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第一章 家出少女と、客を寄せ付けないパンダ
第4話 新入社員はパンダ獣人
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「はて?」
「正直な話、ムーファンは冒険者に向いていません」
リーダーを務める魔法剣士少女は、ムーファンを心配しているようである。
ムーファンは当初こそ体力自慢で重宝したが、今では戦闘について行けず持て余しているという。
「幼なじみなので連れてきたんですけど、限界です」
「仲違いでも、してるんか?」
「そうではありません。危険すぎるんです」
彼女たちは、さらに危険なダンジョンに向かおうとしていた。しかし、ムーファンのことを考えて弱めのダンジョンを攻略し続けている。
「酒場でお留守番を頼む案も考えました。が、一緒に冒険できないなら、組んでも無意味です」
冒険者である以上、本懐はトレジャーハントだ。それに参加できないのであれば、パーティを組む必要性がない。
「なんの話?」
交渉を終えたムーファンも加わる。
「ちょうどいいところに来た。お前の進退について、話し合っていたんだ」
「やっぱり、あたしって邪魔かな?」
リーダーは黙り込む。それが回答だった。
「ムーファンは力持ちだし、頼りになる。だけど、これ以上は危ないダンジョンばかりになる。リスクの高い旅に、お前を同行できいないんだ」
魔法剣士の説得に、ムーファンも応じるしかない様子である。
「わかった。今までありがとう」
「待て。これは退職金だ」
相応の金額を、リーダーはムーファンによこした。
「装備も、持っていっていい」
「いいや。もう戦闘はしないから」
そちらで換金してほしいと、ムーファンはヨロイなどを脱いだ。
「ならば」と、仲間の男性狩人が、ムーファンの装備を見繕う。
「こちらこそ、今まで助かった」
狩人は、使いまわせそうな装備は他のメンバーに渡す。残ったアイテムの売却額を、ムーファンへ。
「ううん。足を引っ張っててゴメンね」
「何を言うんだ。がんばってきたじゃないか」
ムーファンの仲間たちは、「それじゃあ」とギルドを後にする。彼らが向かう先は、暗雲が立ち込める山道だ。たしかに、あんな怖い土地にムーファンを連れていけないだろう。
感傷に浸っている場合じゃない。お仕事お仕事。
「ほな、引っ越しの仕事をするんやが、やってみるか?」
「はい。教えてください」
目的地まで向かいながら、ジュディ社長がムーファンに指導をする。
私たちが向かうのは、街の雑貨屋さんだ。
依頼者は行商で金を貯めて、念願の店を持ったのである。実家の家財道具一式を、こちらに持ってきたいと言ってきた。
「ようこそ。ささ、こちらへ」
店主の男性が、私たちを招く。
「家具雑貨類の置き場所で指示があったら、言うてください」
「はい。では、お手洗い関連は、我が家で担当します」
汚れ物類は、店主自らが行うという。
さすがだ。経営者のセオリーである「汚い場所は、社長自ら率先して」という教えを守っている。
父も見習ってほしかったな。
私たちは、キッチンに家具をドンと置く。
「ムーファン、一人で持ってきたの?」
「まずかったかな?」
「ううん。丁寧だから、びっくりした」
もっと雑に扱うと思っていた。
「モンスターのタマゴとか運ぶこともあったから、体幹は鍛えていたんだよね」
トン、と、ムーファンは物音一つ立てずに食器棚を置いた。
「これでよし、と」
ムーファンが一息つく。
「ありがとう。でも、そこじゃないんだよね」
「え?」
「動線が死んじゃう」
通路のど真ん中に食器棚を置くと、誰も歩けなくなってしまう。
きっと運ぶ際に、前が見えなかったのだ。
「あ、そっか! ごめん」
再び、何事もなかったかのようにムーファンは家具を持ち上げる。
「こっちこっち。オーライオーライ」
やはりバディがいると、仕事ははかどる。
「おねえちゃん」
店主の息子だろうか。小さい少年が、私に声をかけてきた。
「なにかな?」
私はしゃがんで、子どもと同じ目線になる。
「お父さんがね、ボクの作ったお茶碗を使ってくれないの」
少年が手に持っているのは、変な形のお茶碗だ。
「正直な話、ムーファンは冒険者に向いていません」
リーダーを務める魔法剣士少女は、ムーファンを心配しているようである。
ムーファンは当初こそ体力自慢で重宝したが、今では戦闘について行けず持て余しているという。
「幼なじみなので連れてきたんですけど、限界です」
「仲違いでも、してるんか?」
「そうではありません。危険すぎるんです」
彼女たちは、さらに危険なダンジョンに向かおうとしていた。しかし、ムーファンのことを考えて弱めのダンジョンを攻略し続けている。
「酒場でお留守番を頼む案も考えました。が、一緒に冒険できないなら、組んでも無意味です」
冒険者である以上、本懐はトレジャーハントだ。それに参加できないのであれば、パーティを組む必要性がない。
「なんの話?」
交渉を終えたムーファンも加わる。
「ちょうどいいところに来た。お前の進退について、話し合っていたんだ」
「やっぱり、あたしって邪魔かな?」
リーダーは黙り込む。それが回答だった。
「ムーファンは力持ちだし、頼りになる。だけど、これ以上は危ないダンジョンばかりになる。リスクの高い旅に、お前を同行できいないんだ」
魔法剣士の説得に、ムーファンも応じるしかない様子である。
「わかった。今までありがとう」
「待て。これは退職金だ」
相応の金額を、リーダーはムーファンによこした。
「装備も、持っていっていい」
「いいや。もう戦闘はしないから」
そちらで換金してほしいと、ムーファンはヨロイなどを脱いだ。
「ならば」と、仲間の男性狩人が、ムーファンの装備を見繕う。
「こちらこそ、今まで助かった」
狩人は、使いまわせそうな装備は他のメンバーに渡す。残ったアイテムの売却額を、ムーファンへ。
「ううん。足を引っ張っててゴメンね」
「何を言うんだ。がんばってきたじゃないか」
ムーファンの仲間たちは、「それじゃあ」とギルドを後にする。彼らが向かう先は、暗雲が立ち込める山道だ。たしかに、あんな怖い土地にムーファンを連れていけないだろう。
感傷に浸っている場合じゃない。お仕事お仕事。
「ほな、引っ越しの仕事をするんやが、やってみるか?」
「はい。教えてください」
目的地まで向かいながら、ジュディ社長がムーファンに指導をする。
私たちが向かうのは、街の雑貨屋さんだ。
依頼者は行商で金を貯めて、念願の店を持ったのである。実家の家財道具一式を、こちらに持ってきたいと言ってきた。
「ようこそ。ささ、こちらへ」
店主の男性が、私たちを招く。
「家具雑貨類の置き場所で指示があったら、言うてください」
「はい。では、お手洗い関連は、我が家で担当します」
汚れ物類は、店主自らが行うという。
さすがだ。経営者のセオリーである「汚い場所は、社長自ら率先して」という教えを守っている。
父も見習ってほしかったな。
私たちは、キッチンに家具をドンと置く。
「ムーファン、一人で持ってきたの?」
「まずかったかな?」
「ううん。丁寧だから、びっくりした」
もっと雑に扱うと思っていた。
「モンスターのタマゴとか運ぶこともあったから、体幹は鍛えていたんだよね」
トン、と、ムーファンは物音一つ立てずに食器棚を置いた。
「これでよし、と」
ムーファンが一息つく。
「ありがとう。でも、そこじゃないんだよね」
「え?」
「動線が死んじゃう」
通路のど真ん中に食器棚を置くと、誰も歩けなくなってしまう。
きっと運ぶ際に、前が見えなかったのだ。
「あ、そっか! ごめん」
再び、何事もなかったかのようにムーファンは家具を持ち上げる。
「こっちこっち。オーライオーライ」
やはりバディがいると、仕事ははかどる。
「おねえちゃん」
店主の息子だろうか。小さい少年が、私に声をかけてきた。
「なにかな?」
私はしゃがんで、子どもと同じ目線になる。
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少年が手に持っているのは、変な形のお茶碗だ。
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