという食感と、チーズケーキのしっとりした舌触りが絶妙だ。

 ビスケットで下地を付けているため、持ちやすいのもいい。

「ありがとう。残りは、奥さんとお子さんに」

 なんのお返しもしていないからな。

「すばらしい。イクタさんのそういうところが、女性のハートを射止めるのでしょうな」

 よせよ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...